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一口エッセイ: 私を許さないで 憎んでも覚えてて

 中島みゆき『空と君のあいだに』の「憎むことでいつまでも あいつに縛られないで」という歌詞が好きです。中島みゆきの詞はどれも素晴らしいけれど、この歌詞は特に良い。「縛られないで」の切なさが胸を打つ。憎しみゆえに意識し続けるから前に進めない。あなたの価値は、あいつ程度に縛られていいものではない。わかってはいても縛られてしまうから執着なのでしょう。
 さて、中島みゆきの話をしたならば、とうぜん松任谷由実の話もしなければなりません。ユーミンの『青春のリグレット』は、憎むことで縛られている方と、偶然にも対となるような歌詞となっておりまして、サビのフレーズが「私を許さないで 憎んでも覚えてて」。憎まれてもいい。むしろ、憎んで、許さないでいてほしい。それは相手が自分に囚われ続けている証だから。
 恋焦がれた相手の消えない傷になれたら、いつまでも忘れられない記憶の一部になれたら。例えそれが憎悪の感情だとしても、ずっと自分を思っていて欲しい。そんな歪な愛情を、端的に、詩的に表現したなんと美しい詞でしょうか。憎まれることで一生相手を自分へ縛りつけていたい。これも間違いなく愛だ。サビは、「今では痛みだけが 真心のシルエット」と続く。愛憎入り混じった二人の関係を、痛みだけが繋ぎとめる。
 「憎しみ」の裏にある感情を表現した二人の女王。この偶然が、どこまでも愛おしい。


 

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