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ひたすら「いい…」と呟ける場所

ようやく春めいてきたかと思える3月半ば、古川美術館別館の爲三郎記念館で開催中の「Scenery―景色とつながる4つのメソッド」を見てきた。

爲三郎記念館入口

爲三郎記念館というのは、映画配給会社ヘラルド映画創設者として知られる実業家・古川爲三郎さんの住まいだった数寄屋作りの邸宅を、展示ができるようにした施設。名古屋の池下という高級住宅街の中にあるのだけども、街なかにあるとは思えない立派な庭園を囲むように建てられ、どの部屋からも庭の眺めが見事。部屋の作りも細部まで凝っていて、とても素敵な空間になっている。

素敵なお庭。正面に見える陶器たちは今回の出展作品のひとつ、中田ナオト《シネマセン》
古川為三郎といえばヘラルド。ヘラルドといえばシネマだけど…シネマ-セン…死ねません?!

さて、この空間を活かす形で4名の現代アート作家が作品を展示をすることになった。現代アートと古い家屋の組み合わせは今どき珍しくないけれど、作品と建物がどんなふうに響き合っているかは、それこそ一期一会で、上手くいってるケースもあれば、時おり残念なケースもある。

今回はとてもいい具合に溶け合っているなという印象だ。むしろ作品の方が控えめだったかもしれない。いや、控えめというというよりは、名古屋の文化に貢献した古川爲三郎氏へのリスペクトが十分に感じられ、建物の良さを邪魔しない、あるいは上手く活かしているのだと思う。

葵の間 中田ナオト《知恵ダイエット》と近藤正勝《A BIRD (Looking Up)》
最初に足を踏み入れる葵の間はイントロダクション。4人の作品が一堂に会する
米山より子《あめつちのうた 大桐の間》
これは実物を見ないと「何のこっちゃ?」となるやつ。逆に間近で見ると紙の質感や色、構成の美しさに「ふぉぉぉ……」と立ち尽くす。
浮観の間 三田村光土里《光の歩く部屋》
このインスタレーション作品が一番ズキュンときた。とても見事な爲三郎記さんへのオマージュ。

あと、写真は撮らなかったが、中田ナオト《爲三郎シャンプー》という映像作品も面白くて、爲三郎氏の写真パネルを洗う様子がユーモラスなのと同時に、氏の残したものや記録のリニューアルを表しているのかとも深読みできてしまった。

鑑賞タイムのしめくくりはコレですよ

爲三郎記念館のいちばん良いところは、カフェが併設されているところ。庭の眺めが良い窓際はもちろん、あちこちの部屋にカフェメニューと呼び鈴が置かれ、鑑賞者は好きな場所でお茶とお菓子を楽しむことができる。ひとりで作品と対話しつついただくのも良し、友人同士で語り合いながらティータイムにするのも良し。忙しすぎて心を亡くしそうなときの避難場所にぴったりじゃないかと思う。

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