見出し画像

唐辺葉介(瀬戸口廉也)作品と狂気性を紹介していく


 ※数年前に書いた記事を新作記念に加筆修正したものです。

瀬戸口廉也とCARNIVAL

 僕が好きなアダルトゲームのシナリオライターを挙げるなら、確実に五指に入る程に影響を受けたライターとして瀬戸口廉也さんの存在があります。今回紹介する「唐辺葉介」は、瀬戸口先生が一般作で使用している名義。正確には、瀬戸口廉也としてのアダルトゲームの執筆を引退してからの名義となっております。
 今回はそんな小説家としての「唐辺葉介」の作品を全作紹介しようという主旨なので、アダルトゲーム時代は割愛致しますが、氏がシナリオを担当した処女作である「CARNIVAL」だけ、軽く触れておきましょう。


 因みに僕が以前にアダルトゲームメーカーにて、音声作品のシナリオを担当した際、そこのプロデューサーが瀬戸口廉也先生を生で見た事があるらしく、その時は甚平と下駄だったそうで、なんとも作家らしい雰囲気ありますね。

画像2

「信じることの難しさ」「人は皆、多かれ少なかれ心の傷を抱えて生きている」をテーマに、心に傷を負った若者達が悩み、葛藤しながら成長してく姿を描いたサイコ凌辱ノベル+AVG。
物語は、主人公と、ヒロインとの関係や生い立ち等、過去の出来事を少しづつ紐解きながら展開していく。
物語の冒頭で、殺人容疑で逮捕された主人公は、警察の隙を突いて逃げ出し、幼馴染のリサの家に身を寄せる。

 一時期はプレ値によりプレイへのハードルが高かったのですが、今ではダウンロード販売が開始され、3000円程度あればすぐにプレイできます。同じく瀬戸口作品で高値だった「SWAN SONG」も復刻されたりと、良い時代になりましたね。

 あらすじを引用しましたが、これまた凄まじい冒頭。「サイコ凌辱ノベル」という他にないジャンルが光る。ジャンルだけなら、サイコミュで操作した機械触手的なモノでヒロインを凌辱していく抜きゲと誤解されそうです。
 「CARNIVAL」では、サイコと銘打つだけあり、主人公の狂気性をテーマの一つにとらえた作品。
 そんなCARNIVALに強く感銘を受け、こうして瀬戸口作品のみならず、唐辺葉介名義での作品も追うようになった訳ですが、他作品でも主人公の狂気性は共通して引き継がれており、それが何よりの氏の作品の魅力だと僕は思います。
 因みに瀬戸口廉也名義での小説に、ノベライズ版CARNIVALがありますが、本編プレイ後でないと意味がないので省きます。そして今では5万のプレミア本になってしまったので、一般人では手が届かない。僕は上記の写真の通り新品で所持しています(自慢)。

 他にも「喰2」というアンソロジーに寄稿しているのですが、そちらも「瀬戸口廉也」名義かつ、数ページであるため割愛。

唐辺葉介作品

 ・暗い部屋

 それでは、唐辺葉介作品の話に戻していきます。
 最初に、個人的に最も狂気と猟奇性を感じた作品を挙げると「暗い部屋」特典の小冊子。

画像3

 この小冊子は、主人公がチグハグな思考で狂った行動をとり続ける短編のみで構成されておりますして、唐辺葉介史上最も理解からかけ離れた書籍です。この癖の強すぎる世界観にひとたび触れれば、読み進めるだけでトリップしていくことでしょう。
 しかし、残念ながら現在Amazonで販売されている「暗い部屋」の原作には、特典の小冊子はつかないそうです。残念。それを除いても十分名作なのですが。


