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セクシャルマイノリティをテーマにした『ミモザの告白』の感想と注意喚起

ガガガ文庫から7月21日に発売されたライトノベル『ミモザの告白』を読みました。

この作品は保守的価値観が支配する地方都市に住むセクシャルマイノリティの少女の青春を描いたもので、(作者のこれまでの作品もそうですが)ライト文芸的な色合いが強いです。

まず前提にしてもらいたいのが、「作者はセクシャルマイノリティに対する悪意はなく、きちんと勉強してこの作品を書いている」というところです。

セクシャルマイノリティに対する差別や偏見を肯定的に書いているわけではないし、実際ジェンダー問題を取り上げた作品としての現状の完成度は高いと思います。

しかし、それを踏まえたうえで、かなり本気の注意喚起をしなければなりません。

自分の性に悩みを抱える人は、この本を読む際には非常に注意が必要です。

この先、『ミモザの告白』の内容(セクシャルマイノリティに対する差別・暴力描写を含みます)に触れますのでご注意ください。





何故そんなことを言わなければならないのかというと、『ミモザの告白』が「セクシャルマイノリティの少女が周囲の偏見や無理解に晒されて追い詰められていく」内容だからです。

本作は、保守的な価値観が支配する地方都市に住む咲馬の視点から、幼馴染で男性の肉体と女性の性自認を持つ汐が女性として学校に通う模様が描かれる(おそらく)シリーズものです。

しかし、周囲はセクシャルマイノリティには無理解で、汐に対してセクハラやいじめを繰り返します。

それでも咲馬達に支えられ、なんとか学校に通い続ける汐でしたが、胸に秘した咲馬との恋愛感情とどう向き合うのかが物語の焦点となります。

かなり気を付けていただきたいのが、圧倒的な筆力で描かれる生々しいいじめと偏見、無理解の描写であり、そのリアリティゆえに人によっては精神的に悪影響を及ぼすおそれがあると思います。

一番恐ろしく思ったのが、「無理解だがむしろ善意で動いている」描写がかなり多いところで、汐に密かに恋心を抱く人物が「そんなセクシャルマイノリティは人生損だから、『正しい道』に戻してあげる」と言ってきたり、語り部の主人公ですら幼馴染の事情を理解していると言っている一方で、中学時代の自作小説と汐の性自認を同一視したり、「男だから」「女だから」論法を使ってきたりとそれはちょっとアウトなのでは……と思うような描写が多々あります。(これは終盤の展開を鑑みるに、意図的なものだと思います)

また、汐の性的な悩みに解決を導きだせる存在は作中においてまったく存在せず、これからも保守的な地方都市でひたすら摩耗していくのだろうな……と暗い気持ちになってしまいました。

価値観の違う他者を迫害するのはやめろ!で終わらず、無理解な善意で事態が悪化していくという身近に起きうる問題を提示したのは非常に興味深く評価すべきポイントです。

ライト文芸においてもジェンダーを取り扱った作品は多く存在しますが、セクシャルマイノリティを不必要に愛玩するのではなく、辛く厳しい現状を逃げることなく提示している点においても評価したいです。

そもそも作者はデビュー作から一貫して「ボタンの掛け違いで崩壊していく家庭」を描くのが非常にうまく、そういう芸風と捉えることもできましょう。

実際は崩壊家庭描写のノウハウにクソ田舎とジェンダー偏見がブーストしてとんでもない劇物になっているのですが……。

まあここからシリーズ2作目以降で一発逆転!の可能性もなくはないと思いますが、現状世に出ている1巻は人によってはかなり、ガチで、きついので読む際は注意が必要です。

しかし、ダイバーシティが求められる現代においてこのテーマは普遍的であり、発売直後に読み終えて今なおめちゃくちゃ考えさせられる本はそこまでないので、尻込みせずに広く読んでいただきたいとも思っています。


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