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頭の中に猫ちゃんを飼う
ぼくは猫ちゃんを飼っている、頭の中に。
こういうと大抵の人間はぼくのことをおかしな人間だと思うだろう。
ぼくが猫ちゃんを飼いだしたのは、ぼくだけではぼくを幸せにできなかったからだ。
自分のために生きるのって案外カロリーが高いもので、ちょっと人生に疲れていた僕にとってはちょっとどころでなく大変なことだった。
そうして明日も生きてくのしんどいなあと思っていたぼくは猫カフェに連れ出され、猫ちゃんという生き物にはまり、猫ちゃんと暮らしたいともくろみだした。
とはいえその時のぼくは自分の面倒さえおぼつかない自覚があったので、猫ちゃんをお迎えする余裕もなかった。
というわけで、頭の中に猫ちゃんを飼うことにしたのである。
頭の中に猫ちゃんを飼ってからというのも、ぼくはずいぶんまともに生活をするようになった。
なんせ、ぼくのかわいいかわいい猫ちゃんの面倒を見る必要があるので。
ぼくは頭の中に猫ちゃんを飼っているので、引越しをする時に猫ちゃんと暮らせる家を探したし、周囲に動物病院があるかを確認した。
防音を考え立地を考え、しかしながら猫ちゃんの生活に支障が出ない程度の家賃に収めることも考えた。
まともに物件を選べたのも、多分ぼくの頭の中の猫ちゃんのおかげだ。
引っ越しをした後も、ぼくはぼくの頭の中の猫ちゃんが不便ないようにカーペットを敷き、新しく買い直す家具も猫ちゃんに危険がないように、気に入ってもらえるようにと選んだ。
おかげで冬でも床は冷たくないし、お昼寝だってできる。
新居の家具を買うためにIKEAについてきてくれた友人は、ぼくがぼくの中の猫ちゃんを基準に家具を選別している様子に呆れて笑っていた。
とはいえ最後までぼくとぼくの猫ちゃんのために家具選びに付き合ってくれたので本当に彼女はいい友人だ、とだけ付け加えておきたい。
ぼくは頭の中とは言え猫ちゃんを飼っているので、今日も明日も働かねばならない。
ぼくはぼくの中の猫ちゃんを幸せにする義務があるので。
しんどい仕事もつまらない会議も行きたくない歯医者だって、ぼくはぼくの中の猫ちゃんを幸せにするためになら頑張れる。
お布団に後ろ髪を引かれながらもぼくは毎朝起きて生活する。
何せぼくは猫ちゃんを飼っていて、猫ちゃんを幸せにする義務があるので。
ぼくはぼくを幸せにしなければならない。
ぼくの中の猫ちゃんを幸せにするために。
だから君も君の中にきみのための猫ちゃんを飼うといいのだ。
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