当事者でない者が読む、西牟田靖『わが子に会えない』(SAKISIRU関連)
卓球の愛ちゃん騒動
元卓球日本代表で五輪メダリストの福原愛さんが、東京家裁から前夫で元卓球台湾代表の江宏傑さんに子どもを引き渡すように命じられた問題が女性週刊誌や芸能ニュースなどで取り上げられ話題になりました。
一方でこの話題が難しい事情として、離婚や親権などは、経験した当事者でないと分からないこと、そして日本が列国の共同親権でなく単独親権制度である点についてメディアの解説報道が十分でないように感じました。
ネットメディアSAKISIRUで共同親権問題の深掘報道をしている
私も購読しているネットメディアのSAKISIRUでは共同親権の問題を創刊以来重点的に取り上げてきました。当初は私も「オレ関係無いし、いいや」で読み飛ばしてましたが、読んでみるうちに重要と気づかされました。
共同親権の問題は当然ながら当事者に関心が高いです。一方で当事者でない方の関心が広がりにくいことが制度改正の気運が高まらない要因であるようにも感じます。
ルポライター西牟田靖さん
共同親権の問題は特に西牟田靖さんがSAKISIRU等に寄稿したり、著作も出されています。本書はその一端です。
そこで、西牟田さんの共同親権に関しての著作を「当事者でない者」が読んだ感想や疑問、共同親権関連して考えたことをまとめて書いてみました。当然ですが当事者が読む感想とは全く違ったものと思います。
本書はルポライターの西牟田さんの筆により、それぞれ当事者のリアルな18人の話が連なっています。18人それぞれ事情も違います。考えてみればこれは当たり前なのに読むまで気づかなかった点です。
また西牟田さん自身が当事者でもあることで、当事者の心の内を遠慮なく話せたことが大きいと思います。
正直、それぞれの18人の例は気の毒としか言いようがありません。しかし、西牟田さんの筆から当事者の事実関係に徹しつつも、「気の毒」だけで終わらせていいのか、考えさせられます。
ちなみに、私も地域の図書館で借りようとしましたが、いつも借りられており、なんか変だなと思ってました。確認したところ人気だったようで、この問題に関する「需要」を感じます。
(1)当事者の部下・同僚から話を聞かされた
個人的な経験談として。私も当事者ではないのですが、部下・同僚には当事者もいます。
人事関連も担当していることもあってか、酒席で「わが子に会えない」事情の裁判で休む等の愚痴を聞かされました。上司としても、ただ聞くだけでもいけませんので、SAKISIRUの受け売りで「こういうことだよね?」と話をしたら、えらく理解のある上司?と思われたようです。単にうぬぼれかもしれませんが。コミュニケーションとして信頼関係は業務として大切です。
ともあれ、友達や部下が離婚と親権で悩んで愚痴を吐露した(したがっている)時に、概略を掴むには最適の本と言えます。
(2)そもそも「離婚=親子の別離」のイメージ自体がおかしい
正直、私も当初はこのイメージを持っていました。考えてみれば、この定着しているイメージ自体がおかしなことです。
これは本書を読んで改めて思いました。同時に、当事者でない私のような人たちに対しては「離婚=親子の別離」イメージ自体がおかしい、まずここから説き起こす必要性も感じました。
そして、このことを「リベラルな」法学者・弁護士などが、人権問題としてあまり言わないのが不思議です。
(3)DVの問題と親権の問題が混同されてないか
共同親権反対の方々からDV問題が指摘されているのを見ます。しかし、当事者でない者からするとDVと親権の法制を混同していると感じました。
また、本書での18人の話を読むと離婚の事情には、その数だけ事情の数があることを実感します。「離婚=DV」もあるとしても、DVだけではないはずです。本書の18人の事例、多種多様の人間模様をどう読むのでしょうか。共同親権で即DV問題大発生と言うわけでもないと思いますが。ここがどうも解せません。
なお、基礎的な知識の理解としては森めぐみさんのnoteも非常に参考になりました。
