「ガロア理論特別講義」の魅力

こんにちは!ドワンゴ教育事業本部コンテンツ開発部で発展的な数学教材を担当している中澤といいます。

今年の6月より始まった、東京工業大学の加藤文元先生による「ガロア理論特別講義」は、通常大学の数学科で習う「ガロア理論」を、高校生にも挑戦可能な形で授業していただくという、非常に野心的な講義です。
この講義の魅力を多くの方、特に中高生に感じていただき、ガロア理論という大学以降の数学の1つのマイルストーンに挑戦してほしいと思い、今回のアドベントカレンダーを書くことにしました。
まず、この講義の魅力をざっくりまとめると

・加藤文元先生の生講義が見れる!
・高校範囲の数学の知識でガロア理論に入門できる!
・加藤先生による非常に詳細なレジュメつき!
・授業はアーカイブされるので、何度でも見直せる!

など、ガロア理論の理解を志す中高生にとってこれ以上ないのではないか、という内容になっています。
通常ガロア理論を学ぶためには線形代数や代数学といった大学で学ぶ数学の様々な知識が必要となりますが、加藤先生の授業では本当にギリギリまで必要な事実に絞って、また直感的に受け入れられる部分については使う数学的事実を明示しつつ認めるスタンスで授業が行われております。

そんなガロア理論特別講義ですが、講義中に加藤先生がお話しになる言葉の中には、進んだ数学を学ぼうとする学習者にとって「痛いところに手が届く」あるいは「数学書だとあまり強調されていないけど、気をつけておくとよい」言葉がたくさん詰まっています。ここからは、これまで行われた8回分の授業の各回での加藤先生の注目コメント(名言)を取り上げつつ、各回を振り返ろうと思います。次回第9回の授業は来週月曜(12/21)に行われ、いよいよ佳境に入っていきます(来年の3月までで全12回の予定)。
これまで見逃した方も、アーカイブで追いつくことは可能ですので、この機会にガロア理論に入門してはいかがでしょう?
https://www.nnn.ed.nico/courses/796/chapters/11752

(なお、以下の加藤先生の発言は、文章に直す際に一部変更している部分があります)

第1回 (6/29)

```ガロアはガロア群と呼ばれる、方程式から決まるシステム(概念)を導入して、一般の次数の代数方程式について、代数的解法が存在する必要十分条件を発見した```(35分ごろ)

```ガロア理論は、代数方程式という比較的わかりやすい、高校生にもわかるものを扱っておきながら、その奥にある非常に奥深くて綺麗な世界をあぶり出す非常に有名な理論。おそらく現代数学の一種の走りの非常に有名で美しい理論で、皆さん憧れるわけなんですが、なかなか難しいので、その手助けをしたいというのがこの講義の狙い。```(36分ごろ)

第1回のガロア理論特別講義は、ガロア理論の歴史的背景やその位置付けについてお話しいただきました。はじめに全体を俯瞰するお話をたっぷり聞けると、モチベーションが上がりますね。


第2回 (7/20)

```多項式というのは、ただ多項式というのではなく、どこ上の多項式かということは常に気にしながら進んでいかなければならない```(18分ごろ)

第2回はガロア理論を述べるため必要な体論についてお話しいただきました。ガロア理論では「体」と呼ばれる有理数の集合を一般化した代数的概念が基本的な登場人物になりますが、この「体」を意識することが方程式を解くという行為を精密に考える際には重要になります。「どこ上の多項式か」とは多項式の係数をどの体の元として考えているのか、ということです。ガロア理論を学ぶ上で意識すべき重要な点ですが、高校までの数学ではこのような視点はあまりないため、初学者が見落としがちなポイントをきちんと強調していただいたコメントです。


第3回 (8/17)

```ガロア群は定義はできるが、なかなか計算できない。```(開始冒頭)

