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「三大電波ゲー」とアダルトゲームの狂気

 ※数年前に書いた記事をnote用に加筆修正したものです。

・電波ゲーについて 


 先日、「エロゲー文化研究概論」という本を購入しました。

 この本はタイトル通り「アダルトゲーム」の歴史を一から記していく、情報量たっぷりの本となっており、僕のように生まれてすらいない時代のアダルトゲームを好んでプレイする偏屈野郎には堪らない一冊です。

 本書以前から、「超エロゲー」「超エロゲーハードコア」など、えっちなゲームを主に取り扱った書籍は存在したのですが、いずれも作品単位の情報が主であり、アダルトゲーム業界の発展と歴史を一冊まるごと使った内容は、恐らく「エロゲー文化研究概論」が商業作品初ではないでしょうか。

 さて、本書の魅力を全て書くと、それだけで一記事書けるレベルになるので感想は置いておくのですが、気になった点として、この本では「電波ゲー」についてあまり触れていないのです。
 電波・狂気ゲーと呼ばれるジャンルは、長いアダルトゲームの歴史の中に、常に影のように存在しています。
 決して、表にでるような作品ではないですし、アダルトゲームにおいてのエポックメイキングとなった作品を抽出して書き出した本書で深く取り扱ったりしないのは当然かも知れません。
 そのあたりは「エロゲー文化研究概論」の著者も参加している「ヤンデレ大全」や、先述した「超エロゲーハードコア」の分野に近いですね。その中でも数作電波ゲーの名前が出されたりしていました。

 まず、電波ゲー界には「3大電波ゲー」と呼ばれる作品が存在します。はっきりとした定義ではないので、たまに3つどころか5つくらいあったりしますが、主に「終ノ空」「ジサツのための101の方法」「さよならを教えて」の三作を指します。

 加えて、電波ゲーの話題に挙がりやすのが「沙耶の唄」「euphoria」。まずは三大電波ゲーの話に触れる前に、この2作品について解説していきましょう。

・沙耶の唄

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 画像から伝わる通り、本作のCGの殆どは赤や緑の肉塊で埋まっております。これらは「グロ肉」と呼ばれ、事故で脳に障害を抱えた主人公視点だと、沙耶以外の物体は全てこのようにグロテスクな光景となるという設定です。
 沙耶と主人公は最終的に種族間を越えた愛で結ばれる話となってまして、全体的に手塚治虫先生の「火の鳥」がモチーフになっており、それは作中の会話からも読み取れます。
 原型となった「火の鳥 復活編」はロボットと人間による禁断の愛を描いた作品。まあアダルトゲーム的には、ToHeartの時代からロボット娘と結ばれることに一切の躊躇すらないのですが。

 種族間を超えた恋愛描写・意欲的な設定は当然として、個人的に「沙耶の唄」で最も評価したい要素は、短編のコズミックホラー、いわゆる「クトゥルフ作品」として素晴らしい出来栄えな点。

 クトゥルフ神話の肝である「コズミックホラー」の概念とは、宇宙から飛来する対処不能の圧倒的な恐怖。これ以上解説するとクトゥルフ神話の話になるので割愛しますが、沙耶の唄の構成はコズミックホラーを軸にしたボーイ・ミーツ・ガールが丁寧に描かれております。電波やグロ抜きで、物語として一つの短編として名作です。


・euphoria

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 「euphoria」もまた、グロゲーの話題で引き合いに出される率が高い作品。
 あらすじとは、主人公と同級生の少女+先生が密室に閉じ込められ、次々に強制される目的不明の拷問に耐えていくといった内容。ハードな設定から「凌辱ゲー」に近い内容となっており、抜き要素にも力が入っているため、スカトロ描写やリョナ描写など、アブノーマルな性的嗜好の人にも安心のシナリオとなっています。

 が、それは本筋ではない。

 なんと「euphoria」は、終盤に入ると悪趣味なリョナゲーから一転し、緻密な設定を組まれた近未来SFゲーになるのです。なぜ主人公たちが集められて拷問させられるのか? それぞれのヒロインたちの思惑とは? 前半では明かされなかった疑問の一つ一つが繋がっていく快感は、本作品をただの拷問リョナゲーだと切り捨ててしまうにはあまりに惜しい。

