一口エッセイ:万事快調 オール・グリーンズ
編集さんから頂いたお勧めの小説、『万事快調 オール・グリーンズ』を読みました。表紙の緑で察する方も多いと思いますが、あらすじはこのような感じ。
そう、この小説は底辺工業高校に通う三人の女子高生が、屋上で大麻を栽培して売り捌き、そのお金でクソ田舎を出て行こうと企てる、女子高生版トレイン・スポッティングのような内容なのです! 「にゃるらさんなら楽しめますよ」と編集が自信満々だった理由が120%伝わってくる。
さて、この作品の最も素晴らしい点は、そんなマリファナの匂い漂う本筋以上に、各登場人物のサブカル感のリアリティにある。
例えば、三人の女子高生は、それぞれ音楽・映画・漫画が好きなタイプであり、音楽の方はラップ系なので『キングギドラ』を聴いているし、サブカル映画好きの子はゴダールやキューブリックはもちろん、『ファイト・クラブ』のTシャツを着ている自分に対して、ファイト・クラブのグッズを購入するという消費行為は、究極のミニマリストであるタイラーの思想に反しているのではないか? と悩んだりもする。この本のタイトル『万事快調』もゴダールから取っているのですね。漫画好きな方は、『綿の国星』を最も好きな作品に挙げている。彼女らの妙なサブカルへの拘りがまた「底辺工業高校」という舞台にピッタリなのだ。そう、僕もまた底辺工業高校なので完全に理解できるのですが、こんななんの学びもない空間に閉じ込められ、まともな進路も考えられない状況になると、人はどんどんサブカルかアングラ・または両方に走る! それが貧困でも低偏差値でも人生を楽しめる効率良い生き方だから!
いろんな青春がある。屋上で大麻を栽培するといった大きな秘密を共有しながら過ごす日々は、さぞかし光輝いていたことでしょう。なんなら、底辺工業高校の優等生として、微妙な企業や工場に就職するよりは、このサブカルやアングラな実体験と知識を通して、わけわからん道は進んで生きた方が絶対に幸せでしょう。彼女たちは、無意識に正解を選んだように感じる。例えば、映画好きなメンバーの女の子の夢は、都会で映画製作に関わることですが、「工業高校で良い点取った」ことと「屋上でマリファナ栽培して売り捌いていた」経験、どちらが映画業界でウケるでしょうか? 道徳や倫理なんて置いてしまえば絶対に後者の筈ですね。そういうことなんだ。
何と驚くべきことに、筆者はこの作品を21歳で世に出している。間違いなく、この若さの勢いあってこその文学であり、だからこそ若者のサブカル観に対して、こんなにリアルを詰め込めるのだ。これは、紛れもなく「怪作」です。歴史に残る「名作」ではないものの、作者の「癖」と「伝えたいこと」、細部のリアリティから伝わる「寂しさ」「ままならなさ」。これは良い本を読んだ。なんだかゴダールの映画を観たくなってきましたね。
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