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エッセイ:無職のオタク2人による退廃的なルームシェア時代の想い出

※過去にウケた記事をnote用に加筆修正したものです。

 「三本の矢」という結束の重要さを説く教訓があります。あれは非常に優秀かつ狡猾な武将であった毛利元就の息子たち三人だからこそ意味のある話でして、能力的にも人数的にも不足している無のオタク二人で集まったところで矢は簡単にへし折れます。

 これは若い頃の僕が、友人の岡島くんと無職同士でルームシェアしていた時代の日記です。キン肉マン無料期間中に読み返したので、無職にも友情はあるんだ! と表現したかったのかも知れません。


 岡島くんは数人の同年代オタクが集まったオフ会で出会った一人でした。
 僕らの共通点として、お互い鉛筆転がせば受かるクロマティレベルの高校出身かつ、大学なんて数ヶ月も通えず即中退した経験が大きく、それ故に自分は親から勘当されてふらふらし続けている旨を話すと、彼からも「オレも中学になる弟のため部屋を明け渡してくれって、親にお願いされてるんだよね」と底辺話に花が咲き、利害が一致した二人によるルームシェアの開始。
 感動とドラマ性の欠片もない家族計画の始まり。

 最初に決めた部屋の大家が契約途中で亡くなるという郭海皇戦のオチのような事件を経て、紆余曲折ありながら無職でも借りれる2Kのアパートを確保。木造でエアコンや呼び鈴すらない、絵に描いた貧乏生活のスタート。
 さて、貧乏アパートとは言え家賃の概念は存在します。無職と言えども当然お金が必要となる訳ですが、そこで僕らが選んだ方法が労働でなく「学生ローン」でして、これは闇金スレスレな年利の代わりに、保証人の確認すら取らず数十万のお金を若者に貸し与える悪魔の機関です。
 この方法により親にバレず無から大金を生成。そのせいで僕が延滞する度に勝手に保証人にされた実家の方へ催促の電話が飛ぶという、母親からすれば迷惑極まりない機構の完成。「無断で保証人を作れるわけないだろ」と揚げ足取る人間は借金のリアルを知らないフェイク野郎。

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 自分はそのお金の約半分を大槍先生のジークレーにつぎ込んだせいで更に追い詰められます。今も昔も、大槍葦人の描く憂い顔の少女より美しいモノを知らないので、後悔はありませんが。
 岡島くんの方は極度の巨乳趣味でして、中学の頃に偶然メイビーソフトの作品(理由もなくヒロイン全てが巨乳)が目に入って以来、生活に支障をきたすレベルの乳以外では射精できない体質と化します。瞳に写った瞬間に性癖が固定される最悪の瞳術に人生を狂わされた無職の完成。
 彼の偏った性的嗜好は想像以上に大変で、彼が現実の女性で射精するためには、数万かけて巨乳のAV女優が在籍する風俗へ通い、そのHカップの乳房に陰茎を挟まれつつスマホで同人誌を読みながらでやっと出るか出ないか。岡島くんが三次元の女性相手に勃起するため飲んだバイアグラの副作用により、錠剤の前で頭を抱えて苦しみだした際のAKIRAの終盤を思わせる光景は印象的。


 そんなこんなで無職二人による退廃的な生活は進む。普段はお互い自室で好き勝手に過ごし(9割が睡眠)、アニメの時間になると集合し無言で(アニメに真剣なので)視聴する……。本当にただそれだけの日常が続きます。毎晩アニメが放送されるので無聊という事はありません。無職に飽きると言い出す人間は、根底に社会性が存在し無に愛されていないだけです。
 お互い細かいことは一切気にしない性格が悪い方向へ発揮され、崩壊の原因となる喧嘩なども起こらず朝な夕なに惰眠を貪ります。さながら肥えていくだけの芋虫。いや、両者とも50キロないガリガリな分、芋虫の方が生存に対する意識が高い。
 
