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一口エッセイ:ゲーセン戦記とテクノ


 『ゲーセン戦記』を読みました。一部の格ゲーマニアには有名な高田馬場ミカドの店長による、ゲームセンター経営の苦悩と楽しさ、そしてアーケードゲームの歴史が記されている貴重な一冊。
 ゲーマー側やマニアによる著作は数あれども、ゲームセンター経営側の本とは珍しい。僕は、高校時代は主にガンダムのVSシリーズ、たまにKOF2002(沖縄ではスト4の時代でも02が人気だった)や、LOV(ロマサガやFF4とコラボしていたから)に夢中で、特にVSシリーズでは、強いプレイヤーの噂を聞きつければ遠征するほどにハマっていた。国際通りのハズレにある小さなゲーセンにて、名前も知らないガンダムオタクたちと日々熱戦を繰り広げていた。ゲームの仕様上、時折そのライバルたちが味方になったりするのも熱い。僕の思春期はエクバに殺された。楽しかった。



 今やすっかり自宅でオンライン対戦に興じる時代。大人気のスト6だってみんなPCで遊んでいる。が、オンラインで知らない人たち相手に次々と数をこなす楽しみと、特定の人物たちのみと顔を突き合わせて何度も対戦する楽しみは全く違う。実際、スト6に大ハマりしている僕の友人は、わざわざリアルの対戦会イベントへ参加している。今度、僕の家でも対戦会を開く。操作キャラを通して拳と拳をぶつけ合う気持ち良さが、ここにある。
 といった感じで、コロナの影響もあって年々大手以外は潰れつつあるゲーセン文化の実態を語る本書では、そのゲーセン名物の大会を開いたり、敢えて通好みのレトロな基盤を導入したりと、大手ではできない小規模ならではの個性を発揮していき、どうにかコロナも乗り越えいまなお順調に営業できているまでの軌跡が語られる。
 バーチャ2で全盛期を迎えて以降、大型カードゲーム機が流行ったり、UFOキャッチャーが安定して稼いだり、メダルゲーム機が奮闘したり、意外にも『上海2』のインカム率がすごくて今でも置くだけでお金が入ったりなど、メーカーとお店の試行錯誤が面白い。すっかり大手ゲームセンターはUFOキャッチャーだらけになってしまった。といっても、ミカドの他にも中野ブロードウェイの中野TRFなど、ニッチな対戦会の需要で成り立っているお店もあるわけで、確実にあの薄暗いゲーセンの筐体で対戦することでしか待たされない需要が存在するのだ。僕もたまに中野TRFで『ティンクルスタースプライツ』の様子を後ろから眺めたりする。

 本書で最も好きな描写は、店長が「ゲーセン特有の薄暗さ、音、画面に反射する蛍光灯がいいんだ」と語る場面。そう。ゲーセンは、たくさんの賑やかなゲームのBGMやSE、操作音にプレイヤーの叫び声が合わさり、混沌としているから良いのだ。Switchで発売したCAPCOMのアーケードコレクションだって、あくまで筐体とゲーセンの様子まで含めて画面に収めていたのでビックリしたね。『ストライダー飛竜』をぼちぼち遊ばせてもらっています。エックスもそうだけど、壁に張り付くのってカッコいいぜ。

 話は変わり、僕はこのゲーセンのガチャガチャ感こそ「テクノ」を感じる。細野晴臣のアルバム『ビデオ・ゲーム・ミュージック』では、ゼビウスやマッピーのテーマのみでなく、プレイ中の操作音やSEまで含めて「音楽」にしている。このアルバムすごく好きなんです。聴くだけでゲームセンターに迷い込んだ感覚になれる。
 かのクラフトワークだって、電卓やPCの操作音を音楽に昇華させた。「遊んでいる時の音」まで含めて曲であるべき。そういった本質が詰まっており、クラフトワークからYMO(細野晴臣)、そしてZUNに繋がった系譜がわかってくる。ちなみに、坂本龍一も『B-2 UNIT』というアルバムはガチャガチャさがあってオススメ。
 テクノの究極はココにあると感じているので、僕個人としてもレトロゲーのあるお店にはいつまでも存続して欲しい。ここにしかない仄暗い青春と電子の環境音楽が永久に続くと良い。


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