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#読書レビュー

読書レビュー「渚にて」 ネヴィル・シュート

初刊        1957年 新訳版       2002年 創元SF文庫初版  2009年 あらすじ 第三次世界大戦が勃発し、世界各地で4700個以上の核爆弾が炸裂した。戦争は短期間に終結したが、北半球は濃密な放射能に覆われ、汚染された諸国は次々と死滅していった。かろうじて生き残った合衆国の原潜〈スコーピオン〉は汚染帯を避けてメルボルンに退避してくる。オーストラリアはまだ無事だった。だが放射性物質は徐々に南下し、人類最後の日は刻々と近づいていた。そんななか、一縷の希望が

読書レビュー「哀しみの女」五木寛之

初版 1989年8月 新潮文庫 あらすじ 年下の画家・章司と暮らす和実は、たまたま見かけた異端の天才画家エゴン・シーレの作品「哀しみの女」に、自分の未来の姿を予感する。そして、彼女は、モデルであり画家の愛人でもあった女の薄幸な人生に、自分の運命を重ね合わせていた…。ウィーン世紀末の画家とモデルとの退廃的な関係を現代に重ねて、男の野心と女の愛を描く大人のための恋愛小説。 (アマゾン商品紹介より) この作品で、エゴン・シーレという画家も「哀しみの女」という絵も初めて知りました

読書レビュー「晴天の迷いクジラ」窪 美澄

初版 2014年7月 新潮文庫 あらすじ デザイン会社に勤める由人は、失恋と激務でうつを発症した。社長の野乃花は、潰れゆく会社とともに人生を終わらせる決意をした。死を選ぶ前にと、湾に迷い込んだクジラを見に南の半島へ向かった二人は、道中、女子高生の正子を拾う。母との関係で心を壊した彼女もまた、生きることを止めようとしていた――。どれほどもがいても好転しない人生に絶望し、死を願う三人がたどり着いた風景は──。命のありようを迫力の筆致で描き出す長編小説。 (新潮社HPより) 物

読書レビュー「銀の森へ」沢木耕太郎

初版 2018年 3月 朝日文庫 朝日新聞で15年続いた、沢木さんによる映画エッセイを「銀の森へ」「銀の街から」の二冊に書籍にまとめたうちの一冊です。 本作「銀の森へ」は1999~2007年までに執筆された「ローマの休日」「シックスセンス」「ミリオンダラーベイビー」「ロストイン・トランスレーション」「メゾン・ド・ヒミコ」などなどについての映画評、90篇を収載したものです。 1作品について約3ページ程度の、映画評としては短めの中文程度にすっきりまとめ、映画評論家の書く映画評と

読書レビュー「風神雷神」上・下 柳広司

初版 2021年3月 講談社文庫 上巻あらすじ 扇屋「俵屋」の養子となった伊年は、醍醐の花見や、出雲阿国の舞台、南蛮貿易の輸入品から意匠を貪り、絵付けした扇は評判を増す。すると平家納経の修理を依頼される栄誉に。さらに本阿弥光悦が版下文字を書く嵯峨本、鶴下絵三十六歌仙和歌巻の下絵での共同作業を経ると、伊年の筆はますます冴えわたる。 下巻あらすじ 俵屋を継ぎ妻を娶った宗達は、名門公卿の烏丸光広に依頼され、養源院に唐獅子図・白象図を、相国寺に蔦の細道図屏風を完成させる。法橋の位

読書レビュー「テロルの決算」 沢木耕太郎

初版 1982年9月 文春文庫 あらすじ 山口二矢は日比谷公会堂の舞台に駆け上がり、社会党委員長浅沼稲次郎の躰に向かって一直線に突進した・・・。右翼の黒幕に使嗾されたというのではない自立した17歳のテロリストと、ただ善良だったというだけではない人生の苦悩を背負った61歳の野党政治家が激しく交錯する一瞬を描き切る。大宅ノンフィクション賞受賞作。 本作は 昭和35年10月12日、日比谷公会堂で行われた立会演説会で、社会党委員長浅沼稲次郎が17歳の少年山口二矢が握りしめた一本の

読書レビュー「雪男は向こうからやって来た」角幡唯介

初版 2013年11月 集英社文庫  あらすじ ヒマラヤ山中に棲むという謎の雪男、その捜索に情熱を燃やす人たちがいる。新聞記者の著者は、退社を機に雪男捜索隊への参加を誘われ、二〇〇八年夏に現地へと向かった。謎の二足歩行動物を遠望したという隊員の話や、かつて撮影された雪男の足跡は何を意味するのか。初めは半信半疑だった著者も次第にその存在に魅了されていく。果たして本当に雪男はいるのか。第31回新田次郎文学賞受賞作。(アマゾン商品紹介より) これは、大真面目なUMA捜索ドキュメ