・ファーストノベル文庫

画像4

 同じく特典関係では「セカンドノベル 彼女の夏、15分の記憶」という、氏が一部シナリオを担当しているノベルゲームにて、セカンドノベルの作家陣が描き下ろした「ファーストノベル文庫」にも短編が掲載されております。
 このセカンドノベルに集められたライター5人は、僕の裏人格が勝手に企画したんじゃないかと疑った程に、自分好みの豪華作家陣でびっくり。
 先ず、ユニゾンシフト作品でお馴染みの「市川環」。最近だと「時計仕掛けのレイラインシリーズ」などで、ご活躍ですね。個人的に一番好きな作品は「君の名残は静かに揺れて」。最早どれを代表作に挙げようか悩む程に有名な「田中ロミオ」。「Rewrite」では、アニメ用の新ルートの構成を手がけました。ライトノベル界の奇書とも呼ばれる「左巻キ式ラストリゾート」を書き上げた奇才「海猫沢めろん」。「Sense Off」や「未来にキスを」など、この中では最古参で90年代後半から名作を出し続けている「元長柾木」。
 そして、唐辺葉介先生の5人がシナリオを担当した癖のあるアダルトゲーム作家を集めたアベンジャーズのようなゲームとなっております。
 そんなセカンドノベルでの特典の冊子(ラノベ一冊分の厚さがあります)は、特異体質の主人公がテーマでして、唐辺葉介先生の「音の色」では、音楽に色が見える主人公と恋人の切ないラブ・ストーリー。他の作家が集まっているオムニバス形式だからか、いつもよりお上品な文体と作風で貴重です。因みにこの中では市川環先生の「二十一番の喪失」がお気に入り。
 これまたゲーム自体よりも特典が入手困難となっているのですが、気になったかはどうにか探しだして読んで欲しい。こんな良い意味で癖のあるノベルゲーム作家が集まった本なんて二度と出ないと断言できますし。

 ・PSYCHE
 上二つは短編なので別として、氏の単独作品では、恐らく本人の実体験からきているような、狂いつつもリアリティのある描写が多く、特に主人公にはそれが顕著に表れています。

画像5

 例えば一作目である「PSYCHE」では、死んだ家族の霊が見えてしまうようになった主人公が、家に引きこもりひたすらキャンバスに絵を描いていく暗いお話なのですが、終盤で主人公は幻覚効果のあるモルフォ蝶の羽を、ドラッグのように摂取し続けます。

画像6

 「蝶の羽」を食べ続け、だんだんとおかしくなっていく主人公。「食事に対してはほとんど憎悪みたいな感情しか抱けなくなっていて」の一文が、特にお気に入り。
 このように、氏の作品には主人公の独白部分が非情に多く、主人公の内面をねっとりと描写し続け、決まってその思考回路はどこか倫理観に欠けている。「PSYCHE」の彼の場合は、蝶の羽を摂取しながら絵を描く事以外に興味をなくしていますね。

 こういったネガティブな要素が強いのが、唐辺作品での何よりの魅力。小説家としての処女作「PSYCHE」にも、それは色濃く反映されていますので入門としてお勧めします。カバーはシライシヨウコ先生版と、冬目景先生版があり、本の大きさや挿絵の有無以外の内容は同様なのでお好みで。


・ ドッペルゲンガーの恋人

――僕の恋人は、死んだ恋人の記憶を植え付けたドッペルゲンガー。
亡くした恋人のすべての記憶を、僕はクローンに植え付けた。新しく誕生した「恋人」との暮らしが、僕と彼女を追い詰めていくとは思いもよらずに――。
まさに待望、唐辺葉介の復活作は、胸打つSFラブストーリー。

 亡くなった恋人のクローンと同棲していくSFラブ・ストーリー。クローンの彼女が自分はオリジナルの存在と同一なのかと苦悩し、取り戻したと思われた幸せが崩壊していく壮大なお話。
 今作だと狂気要素はクローンであるヒロイン側に寄っていますが、終盤では影響された主人公も段々と狂気を孕んでいく。カップルの片方がメンヘラ化すると、もうひとりも引っ張られていく現象のようですね。


・ 死体泥棒

突然の死を迎えた彼女の死体を葬儀会場に忍び込み、盗み出してしまった「僕」。一人暮らしのアパートを占拠した大型冷凍庫の中に横たわった彼女(死体)との奇妙な同棲生活がはじまった……! 唐辺葉介の問題作にして、新たな代表作(ラブストーリー。

 タイトル通り主人公が恋人の遺体を盗み出して同棲する話です。こうして書くと、だいぶ倫理観の飛んだ内容に思えますが、氏の作品の中では比較的きれいめなラブ・ストーリー。
 愛ゆえの行動だろうが、死体を盗むのは立派な犯罪。それに対し、いつかやってくる警察へ怯える不安と、恋人のために犯罪を顧みず大胆な行動を取れた自分に酔っているような気持ちがドロドロと混ざり合う複雑な心情。時を経て段々と恋人の死を実感していくまでの過程を淡々と描いた意欲作。

画像7


 恋人の死体が入った大型冷凍庫と主人公の内面を描いた挿絵が素晴らしい。


・つめたいオゾン

その日、俣野脩一は訪れた施設の白い部屋で、ひとりの少女と出会った。天使のように白い肌と髪を持つ彼女の名は中村花絵。二人はお互いが、ある病理を患っていることを告げられる。『アンナ・メアリー症候群』。それは他人の感覚を共有し、やがて思考や感情までも融け合ってしまうという病。脩一と花絵は幼少期より、共有した視界に映る生活を、夢に見ることで繋がっていたのだ。出会う前から誰よりも深くお互いを知っていた、少年と少女の辿る数奇な日々。そして病を宣告された二人が向かう未来とは―?