 OP曲である「楽園の扉」でサビからの

世界中の哀しみ抱いても 叶えてあげる 本音聴かせて
憎しみでも貴方の記憶を私だけで 満たせたら 何もいらない

 歌詞の意味が理解でき始めるあたりから、完全にストーリーの虜となっていきます。「楽園の扉」は曲としての評価も高く、青葉りんごさんの聴いていてこちらも苦しくなるような張り詰めた歌声は必聴。
 終盤からの濃密な展開こそが「euphoria」を名作たらしめる理由であり、多数のオタクを夢中にさせた大きな魅力となっております。

・三大電波ゲー
・終ノ空

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 終ノ空は、後に「二重影」「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-」で有名となる、SCA-自先生による商業での処女作です。
 業界の話題をさらった異色作「素晴らしき日々 〜不連続存在〜」がこの作品のリメイクに近い形となっているので、知名度の高さでは三大電波ゲーの中でも際立っております。
 このゲームを皮切りに「電波ゲー」ブームが始まったと言われる程に話題となった作品であり、クスリをキメて哲学的な話を語りだす登場人物たちのトリップ具合は、誰もが圧倒されること間違いなし。

 世紀末に発売されただけあり、当時流行した終末予言を強が強く反映されておりまして、常に終末を連想させるジメジメとした世界観は、他作品ではなかなか味わえない感覚。
 終ノ空(素晴らしき日々)レベルの有名作ですと、僕の稚拙な文章なんかよりも数倍読み応えのある考察文が無限にありますので、特に本編の内容をここで解説するなど無粋な事は割愛します。


 また、18禁アニメとして製作されたアニメ版では、原作とはまた違った意味で「至れる」と評判なので、ぜひ一度は視聴して貰いたい。SCA-自先生自身もお気に入りです。
 話として綺麗にまとまっている分、今プレイするなら「素晴らしき日々」の方が無難ではありますが、「終ノ空」は旧作ゆえに技術的にチープな演出や纏まりよりも狂気性に重きを置いたシナリオが不気味さを際立たせている分、電波ゲーとしての本質を味わいたいならこちらをオススメします。

・ジサツのための101の方法

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 タイトルの時点で、電波がゆんゆんしている怪作。ヒロインだけで評価するなら三大電波ゲーで最も好きです。
 実質リメイクされた「終ノ空」や、あそBDで気軽に購入できるようになった「さよならを教えて」と違い入手しにくい分プレイ人口自体が狭く、話題にあがることが少ないので地味な印象があります。「エロゲー文化研究概論」内でも一切触れられていませんでした。僕が購入した時代は1万5千円いくかどうかでしたが、今では数万円級のプレミア品に。

 後述する「さよならを教えて」でも同じ仕様なのですが、「ジサツ101」では、ウィンドウ形式ではなく、画面に文字を被せるビジュアルノベル式となっており、画面が通常より一段階暗い環境で進んでいくのもこの作品の薄気味悪さを助長していく要因となっております。

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 「ジサツ101」の他の作品にない魅力として、印象的な設定の多さが挙げられます。まず、主人公が登場した瞬間からノイズのような効果音が絶え間なく流れるが、そのノイズの原因は主人公の幻聴であり、彼はこの雑音に「灰色」と名づけます。
 上記スクショまでで開始4,5クリック目の内容なのですが、この時点でもう僕は本作の虜となってしまい、まるで麻薬中毒者がクスリを吸い続けるように、画面に表示されていくテキストを追うことに夢中になっていました。

 プレイを続けていくと「耳に突っ込んだシャープペンを反対側から芯が出るまでノックすることで自殺」するキャラクターや、「アルミホイルで心臓を巻けば自殺波動は防げる」設定など、予想もうつかない展開が容赦なく浴びせられます。まさに電波ゲーと呼ぶに相応しい内容です。

 そんな「ジサツ101」の中でも、個人的には特にヒロインのあるセリフに惹かれて惚れ込みまして、

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特にこの一連の台詞は、今までプレイしたゲーム全体でも、五指に入るほど印象に残っています。
 「ジサツ101」には「希死念慮」という誰もが一度は通る感情をノベルゲームとして蠱惑的に表現し、その独特でハジけた作品としてのコクが、金月龍之介先生の巧みな文章により濃縮されているのです。

・さよならを教えて comment te dire adieu

 電波ゲーを語る上でトリを飾るのに相応しいのは、何と言っても「さよならを教えて」でしょう。

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 本来、僕なんかがこの作品に言及するのも烏滸がましいのです。だって、彼女は僕が畏敬する天使様なのだから……。 
 ……と言ってしまうと、わざわざここで例に出した意味がないので、掻い摘んで解説すると、まず本作品の主人公は精神がイカれた教師です。
 精神に異常があるので、脈絡なく生徒を犯したり、パンツをはいてズボンをはいて両方脱いで歩き出したり、運動場を選択しても平然と屋上へ行ったり、選択肢が全て「フェラチオさせる」になったりと、主人公の奇行を挙げると枚挙に暇がない程、この作品の全てに狂気染みたセンスが溢れています。