読書レビュー「その峰の彼方」笹本稜平

───人はなぜ山に登るのか という問いに正面から愚直に挑んだ山岳小説だと思います。 主人公の津田悟は冬のマッキンリーの難ルート単独登攀をして、遭難。 友人の吉沢と地元山岳ガイドたちによる捜索行を通して、 津田はなぜ危険な単独行に挑んだのか?安否はどうなのか? という事だけに焦点を絞って、 余計な伏線を張らずシンプルに描いています。 冬のマッキンリーと言えば、冒険家の植村直己氏が遭難した山としても有名で、ヒマラヤのエベレストと比較してもその危険度は高い山。 と、素人でも知

読書レビュー「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」 角幡唯介

初版 2012年9月 集英社文庫 あらすじ チベットの奥地、ツアンポー川流域に「空白の五マイル」と呼ばれる秘境があった。そこに眠るのは、これまで数々の冒険家たちのチャレンジを跳ね返し続けてきた伝説の谷、ツアンポー峡谷。人跡未踏といわれる峡谷の初踏査へと旅立った著者が、命の危険も顧みずに挑んだ単独行の果てに目にした光景とは―。第8回開高健ノンフィクション賞、第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。(アマゾン商品紹介より) 角幡さんは、僕がこれまで

読書レビュー「旅をする木」星野道夫

初版 1999年3月 文春文庫 つい数日前ぼんやりとネットサーフィンしていて、ふと本書の文庫版カバー写真が目に留まり、リンク付けしてあったアマゾンで内容を調べた時、恥ずかしながら僕は星野道夫さんという人を初めて知りました。 19歳の時、神田の洋書店で見つけたアラスカの写真集に魅せられ、住所もよくわからずあてずっぽうでアラスカインディアンの村に直接手紙を書いたところ、思わず村長から返信があり、ホームステイに招かれる。1978年26歳でアラスカ大学に留学し、以来、アラスカを拠点

読書記録 小池真理子「神よ憐れみたまえ」

初版 2021年6月 新潮社 人は誰でも心の奥の奥の底のまた底に、 開いてはいけないフタがあるのではないか。 例えば人を殺したいとか、死にたいとか。 男なら、道端でお色気ムンムンの女性を見かけた時、 もしも自分が昆虫だったなら、 ソッコー後ろから抱き着いてしまえるのに・・とか。 そんな衝動にかられたり・・・ しかし自分は昆虫ではない、人間なのだ。 理性をもたなければならない。と自分にブレーキをかける。 ブレーキはかけても・・そんな衝動にかられたこと自体が 自分でもキモイ。

小川洋子「人質の朗読会」

初版 2014年2月 中公文庫 あらすじ 遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。(アマゾン商品紹介より) ・・・ネタバレあり・・・ 始めは何か観念的な世界観の話かと思ったけど リアルに南米のテロリストに拉致されて人質となった日本人8

「アイ」西加奈子 読書感想

初版 2019年11月 ポプラ文庫 最近書店でよく見かけて、気になっていた作家さん。 はじめて読みました。 記念すべき第1冊目です。 この物語の主人公はワイルド増田アイ。 アイはシリアで生まれた。 本当の両親は知らぬまま、赤ん坊の時、アメリカ人の父と日本人の母のもとに養子としてやってきた。 小学校卒業まではニューヨーク、ブルックリンの高級住宅街で育つ。 両親は慈善活動家で、4歳の頃には世界の不均衡について教えられ、養子であることも教えられた。 アイは表面的にはおとなしく素

「すべて真夜中の恋人たち」川上未映子 読書感想

初版 2014年10月 講談社文庫 あらすじ 入江冬子(フユコ)、34歳のフリー校閲者。人づきあいが苦手な彼女の唯一の趣味は、誕生日に真夜中の街を散歩すること。友人といえるのは、仕事で付き合いのある出版社の校閲社員、石川聖(ヒジリ)のみ。ひっそりと静かに生きていた彼女は、ある日カルチャーセンターで58歳の男性、三束(ミツツカ)さんと出会う・・・。 (アマゾン商品紹介より) SNSで、「文章がきれい」「彼女の書く表現が好き」との声をたびたび目にして。 比較的若い女性層から支