化学実験教材の紹介〜科学コミュニケーションを用いた活動~
3年生の最後の授業として科学コミュニケーションの活用した一連の活動に取り組みました。活動(授業)回数は本番合わせて10回くらいです。かなり面白い展開ができましたので、ここnoteにまとめてみました。活動にしろ実験内容にしろ、これをご覧になっていただけた皆様の授業ヒントになれば幸いです。
1.活動の概要
科学コミュニケーションを軸とした活動ですが、コミュニケーションをとるホスト側は”生徒”です。生徒がホスト側でするのにはいくつも目的があります。具体的には「科学的知識・実験技能の習得」「コミュニケーション能力の習得」「科学を市民に広げる態度の獲得」などが挙げられます。「科学を市民に広げる態度」については、ファラデーに代表される科学者の例を出しその重要性を説きます。
この活動においては生徒自身が「与える側」になり、そのためには何ができるか、何をすべきかを自ら探究する必要があります。当事者意識が芽生えた生徒たちは、自ら目的を理解しその方法を検討します。
実際は発表まで含めた活動は10回ほどでした。実験の決定で2時間、実験条件の検討で5時間、提示方法の検討で2時間、発表1時間といった所です。どの班も”これを魅せたい!”という思いがあり、個性が出ていました。班は全部で4班です。
発表する対象は現在理系の2年生(後輩)と、他教科の先生方です。科学を知らない(勉強中の)これらの方々に「科学の面白さ」はもちろん、「科学的思考の面白さ・重要性」も伝えなければなりません。ショー的な面白さだけでなく、「何に使われているか」「なぜこのようになるのか」「どのように工夫したか」「どのような失敗をしたか」などを話の中心にすえることを初めに伝えました。
本番の活動時間は約20分としました。4班ありますので、発表の日を2回とり、1日目にA班とB班が、2日目にC班とD班が活動するといった具合です。1日あたり2年生は12人来てもらい、A班とB班を同時に6人ずつ見てもらいます。そして20分経ったら見る班を交代して再度見学するといった具合です。
2.実験の紹介
4班ありましたが各班の活動を簡単に紹介します。みなさんの高校でも実演可能なものだと思います。
A班 硫黄と亜鉛の化合&ニトロセルロースの燃焼
ニトロセルロースの合成 濃硫酸と濃硝酸を1:1で混ぜた混酸に、綿を浸し1時間ほど放置。その後丁寧に水洗いし4日ほどかけて乾燥させる。エタノールでの洗浄は無し。(教員がしました)
硫黄と亜鉛の化合 粉末硫黄と粉末亜鉛をとり、混合した後に加熱。初めに硫黄が融け、亜鉛が融け、硫黄が発火した後に爆発的に反応する。これは生徒が条件を検討しました。(スモールスケールで試すようには指示しました)
ニトロセルロースの燃焼 少しちぎって手の上にのせ、熱したガラス棒に触れさせると一瞬で燃え尽きます。これも3年生主導で2年生たちとコミュニケーションを取りながら演示しました。
この班はコミュニケーションをとるのが上手で、1発ショー寄りの実験にもかかわらずうまく説明を行っていました。
動画は予備実験のニトロセルロースの燃焼です。
B班 銀鏡反応とヨードホルム反応
ここまで来て記事が書くのに時間がかかっていますので、具体的な操作は省略します(超定番なので)。3年生が2年生にホワイトボードを使い、問いかけながら進めていきました。やっぱり、銀鏡ができたときは皆おぉ~って言っていました。
画像は予備実験のものです。こんな感じの鏡が作れます。
C班 象の歯磨き粉
過酸化水素とヨウ化カリウムを中性条件で混合することで酸素が発生し、泡になる実験です。ヨウ化物イオンが触媒としてはたらきます。一部は酸化還元反応を起こしヨウ素が生成します。過酸化水素は原液(35%)、ヨウ化カリウムは高濃度(条件忘れました)で、混合前にヨウ化カリウムを加熱することで反応速度が増し、より泡立ちます。
提示の際は1度わざと常温、低濃度で失敗し、速度を上げるにはどうすればよいかという問いかけをすることでコミュニケーションを図っていきます。これは実際にこの班が失敗し、どうすればできるかということを考えたのですが、その思考ステップの再現となります。
画像は混合後です。あわがもこもこ出てきます。
D班 フェノール樹脂(ベークライト)の合成
フェノールとホルムアルデヒド混合後、10%アンモニア水を数mL入れ混合した後水酸化ナトリウムを1粒溶解させ、穏やかに加熱します。ホルムアルデヒドがあまり拡散しない様な工夫を生徒たちが考えていました。加熱中に反応や構造、用途や歴史的な経緯(世界初のプラスチックですね^^)等を説明しつつ反応を見ます。数分加熱すると黄色い樹脂が生成し、取り出してみると硬いプラスチックができています。透明できれいです。こちらの班も、プラスチックを容器から取り出したときおぉ~と歓声が上がりました。
画像は予備実験時のものです。昔はアクセサリーなどにも用いられていたそうです^^
3.ゲスト側の反応
ゲスト側にも非常に良い機会となりました。2年生に関しては科学の面白さや深淵さを体験できたでしょう。他教科の先生方には「うちの生徒がここまでできるんだ」ということを実感して頂けたともいます。
4.教員側として
書くのが疲れてきましたので、最後に私の感想をまとめさせていただこうと思います。この活動はホスト側、ゲスト側の双方にとって得たものが非常に大きかったと感じました。3年生は実験を主体的に行いトライ&エラーを繰り返しながら、目標に近づくというまさに科学的なステップを経験できました。また、それを広く伝える大切さとむつかしさを実感できたと思います。ゲスト側も科学に触れられたこと、理科教員でなく3年生とコミュニケーションをとったことが良い経験になったのでは無いかと思います。また、指導する教員側の力量も問われます(私があるという意味ではもちろんありませんよ)。特に実験の指導ができないと、最終的なゴールにたどり着けないでしょう。
百見は一触にしかず。を地で行った活動となりました。そしてここまで読んでいただけた皆様も、これを読むだけでなく実際に実験してみてください。やはり実験とは不思議なもので、やってみないと分からない部分が数多くあります。そんな中でも、生徒たちがアイデアを出し合って実行した今回の活動は非常に価値のあるものになりました。
今後の展開としては
・文化祭などで披露する場を設ける
・2回行い、1回目はチャレンジで2回目は改善点を踏まえてトライする
・総探に組み込めるような活動計画モデルを考える
などです。
にしても、、、本当に楽しかった~^^ また実験のアイデアが浮かぶような活動となりました。
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