 これまた死体泥棒と同じく、あらすじに反して読後感はどこか爽やかな構成。二人の無関係な男女が、ときおり思考や視界が混ざって融け合う病気を患うという話です。
 途中、ヒロインが変態のお兄さんに監禁されてしまうのですが、その様子が断片的に伝わってしまう無関係な主人公側の心理描写も凄まじく、読み進める内に読者の意識も混ざっていくような奇妙な感覚が味わえる。
 生まれつき白髪で病弱なヒロインの不幸な生い立ちと、棋士を目指して将棋に明け暮れる平凡な主人公との対比と、「アンナ・メアリー症候群」からくる静かな狂気は、本作ならでは。


・犬憑きさん

画像8

 上下巻の二冊からなる、唐辺葉介先生の2作目。紹介した中では唯一の女性主人公で、珍しく百合百合しさもある作品。
 しかし、可愛い表紙と裏腹に中身はいつも以上に残虐さマシマシ。

少女は同級生を殺したいと思う。理由な残酷ないじめを受けたから。殺害方法は蠱毒に決めた。蠱毒とは生け贄を必要とする残酷な呪いのことをいう…。女子校を舞台に陰で巻き起こるオカルト事件と、異端の犬憑き少女「楠瀬歩」の活躍を描く学園怪奇小説開幕。

 第一話「蠱毒」では、いじめられっ子から強制的に援交を押し付けられている女の子が、「犬蠱」という、飼い犬を生首だけ出るよう土に埋め、数日放置した後に首を切り落とす儀式により、いじめっ子を呪い殺そうとする過程が描かれます。
 これまた少女の葛藤がねっとりいやらしく描写されており、いくら復讐のためとはいえ愛犬を自ら殺す事に思い悩む様は、表紙の笑顔からは想像もつきません。
 そんな彼女たちのオカルティックな悩みを、表紙の女性こと「犬憑きさん」が解決していくお話。勿論、犬憑きさん自身もまた重い設定が大量にあるのですが。
 題材が題材だけにホラーに近い作風。やっぱり百合といえばホラーですよね。上下巻にわかれていることもあり、物語のスケールは壮大。可愛く百合百合とした登場人物たちと、グロテスクな内容のギャップは是非手にとって体験して欲しい。


・電気サーカス

画像9

まだ高速デジタル回線も24時間接続も普及しておらず、皆が電話回線とテレホーダイを使ってインターネットに接続していた時代。個人サイトで自己表現を試みる若者達がいた―。

 氏の作品は主人公の独白が大半を占めており、ネガティブかつ独特の思考をする主人公に対し、段々と読者の混じっていくような構成なのですが、その作風が最も顕著にあらわれたのが「電気サーカス」。
 有名テキストサイトの管理人をしている無職である主人公が、ネットで知り合ったどうしようもない友達や、自分に都合の良い虚言を吐くメンヘラ女たちとルームシェアを始め、クスリとセックス漬けの日々に溺れていく内容。

画像10

 特に登場人物のダメなメンヘラたちの実在性の解像度が高く、構ってもらうために包丁持って夜泣きするメンヘラ女や、デパス入りにクッキーをクラブに持ってきて配るサブカル系女など、シェアハウス界隈あるあるな描写が的確に刺さる。
 そうやって、インターネットの人間に見下されたり見下したりしているうちに、主人公は向精神薬とアルコール抜きでは生きていけない身体になっていきます。
 この主人公の淡々と狂気に堕ちていく描写も鬼気迫るものがあり、終いには入院して「お前カバンにガンダム入れただろガンダム!」と頓珍漢なことを叫んで女に怒鳴るまでおかしくなる様は、笑うに笑えません。
 大きな伏線や事件もなく、鬱々と静かに培養されていく狂った感覚。今だとKindleで楽に入手できますので、インターネット的な描写に引っかかった方はぜひ。

・新作MUSICA!

画像10

 しばらく沈黙を守っていた唐辺葉介先生ですが、なんと瀬戸口廉也名義で今月新作美少女ゲームが発売します。

 僕が、この記事を久々にネットの海から拾い直したのも、少しでも多くの人に知ってほしいため……。という訳で、5000字越えのオタク記事でした。

サポートされるとうれしい。