新聞記者を鑑賞して

序盤から暗い雰囲気で淡々と、冷静に物語は進められていく。その後も光度の低い画面で構成されている。これは、映画の重い内容と調和させる為である。またこの作品は、反政府映画と捉えられる作品でもあるだろう。今現在も様々なニュース、見出し、トピック、情報が混在しているが、それは本当に真実なのかということを直接的に私たちに問いかけていた。
内閣調査の場面は暗くて冷たい色合いで固定カメラにしている。逆に新聞記者の場合は揺れるような撮り方にしていて、記事にできることが決まったら固定カメラになる。これは、カメラワークで場内の雰囲気やことの成り行きを表している。憂鬱で陰湿な雰囲気を醸し出すための青い色味が特徴的だ。
「嘘をでっちあげるんですか?」
「嘘かどうか決めるのはお前じゃない。国民だ。」
この台詞は、私たちがあてにしているメディアの恐ろしさを表現している。たとえ嘘の情報を流したとしても国民が信じればそれは真実になるということだ。私たちはメディアリテラシーが大切な時代と言うが、私たちの力だけでは分別出来ないほど深い部分に闇が隠れているのだ。
また、中盤に出てきた「羊の絵」は政府が隠蔽しようとしていたものと重なるように話が展開されていく。絵の羊は両目が潰されたたった一頭の羊である。それは、真実を見ることの出来ない政府の盲目さと、登場人物の孤独さが表されているのではないか。また、この絵の送り主がわかるシーンでは恐ろしさを感じると共に、送り主の訴えたかったことを伝えている。視聴者側とともに推理していく内容は多くあるが、推理してから分かるまでの伏線が重要だ。観る側が全く予想のできないことが突然起こると、推理のしようがなく、衝撃のみで終わってしまう。しかし、ある程度伏線が張ってあって、この人なのではないか、というこちら側の心理を操ることで映画の面白みが増す。この作品では、序盤からしっかりと伏線が張ってあり、徐々に伏線回収していく所が私たちを映画に引き込むキーポイントとなっている。
終盤、主演の俳優の顔から血の気が引き、生気がなくなっていく様子は、明るいと思って走ってきた未来が暗闇だったことに気づいたかのようであった。正義を貫くのか、権力に屈するのか、表情だけで語るラストに観る側は圧倒される。このラストシーンは政府への批判、そして訴えなのではないか。監督は、映画の面白みを突き詰めたストーリー重視というよりは、今の日本の恐ろしい状況を素直に伝えることを重視しているように思う。

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