見出し画像

一口エッセイ:江戸川乱歩と美少女キャラクターに恋する異常者


 友人が京極夏彦にハマり始めたというので、つられて僕も『姑獲鳥の夏』と『魍魎の匣』を読み返しました。
 学生時代の僕がどれだけ京極夏彦から、特に『魍魎の匣』に影響されてしまったかを語るにはせいぜい3000文字程度のスペースでは短すぎるので、今回は泣く泣く割愛します。中高生だったにゃるら少年の読書のおともは、ラヴ・クラフト、京極夏彦、小林泰三でした。
 魍魎の匣を読み、アトラク=ナクアをプレイし、完全に「耽美な女子学生同士によるゴシックな世界観とホラー」に狂って今も脳みそが戻りません。
 が、今回はそんな京極夏彦が強く影響を受けたであろう江戸川乱歩の『押絵と旅する男』『人でなしの恋』の話をします。

 数年ぶりに魍魎の匣を読み返してテンションが上がりすぎてしまい、久々に『押絵と旅する男』も読もうと思ったら、なんと大好きな乙女の本棚シリーズで刊行されていたので即購入。
 文学作品と耽美なイラストレーターを組み合わせてくれるこのシリーズは、僕にとって夢のような本たちです。存在に感謝。

 江戸川乱歩は、時にホラーを利用してこの世のものと思えないような美少女を創造する。よくネット上では「ホラーとギャグは紙一重」という皮肉が散見されますが、自分はそれ以上に「ホラーと美しさは密接」なものであることも忘れないでほしいと思う。「ゴシック」なるジャンル自体が、そもそも巨大な闇から美しさを取り出す作業だと認識しており、それこそ先述した『魍魎の匣』『アトラク=ナクア』にも共通する。
 この世のものと思えない美貌、「幽玄」といった表現を美男子・美少女に説得力を与えられることが、ホラーが持つ魅力の一つ。乱歩の『押絵と旅する男』『人でなしの恋』は正しくそこを突いている。
 押絵と旅する男は、要約すると二次元の女性に恋してしまった青年の話です。押絵の中に描かれた美人に心を囚われた男は、取り憑かれたように絵の女性へ執着した結果、念願叶って同じ絵の中へ入っていきます。ここで乱歩の優しいところは、絵の中の美人と永遠に暮らすことを選んだ男を「バッドエンド」として描かないことだ。むしろ絵の中に入れた男自体は何十年経とうと幸せそうである。この塩梅がたまらない。『人でなしの恋』はタイトル通り人でないもの……つまり美少女の人形へ恋した男の話ですが、これまた美少女人形との日々は幸せなものとして描かれている。

 なんと希望のあることだ。二次元キャラクターとの同居も、美少女フィギュアとの会話も、現代のオタクから見ても悲願である。それを乱歩は文学の形で先取りし、それを「幸福」としてくれている。こんな暖かいことがあるでしょうか。もちろん語り手である一般人視点では異常者に映ったとしても。他人からの客観視より、本人の主観で幸せであることが重要です。大昔を生きた文豪の江戸川乱歩も、すでに二次元への恋に結論を出している。これはとても嬉しいことです。
 僕は、なんだかそんな乱歩作品の男たちが酷く羨ましくなつてしまつた。

サポートされるとうれしい。