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読書レビュー「テロルの決算」 沢木耕太郎

初版 1982年9月 文春文庫 あらすじ 山口二矢は日比谷公会堂の舞台に駆け上がり、社会党委員長浅沼稲次郎の躰に向かって一直線に突進した・・・。右翼の黒幕に使嗾されたというのではない自立した17歳のテロリストと、ただ善良だったというだけではない人生の苦悩を背負った61歳の野党政治家が激しく交錯する一瞬を描き切る。大宅ノンフィクション賞受賞作。 本作は 昭和35年10月12日、日比谷公会堂で行われた立会演説会で、社会党委員長浅沼稲次郎が17歳の少年山口二矢が握りしめた一本の

読書レビュー「雪男は向こうからやって来た」角幡唯介

初版 2013年11月 集英社文庫  あらすじ ヒマラヤ山中に棲むという謎の雪男、その捜索に情熱を燃やす人たちがいる。新聞記者の著者は、退社を機に雪男捜索隊への参加を誘われ、二〇〇八年夏に現地へと向かった。謎の二足歩行動物を遠望したという隊員の話や、かつて撮影された雪男の足跡は何を意味するのか。初めは半信半疑だった著者も次第にその存在に魅了されていく。果たして本当に雪男はいるのか。第31回新田次郎文学賞受賞作。(アマゾン商品紹介より) これは、大真面目なUMA捜索ドキュメ

読書レビュー「その峰の彼方」笹本稜平

───人はなぜ山に登るのか という問いに正面から愚直に挑んだ山岳小説だと思います。 主人公の津田悟は冬のマッキンリーの難ルート単独登攀をして、遭難。 友人の吉沢と地元山岳ガイドたちによる捜索行を通して、 津田はなぜ危険な単独行に挑んだのか?安否はどうなのか? という事だけに焦点を絞って、 余計な伏線を張らずシンプルに描いています。 冬のマッキンリーと言えば、冒険家の植村直己氏が遭難した山としても有名で、ヒマラヤのエベレストと比較してもその危険度は高い山。 と、素人でも知

読書レビュー「空白の五マイル チベット、世界最大のツアンポー峡谷に挑む」 角幡唯介

初版 2012年9月 集英社文庫 あらすじ チベットの奥地、ツアンポー川流域に「空白の五マイル」と呼ばれる秘境があった。そこに眠るのは、これまで数々の冒険家たちのチャレンジを跳ね返し続けてきた伝説の谷、ツアンポー峡谷。人跡未踏といわれる峡谷の初踏査へと旅立った著者が、命の危険も顧みずに挑んだ単独行の果てに目にした光景とは―。第8回開高健ノンフィクション賞、第42回大宅壮一ノンフィクション賞、第1回梅棹忠夫・山と探検文学賞。(アマゾン商品紹介より) 角幡さんは、僕がこれまで

「余白の愛」小川洋子

初版 2004年6月 中公文庫 あらすじ 耳を病んだわたしの前にある日現れた速記者Y。その特別な指に惹かれたわたしが彼に求めたものは…。記憶の世界と現実の危ういはざまを行き来する。幻想的でロマンティックな長篇。瑞々しさと完成された美をあわせ持つ初期の傑作。(Bookデータベースより) 小川さんの本4冊目。 こうして読んできて一貫しているのは、隔たった一つことに無心に取り組む登場人物たち。その文章は穏やかで美しく、一見ささいで退屈な日常を幻想的にロマンチックに切り取る。 反

小川洋子「博士の愛した数式」

初版 2005年11月 新潮文庫 あらすじ 「ぼくの記憶は80分しかもたない」博士の背広の袖には、そう書かれた古びたメモが留められていた―記憶力を失った博士にとって、私は常に“新しい”家政婦。博士は“初対面”の私に、靴のサイズや誕生日を尋ねた。数字が博士の言葉だった。やがて私の10歳の息子が加わり、ぎこちない日々は驚きと歓びに満ちたものに変わった。あまりに悲しく暖かい、奇跡の愛の物語。第1回本屋大賞受賞。 (アマゾン商品紹介より) 私は学生時代、数学が大の苦手だった。 結

小川洋子「人質の朗読会」

初版 2014年2月 中公文庫 あらすじ 遠く隔絶された場所から、彼らの声は届いた―慎み深い拍手で始まる朗読会。祈りにも似たその行為に耳を澄ませるのは、人質たちと見張り役の犯人、そして…。人生のささやかな一場面が鮮やかに甦る。それは絶望ではなく、今日を生きるための物語。しみじみと深く胸を打つ、小川洋子ならではの小説世界。(アマゾン商品紹介より) ・・・ネタバレあり・・・ 始めは何か観念的な世界観の話かと思ったけど リアルに南米のテロリストに拉致されて人質となった日本人8