049.猟奇的少女 [In インジウム][壬子]

ある村に、それはそれは恐ろしい少女が現れた。

見かけは普通の女の子だが、この少女に捕まったらそれはそれは恐ろしいことにななる。あまりにも、むごく、残酷で、あってはならぬようなことになる。村人はそれを知っているから、みんな集団になって固まり、少女から適度な距離を保ちながら、村の中を逃げ回っていた。


少女がこちらの存在に気づいたら、ものすごいスピードで追いかけてくるだろう。人間が太刀打ちできる速さではない。だからみな気配を消し、少女の動向を遠くから見張っている。

少女が何を考えているのか、村人たちには分からない。それがますます恐怖を煽った。誰も、少女に捕まったらどうなるのか、具体的には知らないのだ。

それなのに確信だけはあった。

ひどいことになる。

あいつに人間の理屈は通用しない。



少女は相変わらず、獲物を探す獰猛な肉食動物のように、村中をうろついている。

少女の動きを警戒しながら、なんとか逃げきろうと思っていた村人たちは、集団で移動しながら、次第に気づき始めた。

少女は我々を、逃げられない場所に追い詰めているのではないか?

村人たちが入り込んだ道は、この近辺を丸く囲う環状道路だ。この道に入ってしまったら、脇にそれる道はない。

少女は何気ない風を装って、我々を出口のない縄張りに追い込んでいる。

そう気づいた村人たちは、背筋が凍った。


それは果てしなく終わりのない逃亡劇が始まったことを意味していた。

できることは、少女とばったり鉢合わせしないよう逃げ続けることだけ。「その時」が来るのをただ引き伸ばし、先送りすることだけだ。

やられるまで終わらない。


2022年1月25日 18:34

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?