法務担当・知財担当を葬り去るために

 この記事は、法務系Advent Calendar 2019 の11日目(12/11)の記事です。katax さんからバトンいただきました。

 さて、タイトルに強めの言葉を使ってみましたがいかがでしょう?
 このNoteでは、思考実験的にどうすれば会社から法務担当・知財担当を葬り去れるかを検討することで、逆説的に「これをやれば法務担当・知財担当は生き残れる」という方法を探ってみたいと思います。
 最後にはきっと良い感じの着地点を目指して書いていくので、怒らないで読み進めていただけると嬉しいです。なお、物理的な葬り方は書かないのでご安心ください。

1. これを書いてる人・書く背景

 はじめましての方は、はじめまして。にょんたかです。
普段はとある企業で医療分野の知財担当やソフトウェアによる業務効率化担当、社外との連携担当みたいなことをしています。今の会社ではDDのときくらいしか法務っぽいことはやっていませんが、過去には色々ありました。
 今回このタイトルで書こうと思ったのは、今年の法務系Advent CalenderでNH7023さんやseko_lawさん、Nakagawaさんの退職/転職的なエントリ内容を見て、企業法務や企業知財の存在価値とはなんぞや?と普段の仕事の中で考えていることを書いてみたくなったからです。普段は知財担当なので、法務担当も含めたことを書くとだれかに怒られるかなーと思いつつ、まぁ個人的な思いということで許してください。

2. そもそも法務担当・知財担当って?

「法務とは、法・法令・法律や司法に関する事務、業務、あるいは、職務のこと」(by Wikipedia)
 企業規模が大きくなって法務業務が増えてくると、組織が細分化されて特許などの知財業務を担当する知財担当が生まれてきます。
 今回の思考実験で想定するのは「法務または知財を専任で見ている担当者」です。兼務などをしている方は想定していません。
 言い換えると「社内で法的知識に基づいた回答を行う専任担当者」です。

3. 法務担当・知財担当は必要か?

 法務担当や知財担当を社内に抱える大切さは色々な方が説いていらっしゃいます。例えば、先日発表された「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」では、「グローバル化やイノベーションが加速し、新しい商品、サービス、エコシステム等を生み出す必要性が高まる中、パートナーとしての法務機能の重要性も一層高まっており、法務機能の強さが企業の生き死にを左右する一要素となりかねない」と述べられています。

 しかしながら、上記報告書においても、「守り(ガーディアン機能)」と「攻め(パートナー機能:クリエーションとナビゲーション)」として、下記の下の図1(報告書より引用)のように「事業の創造」つまりは「価値の創造」の可能性は述べられていますが、「社内でしかこの機能は実現できないのか?」については述べられていません(たぶん)。

画像2

 業務効率化の一環として業務の見直しやアウトソーシングを考えていくと、必ず「この業務って社内で行う必要があるんだっけ?」という問いを繰り返すことになります。つまり、「金さえあれば社外の法律事務所や特許事務所にお願いできる業務なのでは?」という問いに対して、社内で業務を抱える理由を考えていくことになります。
 果たして「攻め・守り」機能は社内の法務部門でしか実現できないのでしょうか?例えば、法律事務所と密に連携することで実現できたりしないでしょうか?
 スタートアップの初期は法務専任の方はあまりおらず、兼務の方が多いです。弁護士法人 畑中鐵丸法律事務所の畑中先生の記事によると、経営法友会の2015年の調査では「資本金5億円未満の企業における法務部門設置率は約3割」とのことですので、スタートアップのほとんどは専任の法務人材を有していないと推測されます。
 しかしながら、例えば”規制のサンドボックス制度”の申請状況などを見ると、大企業より「攻めの法務」を実現しているスタートアップは多いのではないかな?と思ってしまいます(とはいえ、サンドボックス制度を申請している企業はどこも”強い”人材が揃っている企業ばかりですが…)。つまり、専任の法務人材がいなくても何とかなるのでは?という疑問があります。

 「この業務を社外に出せるか?」を考えていくと、意外に「金さえあれば社外にお願いできる」ことは多かったりします(そしてそもそもこの業務いらないのでは、というものも多いです…)。
 つまり「ぅーん、社内で抱えた方が”安い”からなぁ」とコスト的な話に集約することが多いです。
 これはけっこー専門家(という自負がある人)としては悲しいことで、コスト面の優位性だけで選ばれるより、成果面の優位性で選ばれたいという気持ちがあります。しかしながら、最終的な成果物だけを見てしまうと、”社外に頼む場合”と”社内に頼む場合”で結果的に違わない場合も多々あります。
それどころか、社外に頼んだ方が専門家中の専門家に頼むことになるので、同じインプットからのアウトプットは社外の方が上なこともよくあります。これは法務も知財もだいたい同じなんじゃないかなと思います。知財は特にプロセキューション業務や中間処理とよばれる特許庁との交渉業務などはビジネスデータも含めたインプットが同じであれば、あとは経験やセンスの差であって、社内と社外で差が出しづらいところがあります。