第3回でガロア群について早くも直観的な導入が行われました。通常代数学では群をフォーマルに定義するところから始まりますが、フォーマルな定義ではなかなか掴みにくい群に対する実感を方程式の解の(適切な条件のもとでの)入れ替え、という形で導入しています。群というものがかなり身近に感じられる説明だと感じました。
上記のコメントはガロア群というものの奥深さ、難しさを知ることができる言葉です。


第4回 (9/14)

```シャツを着てからコートを着る行為の逆を考えると、コートを脱いでからシャツを脱ぐのであって、シャツを脱いでからコートを脱ぐことにはならない```(30分付近)

```群論の面白さは一種のパズル性がある```(終了間際)

第3回で直観的にガロア群を導入したあとで、この第4回でフォーマルな群の定義や、群論の基礎事項の説明に入りました。群論を勉強していて出会う難しさの1つに「非可換性」があります。数の足し算や掛け算はどの順番で行っても結果は変わりません(可換と言います)が、一般の群ではこのような性質は成り立ちません(可換でない場合非可換と言います)。
演算が非可換であるものには行列がありますが、行列に親しんでいない中高生にとって「非可換」はなじみにくいことも多いかもしれません。上記のコメントは可換とは限らない群における掛け算abの逆元についての例えで、非可換性が日常生活の中にもありふれたものであることを説明していただいています。
また、群論の面白さのポイントについても触れていただき、群論が「楽しいもの」であることを感じることができました。

第5回 (10/12)

```集合論的な見え方は違ったとしても、群論的な構造が全く同じだというのが同型``` (20分付近)

第5回は第4回に引き続き群論の講義でした。2回の講義で群論の基礎事項を学修するため、内容的にも盛りだくさんでしたが、それを感じさせない加藤先生の講義のスムーズさはぜひ見て欲しいところです。その中での上記のコメントは、あまり数学書には明確に書かれていない群同型の意味について説明していただいています。

第6回 (11/9)

```この講義では定義は重要だと言ってきたが、それは定義にひれ伏さないといけないと言っているわけではなく、定義の意味を考えることは重要```(65分付近)

講義の最初の方で「数学では定義が重要」と話されたのを受けて、さらに踏み込んで「定義の意味」を考えることの重要性を強調されたコメントです。ガロア拡大を、拡大体の自己同型群による作用で不変な元の集合が基礎体に戻ること、と定義したあとでのコメントで、これに続いて```ガロア拡大とは、自己同型群が豊富にある、ということ```というガロア拡大の定義の意味についても話していただきました。ただ定義の字面を追うだけで精一杯になりがちですが、このように説明を重ねていただけると理解が深まりますね。


第7回 (11/30)

```ガロア理論の基本定理の主張を書くことができました。今日はとても記念すべき日ですね。```(28分付近)

群論や体論の準備を終え、第7回ではいよいよガロア理論における1つのハイライトである「ガロア理論の基本定理」を学びました。複数の主張からなるガロア理論の基本定理を板書いっぱいに書かれた景色は壮観で、ついにここまで来たかと感慨もひとしおでした。このコメントの後には板書と加藤文元先生とを一緒に記念撮影が行われました笑


第8回 (12/7)

```対称性を上手に崩すことが必要```(15分付近)

第8回では、ガロア理論的立場から代数方程式の解法を見直していただきました。解と係数の関係から四則演算で逆に解を求めることはできませんが、この背後にはこの解と係数の関係の等式は対称性が高すぎることがあります。解を求めるには、この対称性を上手に崩すことが必要になる、という説明でした。
方程式を解く際に行なっていることは、実は方程式の持つ対称性を崩しているのだ、という説明は非常に新鮮でした!

終わりに

第9回目以降の加藤先生の授業風景は、ぜひ生授業で体験してください。ガロア理論という現代数学における重要な理論に真剣にチャレンジしようとする中高生に自信を持ってお勧めできる講義です。多くの方の受講をお待ちしています!


この記事が気に入ったら、サポートをしてみませんか?
気軽にクリエイターの支援と、記事のオススメができます!
4