残響 【カリギュラ2二次創作】

pixivに載せたやつの再掲です。

注意!!
・釣巻鐘太のキャラクターエピソードの内容を含みます
・モブ視点がメインです


「残響」

自分の命の恩人に名前を聞けなかったことを後悔した、或る少女のおはなし。


8月のある夏のことだった。
その日はたまたま寝坊してしまって、朝食を食べずに部活に行った。テニス部なのでもちろん活動は屋外。頭上から降り注ぐ日光が地面をジリジリと照りつける。日影で休憩を挟みつつ水分もなるべくこまめに摂り、十分熱中症には気をつけていたものの、やはり途中で気分が悪くなってしまった。少し休んで体調は回復したが、大事を取って午前中で帰らせてもらうことになったの。しかし今は夏休み期間の平日。両親は仕事だから迎えには来られない。


最寄駅から自宅までは大体歩いて15分くらい。毎日通っている道だし、気分も良くなってきたから大丈夫だろうと思ってそのまま歩いて帰ることにした。冷房の効いた最寄駅のコンコースを抜けてロータリーに出ると、体を熱波が包み込んだ。アスファルトは灼けて陽炎が立ち昇り、舗装されて真っ直ぐなはずの道は数キロ先がぐにゃぐにゃと揺れて見えた。暑すぎて少し歩いただけで喉が渇く。水を、と思ってリュックを漁ったが、水筒が見当たらない。最悪だ。学校に忘れてきたのかもしれない。かといってまた電車に乗って学校に戻るのも面倒だし…。
まあ家までの10分15分ぐらいなら我慢できるだろう、そう考えて、家路を急ぐことにした。
あとで後悔することになるとも知らぬまま…。

様子がおかしいと感じたのは、帰り道も半ばに差し掛かったころだった。突然視界がぐらりと揺れて、思わず立ち止まる。その瞬間、ものすごい頭痛と吐き気に襲われ、立っていられなくなってその場に座り込んだ。蝉の声がぐわんぐわんと頭の中に反響してすごく耳障りだった。さっき部活のときに襲われた体調不良よりもずっとひどい。そしてここは家々が立ち並ぶ迷路のような住宅街。近くに助けを求めて駆け込めるような施設は無く、コンビニまで歩く余裕も無い。
どうしよう、お母さんに迎えに来てもらわなきゃ、いやそれより救急車呼んだほうがいいのかな、無理、気持ち悪い、あたまいたい、どうしよう——
どうにか倒れないように近くの電柱にもたれかかって体を支えているものの、だんだん意識が朦朧としてきた。
もうダメだ。きっと私はここで死ぬんだ。

意識がふっと途切れそうになった瞬間、近くに車が停まった気配があった。ドアをバタンと閉める音がして、誰かがこちらに駆け寄ってきた。
「君!大丈夫ですか!?」
やたら大きくて通る声で、蝉の声以上に頭の中に響いた。具合が悪くて…と最後まで言い切ることができないうちに、視界が暗転した。

気づいたときには病院のベッドの上だった。
ベッドサイドでは両親が心配そうにこちらを覗き込んでいた。
医者の話によると、やはり熱中症とのことだった。今にも泣きそうな顔の母親を見ていると、あのときはちょっと考えが甘すぎたなと反省せざるを得なかった。
「あと少し処置が遅かったら大変なことになってましたよ。」
点滴やら酸素やらいろいろな管に繋がれながら、ぼうっとする頭で聞いた医者の言葉が、頭の中にずっと残っていた。

それから念のために入院したものの、すぐに退院までにそれほど時間はかからなかった。私が入院したという話はなぜか部活の友達に既に伝わっていて、部室に顔を出すとものすごく心配された。こうやって学校に行って友達と会って、という何でもない日常を送れるのも、あのとき助けてくれた誰かのおかげなんだと、ふと考えた。

そもそも私はどうして助かったんだろう。
確か道端で座り込んでしまって、それからどうしたんだっけ……?
その先がどうしても思い出せなくて、何か聞いているかも思い、母に尋ねてみた。
「パトロール中のおまわりさんが偶然通りかかって、パトカーで病院まで運んでくれたんだって。」

