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アフリカ最初のポピュラーミュージック「パームワイン」の現代的魅力

こんにちは。

世の中に音楽好きというのは当然たくさんいるわけで、まぁロックとかブラックミュージック好きとかが多いのかもですけど、結構ジャンルごとに同じくらい詳しい人はいるものです


しかし、アフリカ音楽はどうでしょうか?


アフリカ音楽のイメージ(ボンゴとかポコポコやってるやつね、みたいなイメージ)は割と世間一般に根付いているのです。つまり知名度はあると。

なぜなんでしょう、アフリカ音楽だってかなり親しみやすい音楽だと思うんですよ

例えば世界的に大ヒットした二大強烈ナンバー。

テクノっぽい感じがして欧米狙いなのだが、やっぱり体がのってくる「Yeke Yeke」、
ファンクと民族音楽の融合が心地よい、マイケルジャクソンの「スタート・サムシング」での引用も有名な「Soul Makossa」です


どうでしょう?フツーに良いと思いませんか?
そう、アフリカ音楽って奥も深いんですけど、フツーに楽しめちゃう音楽なんです

もちろん政治色の強い歌詞や美しすぎるギターがエモいバラードとかそういった魅力もあるんですけどね


今日はアフリカミュージックを単純に楽しんで欲しいので、“アフリカ最初のポピュラー音楽”と呼ばれる「パームワイン」というジャンルを語りたいと思います、このパームワインは中々語られることのない音楽になりつつあります


1. パームワイン Palmwine 

まずそもそも「ワイン」って酒?、てなりますよね。はいそうです。パームワインとは、ヤシ酒のことです。
もうこの時点で興味持ち始めませんか?なんだそれ?って。


海に面していることから航海術が発展したリベリア沿岸部やシエラレオネ沿岸部のクル人という人たちの音楽が起源です

このクル人はヨーロッパ人の雇われ水夫として働いており、貧しい賃金労働者でした

船乗りとかが港でヤシ酒を飲みながらビンを行儀悪く刃物でカチカチし、「今日も一日疲れたよ」みたいなことを歌っていたわけです、これが原型。

ポルトガル人水夫がもたらしたギターや、宣教師が広めた賛美歌などが交ざって後々に「パームワイン」という音楽が成立します

そして、これがシエラレオネという国へ、クル人を通して伝わります。フリータウンという解放奴隷が造った街(現在の首都)にいた彼らの子孫と白人野良混血した人種、「クリオ人」に伝えたのです

これが西アフリカ沿岸部一帯に広まった「パームワイン」の歴史です。


よく聴く「アフロポップ」という言葉は、パームワインにカリプソ(カリブ海の民族音楽、レゲエのルーツとも)というジャンルが合体したマリンガという音楽に、70年代頃、アメリカがもたらしたファンクやソウルが交ざったものです

つまりごった煮って感じですよね


2.Koo Nimo

では歴史語りもそこそこに、素晴らしいパームワイン音楽をいくつか紹介したいと思います
何人かアーティストを挙げますが、その人の名曲・名盤も一緒に紹介できたらと思います

まずはガーナが誇るミュージシャン Koo Nimoです
ライブが素晴らしい。

暑苦しいのか爽やかなのかよく分からない白髭をたくわえたコー・ニモは、最初期のパームワイン音楽を現代に伝えてくれる、いわば語り部です

もともとパームワインというのはあまりパーカッションポコポコって感じじゃなくて、泥くさい感じなのですが、コー・ニモはかなりそれに近いものをしています

先ほどの動画をご覧になれば分かりますが、伝統楽器を結構使ってますよね。パームワインに伝統楽器を持ち込んでさらに民族音楽感を出しながら現代に復刻している人です

ーKoo Nimo's Masterpieceー

~パームワインギターの真骨頂~

「Osabarima」(ガーナの秘宝) 1990年

これは文句なしの大名盤。ガーナのCD第一号として発売されました。

パームワインミュージックとして売り出されている音楽の多くは、パームワインを進化させた(例えばナイジェリアにおけるヨルバ人の影響を帯びたパームワイン、とかでしょうか)ものが多く、厳密にはパームワインではないのです

しかしこのアルバム、副題の「The Real Palm Wine Music」から分かる通り、かなり元来のパームワインを再現しています、てかそもそもこの人自体そんな感じの人ですけど。

