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Papers,please の記憶

ここ数日でとみに人生が暇になったので、積んでいた本を読んだり、キン肉マンⅡ世のアニメを視聴したりと娯楽の少ない小学生の夏休みのような過ごし方をしている。
その一環でゲームでもやろうかと思っていたところに丁度友人から声をかけてもらい、Steamの話になって、表題のゲームのことをふと思い出したのでテキストに起こしてみようと思った次第だ。

主人公は架空の共産主義国アルストツカで入国審査官として働くしがない公務員。タイトルを読んで字のごとく、入国してくるキャラクターに書類を提示させ、不備がないか目を皿にして確認するという趣旨の典型的な作業ゲーなのだが、これがまた、窓口にお越しになる連中があまりに多彩。
(一例)
・職を求めてやってきた移民
・どう見ても売り飛ばされてきたであろう妙齢の女性
・雑すぎる偽造書類を引っ提げて再三アタックしてくるおっさん
・素人目にもテロリストにしか見えないやつ

日増しに煩雑になっていく手続きに、朝令暮改で使い物にならなくなる証書。
不法入国を試みるものは後をたたず、手を変え品を変え、時に巧妙に、時にずさんに審査をかいくぐろうとしてくる。

当然、ミスをすれば手当てはゴリゴリと削られ
精査のすえ不正を看破できたとしてもごっそりと減る就業時間。
歩合制の我々にとってこれは大問題で、逼迫した家計にさらに追い討ちをかけることになる。

私の薄給に嬶は仏頂面、息子は腹ペコで義母は虫の息。
彼女の薬代を捻出しようとすれば、食糧は見送らねばならない。

さすれば今度は息子の健康状態が悪くなるのも時間の問題であり…と頭を抱えているところに、当の息子から誕生日プレゼントにクレヨンを買ってくれないかというなんとも間の悪い打診が。
こいつ本当に私の種か?

そんな生活苦にあえぐ私の鼻先にちらつく袖の下。
額にして食糧半日分、アルストツカの官吏としての尊厳をなげうつには些か安すぎるのだが、この忌々しいはした金で息子にパンを食わせてやれるのもまた事実。

こうして私は、意図しない性急さで人生の岐路に立たされることとなる。

明らかに書類に不備があるが、国境を越えられなければ過酷な運命を免れないであろう移民に慈悲をかけてやるのか?

売春の元締めをしている悪漢を、私の裁量で締め出してしまうのか?

食費や暖房費を切り詰めた結果、重篤な状態に陥った家族を見殺しにするのか?

カネに目がくらんでテロの片棒を担ぐのか?

共産国家特有の閉塞感を体現したような陰鬱なBGMに急き立てられて、選び取った道の先に何が待っているのか。

分岐すること20エンディング、何度でも遊びたくなるようなゲームであったのだが
私は完全に畜生道に落ちてしまい、テロに加担したり、口減らしを念頭に食費を削ったり(当然我が子の誕生日もスルーした)、警備員と共謀して拘束手当を稼いだりしていたところ、ある日国境でテロが発生。
いともあっさりと落命してしまい、その殉職と呼ぶにはあまりにおこがましい死に様にモチベーションが廃人レベルまで落ちたため、それ以降はプレイしていない。

アルストツカに栄光がもたらされんことを、草葉の陰から祈っている。

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