(4)国民が裁判所にかかわる機会
一般の方が裁判所に関係することは、ほとんどありません。私も勤務先で契約等の分野も担当範囲ですが、幸いにも(?)裁判はありません。考えてみると裁判を経験した人が人口比でどれだけなのか疑問です。
しかし、一般の方が「裁判所」を経験する可能性が高いのは「離婚」だと本書を読んで改めて実感しました。本書の18人の事例でも裁判所での係争について出てきます。
まとめる形の西牟田さんのあとがきが印象に残りました。「裁判所が親子を引き裂いている」ケースも少なくありません。
しかし、18人は離婚まで「裁判所」をどれだけ知っていたでしょう。法学部でもなければ関心も無かったと思います。さらに西牟田さん自身が法学部でも、知識どれだけ役立ったか。
さらに国民的に民法、中でも家族法など「身近な法律の理解」という課題も本書の18の事例を読んで感じたことのひとつです。結婚するとき民法の中の家族法全部熟読し納得した上で婚姻届にサインした人どれだけいますかね。
そもそも民法自体がムダに難解ですが、法曹界に「法律が難解なこと自体が悪」と言う認識が全然無いことを政治家はなぜ問題にしないのでしょう。
【追記】民法が難解という点で追記します。民法が難解な理由について4点ほど挙げます。
①判例や学説を知らないと意味がわからない条文がある
②難解な用語が定義を明記しないまま使われている
③日常使うことと別の意味をもつ言葉がある
④前提となる原則を明文化せず、原則を適用しない例外だけを定めた条文がある
(5)弁護士のマーケット
一般人が裁判に関係する機会が少ない現実の一方で、司法試験改革もあって弁護士は増えたので、「余っている」とも言えます。逆に問題に泣き寝入りしてるだけの面もあります(弁護士はこの立場)。
そうなると、離婚や親権の問題が弁護士にとってマーケットである側面が見逃せません。共同親権に変更した場合に、弁護士の「仕事」が減るなら、既得権としての抵抗はありえます。この抵抗が改正案に影響を与えた中途半端な妥協案が仮にあれば本末転倒ではないでしょうか。
(6)国際的な人権問題としての重要性
私が重要視するのがこのポイントです。列国と異なり単独親権の日本が世界的に人権に問題ある国と見なされる点があまり知られてないと思います。
国際結婚の数も多くなり、それに比例して国際離婚があるのは当然です。この中でオーストラリアが日本政府の対応に強く申し入れています。
鉄道好きで知られる米国のエマニュエル大使も最近はLGBT問題で保守系から総スカンですが、米国議会でこの問題を約束していたようです。
いずれもG7や、豪NZなど同盟国及び準ずる国、いわば「共通の価値観」で語る国々です。これらの国々から親権の問題を「人権問題」として非難を受ける事態です。
これらの国々から人権問題で劣後しているという指摘は、広い意味で安全保障上の影響も考える必要があります。
私がふと思いだしたのは、明治の条約改正です。西洋に合わせるための国内の制度改正とそれに対する反発。条約改正に関する五百旗頭薫氏の大著に描かれるハードルと合意形成をめぐる政治の人間模様に嘆息します。
(7)芸能人の親権の話題での関心
芸能人には申し訳ないのですが、芸能ニュースなどでこの親権が絡んでいるものもあります。杏さんも東出昌大さんと離婚されたのち、フランス移住という話題が出ました。ここでも、共同親権の問題が関連しています。
ワイドショーでもどういう解説をしているのかわかりませんが、「才女タレント」(?)の山口真由さんの共同親権に関する論考は非常に考えさせられます。自分が疑問に感じるDV問題との関係も山口さんだけが理解できる説明でした。
なお、山口さんの言及している映画はこれです。
芸能人には申し訳ないですが、問題に対する関心の高まりにつながるかどうか。反対にしても賛成にしても、身近な法制度の問題を政治の場でどう論じるのか、当事者でないからこそ議論のあり方も含め今後の展開に注目していきたいところです。