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行動経済学を公共部門に応用する

 今回紹介するのはこちら。

『Applying Behavioral Economics to the Public Sector』(2013)
JAMES ALM*
Tulane University
CAROLYN J. BOURDEAUX**
Georgia State University

この論文は大きく2つに分かれています。
①行動経済学の基本要素について
②公共部門、特に公的予算に密接に関連する分野における行動経済学の応用について

②については一部を紹介します。

<行動経済学の基本概念>
・人々の選択はフレームに影響される
(参照点、損失回避的、リスク愛好的、現状維持バイアス)
・個人の計算能力には限界がある
(心理会計、限定合理性)
・行動の本当のコストを錯覚している、もしくは自覚していない
(財政錯覚、顕著性、可能性への過度の期待)
・セルフコントロールには限界がある
(双曲割引、クリスマス貯金クラブ、自動入会プログム)
・個人の関心だけでなく、様々な要因によって動機付けされている
(信念、社会的慣習、社会的ノーム、モラル、恥、罪悪感、信頼、同情、共感、)
・意思決定は、社会的文脈(多様性)や過程(投票ルール)に影響されて成される

<顕著性と課税>
Chatty,Looney,Kraft(2009)の研究:
「税の顕著性は行動にどんな影響を及ぼすのか」
税込みの価格表示→・税率が分かりづらくなる
         ・税込み価格は分かりやすい
【食料品店で実験】
商品の価格表示を税込み価格に
→需要が8%減少
→消費者は顕著ではない税金には反応しにくい
→税の超過負担と適用範囲をどうするかに影響する

<貯蓄インセンティブ>
従来の理論では、個人の貯蓄はライフサイクルモデルに依存すると考えられていた。つまり、理論通りであれば個人の消費は生涯にわたって平準化される。しかし現実ではそうならない。
セルフコントロールと知識/洗練の分野で行動経済学を応用した。ヒューマン(エコンではない)はセルフコントロールが完璧でもなければ、経済について知り尽くしているわけではない。それを考慮して貯蓄システムを構築する必要がある。論文では3つの手法が紹介されていた。
①自動登録(オプトアウトできるようになっている)
②簡素化
③税や経済について教育する
結果的に、①②が最も効果的であった。③は効果があったり無かったり。

<結論>
公共部門において行動経済学の将来の展望は刺激的で、可能性にあふれている。しかし、課題が2つある。
①現実であっても、明確な予測をするのに十分に扱いやすい理論を構築すること
②政策の独立した効果を特定することができ、また他の同等の観察理論と区別できるテストを開発すること。

課題解決には、創造性、更なる研究、フィールド実験、数値シュミレーションの活用、エージェントベースモデルなどが必要になってくる。
いずれにせよ、近年の行動経済学であればこれらの課題に対応することができる。

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行動経済学は様々なところで応用されていて面白いですね。私は最近、ダニエル・カーネマン「ファスト&スロー」を漸く読みました。そのおかげか、今回の論文でもすんなりと入ってくる部分がありました。この知識がつながってくる感じは良いですね。正直論文を読むのは大変ですが、継続していけば知識がつながって楽に読めるようになるだろうなと思っています。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。

論文へのリンクです。

https://www.ief.es/docs/destacados/publicaciones/revistas/hpe/206_Art4.pdf 

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