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NZと豪州のトラベルバブルが開始されてもその他への国境開放が遠く感じる理由


ニュージーランドとオーストラリアの間を隔離措置なしで往来できるトランスタスマンバブルが、いよいよ来週(4月19日)から始まります。

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(時事ドットコムニュース 2021年4月7日)

国際的な移動の正常化に向けた第一歩になると期待が膨らみますが、気になるのは”オセアニア以外の国”への国境解放はいつ頃になるのかです。

慎重な姿勢を崩さなかったNZ


ニュージーランドからオーストラリアへ隔離なしでの渡航(片道タスマンバブル)は昨年10月に開始されました。

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(ロイター 2020年10月16日)


それから半年...

NZ政府が豪州からの隔離なし渡航を許可したことでようやく"往復"タスマンバブルが実現します。

新型コロナの封じ込めに成功しており、経済的な結びつきも強い両国。

考え方によっては隔離なしの往来はもう少し早く実現してもよかったのかもしれません。

そうならなかったのは、NZが国境を開けることに対して慎重な姿勢を崩さなかったことが主な理由です。

豪州の方が国境を開くことに前向き?

その点、豪州はNZと比べると国境を開くことに対して”前向き”と言えるかもしれません。

国境封鎖でダメージを受けている豪州の観光産業には国内労働力の約5%を占める従事者がいます。

その多くはインバウンド需要の復活を心待ちにしていることでしょう。

初代の観光局長という経歴を持つモリソン首相は2年前の総選挙で経済再建の期待を集めて逆転勝利しました。

そして遅くとも約1年以内には豪州で再び国政選挙が行われる予定です。

豪州がNZだけではなくシンガポールともトラベルバブルを検討しているのは、

観光業を回復軌道に乗せたい

実現できれば景気や失業率に良い影響をもたらす可能性があり、経済優先を掲げる現政権にとって支持者へのアピール材料になると思われます。

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(Simple Flying 2021年4月7日)


ただし、豪州も大きなリスクを負ってまで国境を開く考えはありません。

最近シンガポールで出ている市中感染者は極少数で、またワクチン接種率は3割にも及ぶなど感染対策がかなり進んでいます。

モリソン首相も国境についての議論は、あくまで国内のワクチン接種の進展次第である考えを示しています。

順調に行くはずだった豪州のワクチン計画


ワクチン供給はすでに開始されていますが、世界的な感染拡大は歯止めがかかっているとは言えない状況です。

インド、ブラジル、ヨーロッパ、日本、韓国などでは新規感染者数が減っては増えてを繰り返しています。

この連鎖を止めるためにワクチン接種が必要なことは、集団免疫を獲得した国(イスラエルなど)の様子を見れば一目瞭然です。

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(テレ朝ニュース 2021年3月28日)

必要なワクチン量を確保し、国民への接種を進める

その点で、豪州はアストラゼネカ(AZ)製のワクチンを自国生産できるという有利な立場にあり、接種計画も順調にいくものと考えられてきました。

ところが、AZ製ワクチンの接種者の中に稀な副作用として血栓症が報告され、安全性への疑念が生まれています。

<発症割合>100万人に4人(2/3が女性)
<死亡割合>100万人に1人


そしてこの問題を受けAZ製ワクチンを若年層には接種しない、または接種を推奨しないとする国が相次ぎました。

<AZ製ワクチンに年齢制限を設ける国>
イギリス、スペイン、ベルギー、ドイツ、イタリア、オランダ、フランス等


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(BBC 2021年4月8日)


豪政府も、

50歳未満の成人にはAZ製よりもファイザー製が好ましい

との見解を示し、ファイザーと2千万回分(1千万人分相当)の追加購入契約を結びましたが入荷は今年の10月になる予定です。

自国生産できるAZ製ワクチンを中心に進めてきたワクチンの接種計画は見直しが迫られ、特に若い世代への接種はかなり遅れる懸念が出てきました。

NZのワクチン接種状況


では、ニュージーランドのワクチン接種計画はどういう状況なのでしょうか。

国民は4つのグループに分けられ、以下のようなスケジュールで計画が進行中です。

<第1グループ:2月〜3月>
国境管理関係者とその同居者
<第2グループ:3月〜5月>←現在
感染リスクが高い医療従事者
長期滞在型介護療養施設の入居者
大家族で住むマオリ及び太平洋諸島系の高齢者と同居者・介護者
<第3グループ:5月以降>
65歳以上の高齢者
基礎疾患のある者
障害者、収容施設の成人入居者
<第4グループ:7月以降>
その他の在住者(16歳以上)


