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一口エッセイ:ゴッホ展の老人の話

 最近の僕は、よほど睡眠不足であるらしく、昨日も珍しく寝落ちしてしまいました。半日以上寝て過ごして特に書くこともないため、思い出話をします。
 少し前、一人でゴッホ展へ行きました。『星月夜』が見たかったから。
 美術館の前には、たくさん人が並んでおり、その外れに「ゴッホ展のチケットをください」と書かれた紙を掲げている老人がおりました。長い髪の毛はすべて白く、男性か女性かもわかりませんでした。
 しばらく経つと順番となり、展示を一通り見た後、今回のメインである『糸杉と星の見える道』があり、なんとなく、この絵をどんなお客さんがどれくらい鑑賞するのか数えてみようと、人混みから離れて、絵どころか客しか見えない位置に立ちます。


 だいたいの人たちは30秒、並んでいる時にパズドラに夢中になっていたカップルは10秒、スーツ姿のサラリーマンは5秒くらい、糸杉を観て去っていきます。そんな中、どうにかチケットを入手できたのか、先程館内前で見かけた老人が糸杉の前へとやってきたのです。
 老人は糸杉の前にじっと立ち止まり、人混みに流されながらも、視線は糸杉から離れません。ようやく糸杉が見えない位置に流されるまでの、1分20秒程度、ひたすら糸杉を鑑賞し続けていたのです。
 別に、鑑賞時間が長いことだけが全てとは思いませんが、ゴッホという画家は、美術館に入場できる能力もないが、いざ入ると誰よりも絵にとりつかれる老人に愛されているような偉人なのだなと、理解が深まった1日だったのです。

 

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