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#小川洋子

「余白の愛」小川洋子

初版 2004年6月 中公文庫 あらすじ 耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Y。その特別な指に惹かれたわたしが彼に求めたものは…。記憶の世界と現実の危ういはざまを行き来する。幻想的でロマンティックな長篇。瑞々しさと完成された美をあわせ持つ初期の傑作。(Bookデータベースより) 小川さんの本4冊目。 こうして読んできて一貫しているのは、隔たった一つことに無心に取り組む登場人物たち。その文章は穏やかで美しく、一見ささいで退屈な日常を幻想的にロマンチックに切り取る。 反

小川洋子「博士の愛した数式」

初版 2005年11月 新潮文庫 あらすじ 「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。 (アマゾン商品紹介より) 私は学生時代、数学が大の苦手だった。 結

小川洋子「人質の朗読会」

初版 2014年2月 中公文庫 あらすじ 遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。(アマゾン商品紹介より) ・・・ネタバレあり・・・ 始めは何か観念的な世界観の話かと思ったけど リアルに南米のテロリストに拉致されて人質となった日本人8

小川洋子「猫を抱いて象と泳ぐ」読書感想

初版 2011年7月 文春文庫 少年がデパートの屋上に取り残された象に心を寄せるところから始まります。その象インディラは、子象の時に屋上遊園地に見世物として運び込まれ、大きくなったら屋上から降ろせなくなって、そのまま屋上で孤独に生涯を閉じました。 インディラの錆びた足輪の記念碑と、おそらく長年そこにいた事でできた窪みの水溜りに心を寄せて、少年は想像のなかでインディラを友達にしています。 また、自宅と隣の家の細すぎる隙間に、挟まったまま誰にも気づかれず死んでいった・・・かもし