NZ政府も豪州と同様、AZ製ワクチンの購入契約を結んでいます。

しかし、接種計画の中心にすえているのはファイザー製ワクチンで国民全員分に相当する量(1千万回分)を発注しています。

ワクチン接種は2月21日から開始され8週間が経過しましたが、現在の接種数はどのくらいで推移しているのでしょうか。

1回接種 71,013​​
2回接種 19,273
合計 90,286
接種率 1.8%
*2021年4月9日時点

接種数は保健省の計画を下回っているもようで、接種率もまだ低い水準と言えます。

ワクチン接種による集団免疫獲得が視野に入ってきたアメリカやイギリスなどに比べると、NZはかなり出遅れている状況です。

これに対し、アーダーン首相はワクチン接種は国同士で競うものではないこと、また、より緊急性が高い国へ先にワクチン供給がされる重要性を説いています。

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(One News 2021年4月11日)


現状、NZでは市中感染が出ていないため公共交通機関を利用する以外はマスク着用の必要はありません。

医療機関の病床は逼迫しておらず、飲食店が時短営業で苦しんでいるわけでもありません。

感染拡大が続く国と比べたらかなり恵まれた状況と言えるでしょう。

そのNZでワクチン接種が進んだとしても他国の感染が収まらなければ結局リスクは残り続けるわけで、安心して国境を開くことはできません。

個人的にはアーダーン首相の主張は間違っていないと考えています。

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(Stuff 2021年4月10日)

子供へのワクチン接種


国境封鎖の解除がまだ遠い先の話に感じるのは他にも理由があります。

例えば、子供たちへのワクチン接種です。

現在、NZのワクチン接種は16才以上を対象としていますが、15才以下の子供の人口は全体のおよそ1/4を占めます。

新型コロナの感染による子供の重症化リスクは非常に低いと言われますが、感染リスクを下げるためには子供へのワクチン接種も必要です。

ファイザーは12〜15才に対して行ったワクチンの臨床試験を成功させ、現在は生後半年〜11才を対象にした治験に着手しました。


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(読売新聞 2021年4月10日)

一方でアストラゼネカは前述の懸念により子供への治験を中断しています。

企業別のワクチン契約数はアストラゼネカがトップですので、世界的な影響(ワクチン接種の遅れ)は免れません。

<ワクチン契約数>
アストラゼネカ 24.20億回
ファイザー 15.57億回
ジョンソン&ジョンソン 10.35億回
モデルナ 8.03億回
サノフィ 7.32億回
シノバック 4.80億回
<情報元>日本経済新聞 世界の接種状況は


また、治験に成功したファイザー製ワクチンも今後当局の審査をパスする必要がありますので、すぐに子供へ接種できるわけではありません。

子供たちへの接種がいつごろ開始されるかはまだ不透明な状況です。

変異株への対応


ファイザー製ワクチンは南ア型の変異株に効果が認められた一方、AZ製ワクチンの有効率は10%で「効果がない」と結論づけられました。

一方、日本で増え始めた変異株(E484K)がワクチンの効果を低下させる可能性があると厚生労働省が指摘しています。

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(テレ朝ニュース 2021年4月6日)

既存のワクチンに効果が低い変異株が出現すれば、また新たなワクチンが必要となるかもしれません。

前述の通りワクチンは開発だけではなく治験や審査などの過程があり、完成までには時間がかかります。

その間に変異株による感染拡大が進んだりすれば、国境の封鎖は長く続く可能性もあります。


切り札と言われたワクチンにも安全性の懸念


現在承認されている主要なワクチンは原則2回の接種が必要です。

その中でジョンソン&ジョンソン(J&J)製ワクチンは1回の接種で済むことから供給が進めば切り札になりえるワクチンと言われていました。

ところが、J&Jワクチンは製造ミスで1500万回分を廃棄処分、さらにAZ製ワクチンに似た血栓症の副作用が疑われ始めたことで、米国と欧州の当局が調査に乗り出しています。

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J&J製ワクチンの使用が許可されているのはアメリカだけで、ヨーロッパでは販売許可は出ているものの接種は始まっていません。

現時点での影響は限定的ですが、10億回分の契約があるJ&JワクチンにAZ製と同様の年齢制限が設けられれば、ワクチン接種の進展に懸念が生じます。

世界的需要が高いワクチンの種類や量はできるだけ多い方が良いわけですが、大きなトラブルが出ていないワクチンは少ないのが実情です。

まとめ


隔離措置なしで旅行ができるトラベルバブルがニュージーランドとオーストラリアの間で始まります。

自由に海外旅行できるのはいつになるかを考えたくなりますが、時間はまだかなりかかりそうです。

そう考えるのは、国ごとにかなり差がある接種率、ワクチンの副作用懸念、予測不能な変異株などの理由からです。

原則的に国境封鎖の状態は続きそうですが、一方で感染が収束に向かっている国も出てきているなど先行きへの明るさも見え始めています。

そうしたことから今後はリスクの低い国同士間でのトラベルバブルという形で徐々に国境が開かれていくのではとイメージしています。

個人的には日本とのトラベルバブルを期待していますが、今の日本の状況を考えると当面厳しいだろうな...というのが実感です。

去年の今頃思っていたことと同じですがが、来年こそはと願っています。

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