4. 法務担当・知財担当を葬り去るために

 上記に述べたように、インプットが同じであればアウトプットは社内も社外もそれほど変わらないか、社外の方が上であることがあります。もちろん、社内に「超絶デキる人」がいる場合もありますが、社外にも超絶デキる人はいます。
 ということは、インプットを社外パートナーに適切にできる仕組みさえ整えることができれば、コスト面を度外視すれば社内には「インプットをする人間」と、「アウトプットに基づいてビジネス判断をする人間」さえいればいいことになります(やや論理が飛躍していますが書くと長いので省略)。
 では、法務担当や知財担当がビジネス判断をできるか?というと独断でできる場合は少ないのではないでしょうか?
 もちろん、契約の文言の書き方や請求項の書き方などはビジネス判断の一つだと思いますので、細々としたビジネス判断は行っていると思います。しかしながら社外に任せられないような大きなビジネス判断を決める権限を持っている法務担当や知財担当はそうそういないのではないかな、と思います。
 また、コスト面に関しても、インプット体制や依頼の仕方によって、専任担当者を社内にかかえたときの人件費よりトータルで見るとあまり変わらない可能性があります。とはいえ、社外の方はビジネスに対して責任を持つことは難しいため、責任区分はきちんと決めておく必要があります。したがって、割り切りの覚悟さえあれば、社外に頼めることは多いと考えます。

 すなわち、インプット方法・責任区分・覚悟の3つさえ整備できれば、社内に専任の法務担当や知財担当を抱える必要はなくなるのでは?というのが思考実験的な結果の一つです。

5. とはいえ、現実では…

 では、実際に上記を実行すればいいのでは?というと、これはこれで難しかったりします。「何をインプットすればいいのか判断がつかない」「すぐにインプットするのが面倒」「勝手に法的イシューに気づいてくれない」「そもそも社外に信頼できるパートナーが少ない」など、上記の思考実験では入れていなかった項目が入ってきがちなためです。
 今回の思考実験は非常に単純化しましたが、実際は社内と社外では物理的・心理的な距離があることを配慮しなければなりません。
 心理的・物理的に離れているとコミュニケーションコストが高くなりがちですし、さらに会話の中から法的イシューを見つけるなどのリアルタイム性や気づきが難しくなります。また、実力的・人柄的に信頼できる社外パートナーを探すというのは本当に難しいことだったりします。

 逆に言えば、「①安価なコミュニケーションコスト」、「②リアルタイム性」、「③積極性」、「④信頼性」の4つを備えていない法務・知財の人材は社外に負ける可能性が十分にあり得るということではないでしょうか。

 つまり、葬り去られない法務・知財人材になるためには、上記の4つの性質を会得する必要があります。このうち、①と②については例えばSlackやTeamsなどコミュニケーションツールにより改善できる可能性があります。さらにコミュニケーションコストが低い人というのは得てして③や④も評価されやすいものです。
 すなわち、今後はコミュニケーションツールなどのツールを使いこなせる人材が”生き残れる人材”なのではないかな、という結論で今回のNoteは締めたいと思います。

 時間に焦りながら推敲もあまりせず長々と書いてしまいましたが、お読み頂き、ありがとうございました。
 お次は「ちひろ先生@弁護士」にバトンをお渡しします!

※1 個人的に心構えで解決するよりシステム的に解決する方が好きなのでこういう結論に持っていきましたが、心構えも重要だと思います。
※2 書き終わって気づきましたが、これって「国際競争力強化に向けた 日本企業の法務機能の在り方研究会 報告書~令和時代に必要な法務機能・法務人材とは~」に似たようなことが記載されていますね……。
※3 実際のところは専任担当者が必要なほどのイシューが発生している時点で必ずコストメリットはあるので、コスト的な観点から専任担当者を置くという考えは当たり前の企業活動です。ただ、そこに安心していると怖いよ、という話です。社外の専門家とのコミュニケーションコストの差こそが社内部門の価値なので、社内のコミュニケーションコストはどんどん下げていこうね、というのが書きたかったことです。
 

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?