わたしの命の恩人。
両親や担当の医師、看護師に聞いても名前まではわからなかった。ただわかるのは警察官だということと、気を失う前に聞いた、よく通る大きな声だけ。
できることなら、自分を助けてくれたあのおまわりさんにもう一度会いたい。会ってお礼が言いたい。
自分なりに近くの交番数件を巡って探してみたが、その声の主は見つからなかった。朧げな記憶ではあるものの、そもそも警察官の制服は着ていなかったような気がする。交番勤務のおまわりさん、というよりはいわゆる刑事さんとかだったりするのかもしれない。そうなるとより捜索は困難を極めそうであった。
あれからしばらく私の命の恩人探しは続いたが、それは突然終わりを告げることになった。父の仕事の都合で住んでいた街を引っ越すことになったのだ。結局、命の恩人とは出会えないまま、何年も何年も月日が経った。

あの日から10数年が経ち、結婚もして子どももできた。自他共に認める幸せな人生を送っているとは思う。しかし、その満ち足りた人生において、きっともう一生埋まらないであろう欠けた1ピースとして、その命の恩人の存在があった。
あのときちゃんと顔を見ておけば…。
引っ越す前にもっと必死になって探しておけば…。

泣いた子どもをあやしていると、テレビから流れる最近流行りの機械の歌声が妙にいつもより心に沁みた。


「そこ!!暑いからと言って制服は着崩さずちゃんと着るように!!」
朝から楯節学園のエントランスに響き渡るのは、風紀委員である釣巻鐘太の声だった。今日のように朝から30℃を超えるような真夏でも、毎日朝早くからエントランスに立って、学園の風紀を取り締まっている。中庭に直結しているエントランスは冷房が無く、外と同じようにむせかえるような暑さだった。

釣巻はふう、と一息をついて汗を拭った。体力には自信がある釣巻だったが、今日の暑さは一際堪えた。一瞬立ちくらみがしたが、己を奮い立たせて再び職務に励もうとしていた。
「あの、おはようございます。」
見知らぬ顔の女子生徒が釣巻に声をかけてきた。どうやら後輩のようだ。
「おはようございます。君、どうかしましたか?」
「いや、その…これ、良かったら。」
女子生徒の手に握られていたのは、よく冷えた麦茶のペットボトルだった。ぽかん、とした顔で女子生徒を見る風紀委員に、女子生徒は照れたように言う。
「いつも暑い中ここで風紀委員のお仕事してるあなたの元気な声が最近妙に耳に残るんです。今日は特に暑いからなのかな、あなたを見てたら無性にこれを差し入れたくなってしまって…。うわ、なんかごめんなさい、変なこと言って。えっと、嫌だったら全然誰かにあげちゃっていいんで!!お、お仕事がんばってください!!」
麦茶を釣巻に押し付け、最後はもう半ば言い逃げるような形で、そそくさと女子生徒は自分の教室に向かう。突然のことに呆気にとられていた釣巻だったが、はっと我に返り、そのよく通る声を上げる。
「どうもありがとう!!」

遠ざかっていくその背中に投げられた言葉が、気持ちよく校内に響き渡った。


【あとがき】
最後まで読んで頂きありがとうございます。特定のCPで書いてるわけじゃないしモブ視点メインだしクオリティとか度外視して衝動的に書いたものなので、pixivとぷらいべったーだけでひっそり公開しようかなって思ってたんですけど、Twitterのフォロワーにnoteに載せろって言われたので再掲しました。noteって狂ったオタクのクソデカ感情の坩堝と化してるイメージがあったんですけど、確かにこれもある意味「怪文書」ですよね。

「全年齢向けだしまあ良いか。載せちゃお。」

頭のなかにしまってるアイデアの数より、世に出したネタの数の方が大事だってどっかのオタクの先輩も言ってた。

釣巻、多分クランケが初めて学校に登校してきたときに率先して彼女の車椅子を押してあげる男だし、道端で人が体調悪そうに蹲ってたら絶対放っておかないと思うんですよね。本当は多分その場で救急車呼ぶ方がいいと思うんですけど、あの事件の前の現実の彼だったら、そのままパトカーで病院直行しそうですよね。ちなみに、本作のモブ女子高生が引っ越した直後ぐらいにあの事件が起こったっていう裏設定があります。声しかわかんないんだもん、そりゃ探しても見つからないよ。

駄文をだらだらと書き続けていてもしょうがないので、ここらで締めたいと思います。
ここまでお読み頂きありがとうございました。

以前書いた別の怪文書もこちらに貼っておきますので、よろしければ覗いていってやってください。
https://note.com/nzkfnuaytu_0709/n/nc6ae3883db0e

Special thanks
・カリギュラ2
・Google先生
・ハコヅメ



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?