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一口エッセイ:VSわがままお姫様

 打ち合わせのため週一でプロデューサーの家に通っているため、だんだんとプロデューサーの娘さん(3歳)と打ち解けてきた。今夜なんか僕の存在に気づいたら笑顔で駆けてきたうえで、「にゃるらくん」と呼んでくるので友達だと認識されているらしい。
 僕は僕で「オモチャ」という概念が好きなので、会うたびに「新しいオモチャある?」と尋ねている。娘さんは今回、キリンが描いてある謎のカードを見せてきたので、ためしに裏返してみると裏面にはバスが描いてあった。意味がわからん。近くにオモチャのティアラが落ちていたので頭に着けてやったが、本人からはティアラが見えないので全く気づいていなかった。知らないうちにお姫様になっているというのに、自分だけはその様を知覚できない。皮肉なことですね。
 気づけば背後に居ることも多く、その時は腕を引っ張って背中でおぶり、ゲーセンにある乗り物系のエレメカのように上下に揺れてやるとケタケタ喜ぶ。今夜も後ろ側に回ってきたので腕を掴んだのだが、なんらかのタイミングが悪かったらしく大泣きしてしまった。
 急にわんわんと泣いてしまったので僕は慌てた。とりあえず謝ってみるのだが、何が不満で怒っているのか見当もつかない。そんなに強く掴んだつもりはないし、泣かせてしまった以上、こちらを怖がっているだろうからあやすために触れることもできない。あたふたしていたら、プロデューサーがするりと抱き上げ一瞬で泣き止ませた。「なんか嫌だったんだね〜ごめんね〜」と揺らしてやると機嫌を良くしたらしい。なるほど。なんで泣いたかなんて最早関係なくて、「なんかわからないけど不快でごめんね」でいいのだ。恐らく本人もなんで泣いているのかわかっていないし、今となってはどうでもいいのでしょう。
 とはいえ、僕が掴んだせいで泣いたのだから、さすがに罰が悪い。大人しくソファでじっとしていると、向こうからポケモンのぬいぐるみを自慢してきた。水ポケモンのぬいぐるみを認識したので、子供人気から推測し自動的に「ポッチャマじゃん」と言ってしまったが、「ミジュマル!」と叱られた。よく見ると本当にミジュマルで、僕の先入観による浅い間違いであった。どうやら娘さんはポッチャマでなくミジュマル派らしい。そのことについても謝ったが、全然聞いてない。すでに百均のバービー人形のパチモンにティアラを被せる行為に夢中である。




 僕もどうでもよくなってきたのでヨーグルトを食べていたら、「それなに?」と興味を持ってきた。「ヨーグルト一口やるよ」と先ほどの謝罪も兼ねてスプーンを突っ込んでやると嬉しそうに笑い、満足したのかソファで眠り始めた。と思ったら、「若干明るい」「布団をかけてほしい」「枕がない」と睡眠のための環境作りのため一つ一つを命令してくる。そのたびプロデューサーが優しく対応する。なんて光景だ。世のゲームクリエイターたちは、プロデューサーからお金を引っ張ろうと何日もかけた企画書を見てもらうため必死なのに、この子は「や!」の言葉一つで彼を顎で使う。育児とは恐ろしいぜ。
 周囲を一緒に遊ばせて、少しでも不快になったら泣いて、かまってもらえたらすぐに泣き止み、美味しそうなものは遠回しに要求するし、満足したら眠る環境を用意させる。こんなに自由で楽しいことしかない生活も今だけだろう。あと1.2年もすれば、もう少し自我が育って理性が生まれる。他人も困ることを理解してしまう。
 そう考えるとなんだか可哀想だな。理性なんて手に入れなければ、永久にオモチャもだっこも要求しまくりで許されるのに。小学生になったら勉学や人間関係も強制される。歳を重ねるにつれて楽しくないことが無限に湧いてくる。
 今が一番ワガママで楽しいんだ。頭のティアラに気づかなくともお姫様なのだ。なんでわざわざ姫から普通の女の子になるために生きていくのだろう。不思議なことだ。僕は今ウルトラマンブレーザーになりたいぜ。ブレーザーは目的と理由も何一つ明かされていないから、ウルトラマンの中でも特に「神的な存在」として描かれていてかっこいい。なんで人類に協力しているのか何一つわからず、ただ人間たちもブレーザーが味方と信じて「信仰」するしかない。すごい状況だぜ。
 僕も子供の頃はウルトラマンティガになっていたのだが。娘さんも永久にお姫様でいたいだろうけどな。

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