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「こみっくパーティー」の楽曲を考える。

「こみっくパーティー」とは1999年5月28日にLeaf/AQUA PLUSが発売したPCゲームである。

同人誌即売会を通じて女の子と交流を深め、恋愛に至るまでの過程を描いた作品になっており、今日においても他に類を見ない題材故に当時はアニメ化やコンシューマー化を果たすなど大ヒットを飛ばした名作として名高い。

私も本作のファンであり、コミックマーケットの時期になるとビッグサイトに足を運ばずとも、SNSやTVのニュースから伝わる現地の状況を目にすると自然に「こみっくパーティー」の事が脳裏に浮かんでしまう。

私事ではあるが、C101にてコミックマーケットに初参加をして以来、自ずと「こみっくパーティー」を思う日々が続き、サウンドトラックやボーカルアルバムを聴くことが多くなっていた。

本稿では約一か月近くの間、本作の楽曲について自分なりに考えたイメージ、感想を書き連ねる同人誌としてここに発行したいと思う。

個人的に思う「こみっくパーティー」という作品

一見するとコメディ色の強い本作であるが、その実は意外と繊細な箇所にスポットライトを当てている作品になっている。

その繊細な箇所とは誰しもが持つ「立場の変化」そして「気持ちの移ろい」である。

本作は人間関係であったり自分の思想や信念、そして社会における立ち位置などの変化を季節の移ろいと共に丁寧に描いている。

男女の関係が分かりやすいだろうか。
春の頃は特に意識もしていなかった異性がふとした瞬間から気になる存在になり、季節が夏から秋に変わるまでの時間を経てそれが恋だと気付き、冬に至る頃にその気持ちを打ち明けるシナリオが本作では多い印象がある。

人の気持ちはすぐには動かないものだ。
少し会話をした程度では人は恋には落ちない。
それを意識するには季節が一周する程の時間を要すると本作は訴えているように思う。

公式ビジュアルファンブックにおいてゲーム内で1ヶ月毎に開催される同人誌即売会は月刊誌の様な物であると開発スタッフが発言されていた。

実際に私達の日常生活において発生するイベントもそうだろう。
人との交流や目標を達成するために費やす時間は一朝一夕では無い。
長い時間をかけて、その合間にいくつもの出来事を重ねて一つの「ルート」に結実するのだ。

その誰しもが抱いたことがあるであろう、人間の繊細な感情の移ろいの瞬間を丁寧に描いているのが本作の見どころの一つである。

それに並行して本作のテーマの一つに「変わらないこと、偽らない事」がある。

矛盾しているような見出しであるが、実はこのテーマも本作では重要なファクターになっていると私は考えている。

何気ない関係性から恋愛関係への移ろいや、自分の同人活動に懸ける信念がテーマになる本作において何より重要なのは「登場人物一人ひとりが持つ本当の気持ち」であり、それが焦りや恐れから揺らいでしまうと必ずしも良い結果には結びつかないといった場面が本作では多く登場する。

あくまで自分らしく、素の気持ちのまま、相手や起こる出来事に向き合う事で本当の物語が見えてくるのが「こみっくパーティー」なのである。

「こみっくパーティー」の楽曲

本作は1999年の発売以降、家庭用ゲーム機への移植を皮切りに二度のアニメ化を果たすなど、あらゆる媒体で世のオタク達を席巻してきた。

ここで注目してもらいたいのは、本作が多数のメディア媒体とクロスオーバーした点にある。
何れの媒体においても主題歌とEDテーマが異なっており(但し、重複する物も有り)、比例して曲のバリエーションも富んだものになっている。

果たして意図された物であるかどうかは定かではないが、シリーズの曲を一通り聞いてみるとあることに気が付く。

それは全ての楽曲が集約し一つの物語を構築している点である。

PC版主題歌「As time goes by」を聴いたことがあるお兄さんお姉さんはいらっしゃるだろうか?
この曲を聴いたことがある方なら誰しもが思うのは、果たしてこの曲の意図した物は何か?という点である。
美少女ゲームの主題歌は作品の持つイメージや恋愛を歌った曲が定石だが、「As time goes by」に関しては「朝早く起きた日に弁当を持ってピクニックに出かけ、またいつか増える家族を連れて行こう……」という一見すると本作の内容は元より、恋愛や同人誌即売会とは何の関係も無い曲に仕上がっている。

冒頭で述べた通り「こみっくパーティー」は同人誌即売会を通じて女の子と仲良くなる事を主題に置いた作品である。
しかしながら、作品の初リリースを飾る曲なのにも関わらず、一見すると全く内容と関係ない歌詞をそこに込めたのだ。

それではEDテーマはどうなのか?というと、実はこれも同人誌即売会に関する要素は無い。恋を意識した少女の胸中の思いを歌った曲であり、何も前知識が無い人間に、これはTo Heartの曲だと言えば恐らく信じてしまうだろう。

何故、Leafは主題歌にこの2曲を制作したのだろうか。

個人的な解釈に過ぎないが、Leaf作品はOPとEDで時間の経過を表現していると考えている。
「To Heart2」を例にすると、OPの「Heart To Heart」は思春期の少女が抱く仄かな恋心を歌った曲に対してEDの「ありがとう」は成長し、大人になった時にかつての少女時代を偲ぶ内容に仕上がっている。
つまりは少女時代と成年時代との対比になっており、その時代間における感性の移り変わりと時の流れにおける寂寥感を巧みに利用してシナリオ読了時にプレイヤーが抱く充実感を引き立たせているのだ。

「こみっくパーティー」も恐らくその例に漏れない。
ただ異なるのがその順が逆になっている事であり、ED曲の「恋わずらい」は先述した通り、恋を意識した少女の心情を歌った曲になっている。
それを考えるとOP曲の「As time goes by」はその恋が実り、夫婦となった二人の未来と考えられる。

これは冒頭で述べた「こみっくパーティー」が登場人物の繊細な心情の移ろいや時の流れを丁寧に描いていると言っても過言ではないだろう。

そこに着目すると、アニメ版やコンシューマー版を彩った曲が光る。

「As time goes by」と「恋わずらい」は恋愛感情の自覚から夫婦となった未来を描いている。
その間の過程。言わばミッシングリンクともいえる時間を埋めるのが数々の媒体で主題歌を飾った曲達なのだ。

恋をしている限り続いた戦いの日々から、新しく増える家族を連れて山に向かうまで


「君のままで」は揺れる心情に悩む誰かと友だちになり「Fly」において友達という境界線を超え、「笑顔を見せて」では二人の行く末を案じたりしたけど、「一緒に暮らそう」で二人で2LDKの部屋を借りるようになった。

そして「As time goes by」において、あなたとポチを連れて山に向かうに至る。

恐らくPC版を開発していた当初は意識していなかった筈だが、コンシューマーへの移植とアニメ化を果たしたことでキャラクターの心情を繊細に描けることが出来たのは素晴らしいと思う。

それは図らずとも、ゲーム中における1年通して行われる「こみっくパーティー」の様である。

ただ全ての出来事に通して言えるのは「As time goes by」……その時のままに、今を楽しむ事だろう。






















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