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一つだけついているウソ

 僕は現実世界において、どんな人間たちにでも一つだけウソをついている。
 僕はどうしても二次元の美少女キャラクター、それも特に登場人物内でも顔がいいという設定で、露出の少ないドレスを着ているタイプの女性に弱い。これはもう一生逆らえない。死ぬまで治らない。
 ごちうさでも、必死でお嬢様のフリしている+先輩への恋心がバレつつあり学校で変な子だと思われていると諦め気味のシャロちゃんが、実際は生来の顔の良さで後輩女の子たち(モブ)から美人だと思われている1.2コマの描写のことを考えて暮らしていたし。「自分は普通の女の子だと認識しているくせに顔が良すぎるリゼ先輩、へ恋をしてしまった自分は変な子だと心配しているシャロちゃん、の顔が大好きな後輩女子」って良いな……と想像していたら数年の時が過ぎていた。しかも後輩女子たち(モブ)からシャロちゃんへの想いに関しては、僕の脳内で死ぬほど誇張された解釈でしかない。
 話を戻します。
 僕はそんな、顔を好きになってしまった二次元キャラクターたちにとにかく穢れて欲しくない。怯えたり追い詰められるのは全然いい。むしろ、それは好んでみたい。本編内の出来事なら全て構わない。ここでいう穢れは、リアリティのある男性を指している。
 よって、僕自体も彼女の前からは消滅して然るべきだ。すべてのリアリティある男性が夾雑物なのだから、自分自身も例外ではない。麗しい彼女の眼前に一片でも汚らしいゴミが少なく済むよう願っている。物語内での異性愛も問題ない。それは、自然なことだから。ただ、妄想の中でも現実的な男(=ゴミ)に触れられて欲しくないだけ。
 しかし、好きな女の子がふだん見せない表情は見たいわけだ。恋を知ってドギマギする。指と指が触れて、ふと見つめ合った相手に見惚れて、そんな一瞬を知りたいと思ってしまう。が、妄想の中でも男性を登場させない以上、基本は封印している感情なのですね。
 一つだけ解決方法がある。
 それは意外な形でやってくる。
 ファンコミュニティを覗き、二次創作を漁る。するとあるんだ。好きな女性と好きな女性がキスしちゃってるファンアートとか、同人誌とか、出てきてしまう。
 本編内の顔がいい女性同士が日常のふとした瞬間にいちゃついちゃうわけ。いつもは軽口叩いて喧嘩してるくせに、たまたま二人きりになったタイミングで映った横顔が綺麗で見惚れるの。今まで気づかなかったけど、「こいつこんなまつ毛長いんだ……」って驚く。そしたら相手は視線に気づいて訝しむ。「なに?じっと見て気持ち悪い……」といつもののノリで蔑む。そしたら予想以上に動揺するから、「もしかしてわたしに見惚れちゃったか〜?」と揶揄う。図星を突かれ紅潮する頬。熱で煙を吹く額。冗談のつもりが顔を真っ赤にして俯くから、なんだか気まずくてお互いに大慌て。そんな一幕のせいで妙に意識し合うようになって、以降は言い争うたび二人とも顔が不自然に朱に染まり、喧嘩が要因ではない興奮した感情でおかしくなっていく。「おまえ、また私に見惚れてんのかよ?」と自分も顔を真っ赤にさせながら強気に出てみる。「そそそそんなわけないでしょ!ナルシストすぎ、キモ!」とバレバレな嘘を吐く。内心では相手のナルシズムすら愛おしく感じているのに。煽られた相手もエスカレートして「じゃあ試してみるかよ」と壁に押し付ける。瞬間、「きゃっ」って久々に女の子らしい声が漏れる。余計にきまずくなる緊張。しかし、売り言葉に買い言葉の応酬で後に引けない。壁際の至近距離で見つめ合いながら喧嘩しているうち、苛立ちはピークに達して、小煩い唇を唇で塞いでしまう。大きな瞳とカールがかったまつ毛が揺れる。
 もう終わりですね。
 僕は日常に置いてウソをついている。
 過酷な打ち合わせ時も、気が緩む友人たちとの散歩中も、こうして一人スマホを弄っている今も……「画像フォルダに顔の良い女と顔の良い女がキスやデートをしているファンアートなんて保存していませんけど?」という顔をして生きている。僕はそれが本当に本当に苦しい。

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