 狂気を感じさせる要素は台詞や行動だけでなく、CDの表面に悪趣味な単語が敷き詰めれていたり、ストーリーが進むにつれて学校のチャイム音が歪んだり、一貫して背景が夕焼けだったり(そのせいで全体的にCGや立ち絵に赤みがかっており、本来の髪の色がわからなかったりする)と、一から百までプレイヤーの精神を摩耗させる作り。

 さて、考察や解説は他のサイトに任せるとして、折角なので「さよならを教えて」が誕生した経緯の話をしましょう。と言っても、これもまたファンが熱く語っているページが存在するので、ここでは要点だけに。

 「さよならを教えて」は、Key作品全盛期にガッポガッポ儲かっていたビジュアルアーツから、「Kanon」みたいなの作ってよと、エロゲメーカー・クラフトワークに発注された作品。
 当時のクラフトワークでは、一般ウケを狙った純愛ゲー「flowers ~ココロノハナ~」「ToHeartのパクリ」扱いされ、どうにも売り上げが振るわず、代表であった長岡健蔵先生は金欠状態となります。
 そこで最後の頼みの綱としてビジュアルアーツ側にお金を用意してもらい、どうにか一花咲かそうと企画したのが「さよならを教えて」。
 どうして「Kanon」みたいなのを作ってと言われて史上最狂の電波ゲーができたのかはわからないですが、とにかく結果的にこうなってしまいました。
 が、出来上がりそうになったのは良いモノの、一つ大きな問題が発生します。

 なんと、このままだと発売日が「雫」「痕」で電波ゲーの先駆けとなった老舗「Leaf」の新作である「誰彼」と被ってしまう!

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 そこで二番煎じだ何だと非難されるのを恐れ、日和って延期したりなど様々な要因が重なり、社運を賭けた「さよならを教えて」は500枚売れたか売れないかの結果となった……。

 そして、近年になりニコニコ動画内で当時最先端の流行であったアイマスMAD動画に「さよならを教えて」のOPが使われるまで、「さよ教」の名前はごく一部にのみひっそりと語られる……。 

 かなり省きましたが、大体の内容は概ねこんな感じです。しかし、世の中何がきっかけでブームが来るのかわからないもので、今では「さよならを教えて」は、「あそBD」として再販もされる程に一般に認知され、高騰状態で手が出せなかった多くの「さよ教難民」の助け舟となったが、時代は繰り返すもので再販分もAmazonではプレ値となっています。

 と、まあ兎にも角にも「さよならを教えて」は根強く愛されているのですが、そのオンリーワンな作風は今でも後継作など現れる筈もなく、今日もまた「俺は最高に狂ってるゲーム知ってるぜ!」と語られていくのです。

──このソフトには精神的嫌悪感を与える内要が含まれています。以下に該当する方は購入をご遠慮くださるようあらかじめお願いいたします。
●現実と虚構の区別がつかない方
●生きているのが軸方
●犯罪行為をする予定のある方
●何かにすがりたい方
●妄想癖のある方 (さよならを教えて/クラフトワーク)


■その他の電波ゲー 

「for elise ~エリーゼのために~」

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「さよならを教えて」のクラフトワークが作った鬱ゲーです。さよ教効果もあり、一時期は神格化されていたのですが、製作スタッフが「こんなゲームに深い意味もありません!! (意訳)」と特設ページを作ったりもしたのが記憶に新しい。因みに中身は完全に救いのないシナリオです。

「ふしぎ電車」

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 特にシナリオもなく、永久に脈絡のない夢の中の話を延々とループする異色作。PSの「LSD」のような不条理な作風に惹かれる人にオススメ。

「ダブルキャスト」

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 PSの傑作サスペンス・ホラーゲーム。当時は多くの人間がトラウマになった。僕は小学生の頃この作品を「モンスターファーム2」で円盤再生するとドラゴンがでると知って、急いで中古屋から買ってきた想い出があります。

 他にも、「肢体を洗う」「海からくるもの」など、まだまだ怪作・奇作は、光の届かないアダルトゲームの深淵に潜んでいるのですが、今日のところはこれまでということで。

──少女は狂ったぐらいが気持ちいい (狂った果実/フェアリーテール)



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