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ナンセンスと狂気は紙一重

好天に誘われ、ドライブを兼ねて豊川市は桜ヶ丘ミュージアムへ行ってきた。目的は「明和電機ナンセンスファクトリー」。明和電機といえばオタマトーンだし、オタマトーンといえば明和電機のあのロゴがぱっと思い浮かぶ。オタマトーンに至るまでの道のりとオタマトーンのその後が見れると思い、ワクワクしながら出かけた。

桜ヶ丘ミュージアムへ行くのは初めて。豊川市街にある美術館で規模は中くらい。1階は郷土資料室と常設展示室、貸しギャラリーとして使われている部屋などがあった。小部屋が多くて市民による利用が多そうなイメージ。「ナンセンスファクトリー」展は2階の展示室すべて+ロビーを使用して展示してあり、明和電機の歴史からシリーズ紹介からファクトリーの構成要素の解説まであって、結構な情報量だった。

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明和電機の社長こと土佐社長の創作の原点が「魚」にあったのがとても不思議で興味を惹かれた。解説によれば「自分とは何か」を突き詰める過程で魚をモチーフにした作品を作ることを思いついたというのだが、作ることで何かが解明できたのかどうか…。傍目にはカオスを深めたというふうにしか見えないが、結果的にはカオス上等だと思う。

第一展示室には「魚器(NAKI)シリーズ」という奇妙な音を出すガジェットのシリーズがアルファベット順にAtoZまで並べられていて、ここですでにナンセンスを通り越し狂気を感じるなど。

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たとえばコレ。魚のホネをかたどったUSBケーブルで、これ自体は遊び心があって思わず買いたくなるブツで、世の中にはそう思う人が多かったのか、海外の雑貨ショップで無断コピーされ格安で販売されてしまった。普通はそこでコピーをやめさせるべく何らかの法的措置をとるものだが、明和電機は無断コピーされた品を買い集め、それらに「明和電機」のロゴをつけて自らの作品として販売してしまうという斜め上の反撃(?)に出た。結果、完売。無断コピーをしたショップは自分の店からこの魚ケーブルをすべて引き上げることに。このノリはどことなく既視感があって、なぜかハイレッド・センターの活動を思い出してしまった。

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これは「魚器(NAKI)シリーズ」のひとつ。魚の胴体部分に弦が張られており、ヒレを閉じた状態で回転させると音が鳴るという仕組み。見た目は結構カッコいいと思う。(ここで「だから何?」という問いは無効)
実は隣に半分だけ写っている「Uke-TEL(ウケ-テル)」が相当ヤバい代物で、時報に合わせて吊り下げられた針が真下に落ち、”タイミングによっては”下の器の中で泳ぐ魚に刺さるという。意味不明どころかホラーだ。

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それに比べたら、上記のZIHOTCHは素直に笑えて楽しい。ダイヤル付きの腕時計ってどうよ? 時間を知りたいと思うたびに117にダイヤルする時計、ナンセンスの極み。

明和電機の作品シリーズはだんだんと狂気の色が薄まり、さまざまな手作りリズムマシーンや楽器としての人工声帯の試作を経て、商業的にはオタマトーンというヒット作品を生み出すわけだけども、その他にも面白い手作り楽器キットを発売している。
「とりあえず押すと何か面白い音が出る」というのがミソで、何種類か組みあわせて鳴らすと音楽っぽい何かができる→いくつものパターンを試して洗練させてゆく→オリジナルな音楽の出来上がり、みたいな感じで、だれでも手軽に好奇心を燃料にして音楽っぽい何かを作れるのはとてもいいなと思う。
普通、音楽を作るとか演奏するとかいうと、まず機材をそろえたりちゃんとした楽器を用意するのにお金がかり、さらに長期間に渡る訓練が必要だったりするけれど、その過程をすっとばし、叩いて音を出す、というもっともシンプルな方法で本能の赴くままに音楽を奏でることができても良いのだ。ギターをマレットで叩いて音を出してもいいし、スイッチパッチンで木魚を鳴らしたっていい。
そうやって常識を剥がしていった先に見えてくるものや捕まえられるものがあれば、それは「自分」のかけらかもしれない。

で、ショップにどっさり並んでいたオタマトーンを買ったかって? 実は音楽センスが皆無なもので、あれを使いこなせる気がまったくしなくて、今回も見送ることにした。なにしろびおら弾きだからな、自分……。

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