 自分の信用情報を生贄に手に入れた貯金が、家賃と利息に消えていくのを見守るだけの日々。中盤ではコンビニ店員のフォロワーと仲良くなったおかげで廃棄弁当の供給が発生し、食費の問題もクリア。賞味期限の切れた味のない弁当を食べ続けることで、気力と体重がゆっくりと静かに摩耗していきます。

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 「終末の過ごし方」なる90年代末期の名作美少女ゲームがありまして、迫り来る終末の日を前に、特に抵抗もせずゆったりと死を受け入れていくという、滅びの美学をそのままぶち込んだような粗筋なのですが、僕らの生活もそれを想像してもらえると分かりやすいです。ただ美少女ゲームと違ってパステル調に描かれたヒロインや心に沁みるエンディングは存在しませんが。
 最も大きな出来事としては「電気が止まったせいでPS3内のレンタルDVDが取り出せず延滞料金を取られた」事件でしょうか。思えば電気・水・熱・ネットのどれかは必ず止まっていました。最低限文化的な生活とは程遠い。

 きっと僕らはこのまま気づいたら無となり消えていくんだろう……とぼんやり考えていた時期、色々あって合法ハーブを入手します。男女関係に次ぐシェアハウス崩壊の元凶、薬物汚染の始まり。
 失うモノが何一つとしてない二人は一切躊躇せず、危険な植物の力で幻想的な世界へ。特に印象的だったのは、鏡に写った自分を観ながら「オレって宇宙じゃん!」とケタケタ笑い続ける岡島くんの姿。


 それからも暇つぶしに危険そうな行為を試しては、「岡島、オレの残像みなかった?」「さっき机に座ってたよ」など意味不明な会話にケタケタ笑う愉快な日々が続く。と言っても金銭の関係もあり頻度は高くないので、基本はアニメ観て寝るを繰り返すだけで薬物はアクセント程度。合法ハーブより学生ローンのほうが危険です。


 そんなこんなで数ヶ月。この世に永遠モノなど存在しないように、無職の日々にも終わりが……具体的には岡島くんの父親が訪れ、建前上は就活のためにでていった息子がいつまでも働かない事に憤り彼を連れて帰りました。繁栄よりも崩壊の瞬間の方が美しい……と感傷に耽る余裕すらなく、急遽破局していくルームシェア。
 友情が裂かれる事以上に家賃を一人で払う危機に自分も色々言い訳しますが、「こんな家に居て何も良いことがない」と正論がくると反論できません。オタクは非の打ち所が無い正論に弱いのです。良いことどころか呼び鈴すらないので、誰が来ても借金取りのようにドアを激しくノックするハメになるようなアパートですし。
 数年ぶりに独りになった部屋で虚無を過ごす僕。大槍先生の画と窓から差し込む月明かり(電気は止まっている)だけが、優しく無職の孤独を見守ります。

 それから保証人不在のため一人でアパートを借りられない自分は、仕方なく他の友達とルームシェアしたり、シェアハウスへ住んだりと色々ありましたが今も元気にやっています。持ち前の適当さで喧嘩が発生していない事だけが自慢。体重とともに感情も擦り減ったのかも知れません。

 今でも岡島くんとは何だかんだ一番遊んでまして、先日も彼はSHIROBAKOの影響か


無謀な夢を語ったりと、漸くバイトを始めた以外に何も変わっていません。因みに実家ではリビングの隅に親父が設置した狭い木組みの隔離空間で生活している様子。犬のほうがマシな暮らししてそう。

 無らしく劇的なオチやどんでん返しもなく終わりです。この駄文からは教訓も感動も得られません。ただアレはアレで間違いなく幸せな時間でしたので、ガッツの言う「逃げ出した先に楽園なんてありゃしねぇのさ」は嘘です。騙されちゃいけません。生涯逃げ続けましょう。

 オタクの昔話でした。


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