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臭作

 こちらの同人誌で書いた内容の一つを投稿……。えっちなゲームの話だけが50本分も書かれたニッチな本なので、みんなぜひ手にとってみてね。

■臭作


 アンダーグラウンドなイメージのあった美少女ゲーム業界も、だいぶ浄化されました。というか、ぶっちゃけ元気がなくなって全体が丸くなっただけな気もしますが。人を選ぶニッチなエログロ、特殊な性的嗜好の作品を企画する予算がないんだ。

 そのうえ、今も語られていくのは、いわゆる「泣きゲー」やサブカルチックな「電波ゲー」。もちろん僕らもそれに該当する作品をたくさん語っているわけで、わかりやすく感動や恐怖のある作品が生き残るのは当然です。

 でもそれだけだと、自分が「綺麗なモノ」と勘違いしちゃう。部屋でシコシコと陰茎握りながらハァハァ息巻くキモオタのイメージが消え、物語や狂気に酔いしれる高尚な評論家なんて錯覚することもある。次第に哲学書とか文学とか引用しまくって、なにやら意味ありげな長文感想をブログにアップするパターンもある。それくらい夢中になるのは良いことです。恐らく8割くらいの方は、数年後に恥ずかしくなるだろうけど!

 その点、「伊藤家シリーズ」と呼ばれる『遺作』『臭作』『鬼作』は凄い。鬼畜モノを自称する三兄弟をイメージするアイコンは、それぞれ「ゴキブリ」「ハエ」「芋虫」だ。彼らのやることは陵辱や犯罪。世間は彼らを人間と扱わない。小汚い体臭塗れで性欲ギトギトで犯罪者のおっさんなんて害虫なんだな。

 鬼畜ブームというものがあった。電波系ライターと呼ばれた「村崎百郎」が代表的で、『鬼畜のススメ 世の中を下品のどん底に叩き堕とせ!! みんなで楽しいゴミ漁り』なんて本まで出している。この本は凄い。小綺麗な倫理観なんてカケラもない。街に捨てられたゴミ袋を夜な夜な持ち帰り、持ち主である女性たちのプライベートを暴く。下着を見つけたらサイズを調べ、日記がでてきたら男の跡をたどる。そうして浮かび上がった女性像に興奮し、ぶっコク。そんな鬼畜野郎が書いた魂の一冊。そんな村崎百郎氏は、統合失調症の読者に刺されて亡くなっている。電波と鬼畜を貫いた男の悲しき最期だ。

 その犯罪性はともかく、そんな人間が実際に存在していたわけです。『臭作』『鬼作』は、この影響を受けていると思う。敵キャラである遺作はともかく、臭作や鬼作は何度も「鬼畜の美学」を語る。悪には悪の美学があり、三兄弟はそれに従って動く。

『臭作』は、女子寮の管理人となって、女学生たちを盗撮していき、ネタが集まると脅しの道具として使用し、犯すゲーム。やることはそれだけですが、練りに練られたゲームシステムが凄い。どの時間にどこへカメラを設置するか細かく指定でき、攻略何度も高い。だからこそ、苦労してHシーンにたどり着けた時の達成感が大きいわけです。きっと村崎百郎だって、何の成果も得られない夜を何度も経験してきたことでしょう。

 そんな鬼畜の所業を繰り返しているプレイヤーに、臭作は問いかける。「お前も楽しんでいるんだろ?」と。つまり臭作がこちらを認識しているメタ要素があり、これがまた大変味がある仕上がりに。

 実際に鬼畜な行動をしているのは臭作だが、それを望んでいるのは画面に張り付くプレイヤーだ。臭作とプレイヤーは切っても切れない関係であり、「善人ぶった」プレイヤーの鬼畜心を揺さぶる。この仕組みを活かしたラストシーンは圧巻。ただシナリオを読み進めるだけのゲームでは表現できない、鬼畜モノとプレイヤーの関係あってこそのラストに震えてほしい。僕たちは、どこまでいっても美少女ゲームなんてアングラなコンテンツを好んだ小汚いオタクなんだからさ。


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