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櫻井周斗、鳥になれ

またひとり、左腕がチームを去る。2018年入団のサウスポー櫻井周斗、現役ドラフトで指名されたイーグルスへ移籍する。

タナケン、笠原、エスコバーと続いて、このシーズンオフに4人目だ。今永ももうすぐメジャー移籍が決まるだろう。実績ある左腕が計▼5人。ちょっと珍しい。

山崎福也と石田健大、ベイ的にFAで大騒ぎしたが、大山鳴動してなんとやら。

ドラフト3位で武田投手が入団したとはいえ、彼は今は高校三年生の冬休みの真っ最中。二刀流は楽しみだが、武田二刀流実現のためには、ローテに入るだけのスタミナとコーナーワークの構築が前提だ。

そして櫻井周斗も、入団当時、高校通算32本塁打の実績を引っ提げた打力も魅力の選手なのだ。

投手として、プロ6年間で未勝利。もちろん役割的に勝利数が彼の投手としてのフェアな評価基準とはいえないが、投手志望で入団した本人としては納得のいく実績ではないだろう。

翻って、ミニマルな打席数とはいえ、一軍の通算打率は驚異の.375だ。9打席8打数3安打1打点。打点1は今やチームの天敵、タイガースの伊藤投手から打ったレフト前タイムリーヒットだ。序盤で勝負のついた試合とはいえ、中継ぎ投手がチャンスで打席に立って、左対左でタイムリーヒットを放つという、そのひとコマを切り取っても彼の非凡な打撃力がわかる。

その2021年、チームは最下位に沈んだが、彼は中継ぎとして活躍しただけではなく、2-2の打率10割でひっそりと櫻井的プチ二刀流を実現した。

高2の秋の都大会で早実の清宮から5三振を奪ったことで、各球団のスカウトの注目を集めた。それがなければ、プロ入りの夢は叶わなかったかもしれないし、進学や社会人の道を経て、シュアな打撃の野手としてキャリアをスタートしたかもしれない。

2017年のセンバツに出場した高3の春、イーグルスの仁村徹スカウト副部長(当時)が「度肝を抜かれた。広島の丸みたい。強く振れる」と評した。
ベイスターズの吉田編成スカウト部長(当時)も「投げることも打つことも野球センスがある。GMと話していて、彼に(どちらで勝負したいか)聞きたいと思っていた」。
と好打者櫻井を評している。

運命といえば運命なのだが、あの清宮幸太郎を抑え込んだ男としての肩書がプロに入って6年間、良くも悪くも彼を支配している。本人も「プロで野球をする限り、彼との対峙が続く」と、強烈なライバル意識を隠さない。

ストレートとスライダーで通用した高校時代から、プロに入って、チェンジアップなど球種を増やしてきた。球種の探求とアマチュア時代にも経験した肘の不調との因果関係は、外からわからないが、支配下復帰となったので、心配無用と信じる。

復帰後、松井裕樹投手を彷彿とさせる投げ下ろすフォームは、変わらずダイナミックだ。肘への負担を考慮してテイクバックにマイナーチェンジが入って、フォロースルーの左脚のキックが少し控えめになった気もするが、アドレナリンの出方は一軍とファームでは違うだろう。

タイトルの「鳥になれ」は同じ左腕の今永先生の名言を拝借した。
鷲を冠するイーグルス移籍で、バッター転向という選択肢は多分なくなったが、金の翼を得た。後には引けない。確かに清宮との公式戦の初対決は僕も楽しみだが、櫻井が抑えるべき相手は彼だけではない。

鳥になるには、同級生の清宮や安田を過度に意識するより、得意のスライダーで頓宮や万波のような強打の右打者の内角を抉るのだ。

内部昇格とはいえ、新監督のチームに移籍するのはラッキーだ。おそらく、今江監督は、櫻井周斗に松井裕樹のイメージをダブらせている。則本が内定しているとはいえ、花札なら松・梅・桜...
櫻井は松井の後釜として切札を引継ぐには絶妙の人選であり、チャンスだ。横浜で開花して、今は花冷え期間だが、仙台で満開、そして息の長い活躍を期待している。育成期間と苦しいリハビリを経て復活したのだ。ベイスターズの現役ドラフト輩出選手は抜群の実績を誇るのだから、自信をもって飛ぶ鳥になれ、櫻井周斗!

「お前ら全員目を閉じろ。俺らは崖っぷちだけど崖っぷちじゃない。俺らは鳥だ!鳥になるんだ」

(2017.11.1  by 今永昇太)

ちなみに櫻井は元乃木坂46の齋藤飛鳥のファンでもある。

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