曲は全てオリジナルで1976年頃の録音の復刻で、ゆったりと昼下がりなんかに聴くと最高です。ギターがまぁ素晴らしい。音の飛び方が尋常ではないです

しかしこのアルバムはサブスクにはないようです。しかしSpotifyにもAppleMusicにも2012年作がありました、これも佳作。

https://link.tospotify.com/ulSyEVGHFbb


3. S.E.Rogie

私は現代パームワイン音楽と聞くとS.E.ロジーの名が最初に思い浮かびます(このnoteのヘッダーの人です)

60年代にシエラレオネ周辺で活動していましたが、72年には渡米・88年に渡英したため、アフリカ民族音楽に囚われないウィットに富んだミュージシャンです

シエラレオネでは演奏されることの少ない1930年代のパームワインをロジーのモダンなセンスで解釈した作品「The Palm Wine Sounds Of S.E.Rogie」を89年に発表し、名盤のお墨付きをいくつももらうことになりました


そう、彼の魅力は「古くない」「楽しい(これは人による)」なのです。91年の名盤のこの曲を聴いてみるともう、彼の虜です


ーS.E.Rogie's Masterpieceー

~隣の家から聞こえてくるようなアフリカらしい賑やかさ~

「The New Sound Of S.E.Rogie」(ニュー・サウンズ・オブ) 1991年


前作での高い評価に引き続いての名盤です。前作はアコースティックな編成でしたが、バンド編成へと移行しよりアフロポップへ接近した作品となっています。

全曲良曲の完璧音楽作品だと思いますね

甘酸っぱいトロピカルな風味満載なこのアルバム、暑い夏に聴いてもスーッと身体に染みてきます。

これはサブスクありますので、ぜひ。

パームワインの伝承者として重要なミュージシャンでしたが、94年にステージでの演奏中に意識を失いそのまま永眠しました


3.Abdul Tee-Jay


最後は21世紀を生きるパームワイン・アーティストです。先ほどのS.E.Rogieの死をきっかけにパームワインを伝承することを決意した彼、さぞロジーの真似っこだろうと思いきやそんなことはありません

ロジーはアメリカやイギリスの経験を踏まえたミクスチャーな音楽なのに対し、アブドゥルはリベリアの船乗りがカチカチ叩いていた、あの時代のパームワインを再現しようとしているアーティストです

それ以前はRokotoというバンドを率いていて、これはこれでいいです。ブラスを全面に押し出し私の趣味とは異なりますけど、陽気な北・中部アフリカらしいサウンドです


ーAbdul Tee-Jay's Masterpieceー

~蘇る!“あの頃のパームワイン”~

「Palm Wine A Go-Go」 (2003年)

晴れのポカポカの日に聞いたら、卒倒間違いありません。熱中症で無くともぶっ倒れてしまうくらいバイブスブチ上がる癒されアルバムです

生憎サブスクはないのですが(なぜ)、余裕があるアコースティックサウンドが狭苦しい密室からアフリカに連れて行ってくれます、すいません、何か例えばっかですね

ホイッスルとかがスパイス効いています、21世紀のアフリカ音楽の名盤として名高い作品です

パームワインの語り部がどんどん減っている今、アブドゥルは本当に貴重なアーティストとなっています


4.最後に

パームワインという音楽、いかがでしたでしょうか。皆さんの思うアフリカ民族音楽像と近いものだったでしょうか

アフリカ民族音楽というのは、かなり流れが複雑で政治が絡んだり国境や差別・植民地支配など社会的なものが絡んだり、、といった具合です

それが面白さの一つでもあるんですけどね

例えば、他にもガーナにハイライフという音楽があります。もともと西インド諸島の軍員のバンドマンたちが伝えたカリブ海の音楽でしたが、そこにアフリカのリズムやメロディを足したアダハと呼ばれるブラス音楽を生み出します

イギリスの植民地支配下ではよりヨーロッパっぽいダンスブラスへとなります。アシコ、アダハ、オシビサーバといったジャンルがそれにあたります。

アメリカやイギリスの兵が二次大戦で駐留するとスウィングが混ざり、ダンスブラスはスウィングを汲んだ「ハイライフ」へ発展します

ここにパームワインが関わってきます

ギターの観点で大きく発展していたパームワインが導入されると、ハイライフはギター・バンド・ハイライフへと移ります

このように、アフリカ音楽では、存在している音楽が橋渡し的な役割を多くすることも特徴ですしパームワインはその役割を多く担っています

話が長くなりましたがアフリカで最初のポピュラー音楽「パームワイン」、この素晴らしい音楽が途絶えることのないよう一ファンとして、知識が足りないながらも欠いてみました。
本当に私、大して知らないんですけどパームワイン布教のために、、という感じです


ここまで読んで下さった方、本当にありがとうございました!!

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