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一口エッセイ:絶望的な人生の差と鍼治療

 ずっと家で読書かアニメを観ている暮らしに加え、労働といえばゲーム製作や原稿でパソコンカタカタですので、座りっぱなしに生来の不健康やストレスも合わさって、とんでもない肩こり、腰痛、動悸が激しくなりました。もうおじいちゃんなんですね僕も。このレベルだと整体やストレッチでもどうにもならなそうなので、急速な治療のために鍼治療を行いました。鍼を、刺す。全身に。
 近くの鍼灸院を調べ、さっそく頭や手足に鍼を刺していく。ちょっぴり痛いけれど、全身脱毛に比べればなんてことない。脱毛より痛い体験は、この世にそうそう無いのだ。僕は強くなった。全身が鍼塗れになった後は、鍼を通して電流をながす。そうして鍼が刺さったポイントを刺激して血流を活発にすることで、副交感神経がいい感じになって自律神経が整うらしい。
 頭部に刺さった鍼から微量な電流が走り、ぴくんぴくんと身体が揺れる。若干の痺れが気持ちよく、何かが効いている感覚は確かにある。頭が痺れていくマッドな感じが心地良い。
 しばらく電流をながされている間、先生と隣のやたらダンディな患者さんとの会話に聞き耳を立てていると、どうやら「数年前に事故で脚を怪我して現役を引退して以来、道場を開いて教える側に回ったり審判をしたりしている元武術家」らしい。カッコ良すぎるだろ、その半生……そりゃこんな渋い声を出せるわけです。
 男性の話は、「この前、道場訓を作ったんです。怠けない、人に迷惑かけない、嘘つかない……と」と続き、つい最近「締切ってキショすぎ みんなで無視しよ」なんてツイートしていた僕と意識が天と地の差すぎる。なんだよ道場訓って。僕もそんなウルトラ5つの誓いみたいなの立てて、子供たちに約束させたいよ。僕は毎日怠けて他人に迷惑かけているよ。
 さらに、話は「最近、娘の剣道の筋が良くなって嬉しいんですよ」と発展。一度は言ってみたいよ、「娘の剣道の筋が良くなって嬉しい」。本当に嬉しいことが声色から伝わる。この人の子なのだから、娘さんもさぞかし真摯に武術へ向き合っているのでしょう。その姿勢が喜ばしくて仕方ないのだ。元武術家の人生として幸せすぎるだろ、そんなの……。「いつもは厳しい父親が裏では娘の成長をこっそり自慢して回っている」って、もう漫画じゃん。半生を武術に捧げてきた立派な人間だからこそ辿り着ける「ゴール」じゃん。対して僕はどうだ、「毎日パソコンカタカタしてアニメ観ていたら、両腕が上がらないくらい肩が痛くなりました」。ザコすぎるだろ、この人生。しかも今は電気で身体がぴくぴく震えてるし。カーテン一枚隔てた向こうに、絶望的すぎるほど人生の質に壁がある。
 治療自体はそこそこ効き、流石に完治とは言わなくとも、無事に自律神経が多少マシになったようで、急に眠気がきました。不眠に悩んでいるあなたは、今すぐ頭に鍼を刺して電流をながせ!
 次は、肉体でなく精神も回復させるためカウンセリングへ通う予定です。心という器は一度ヒビ割れれば二度とは戻りませんが、それでも少しずつ直していかねばならないのです。早く、身体も心も治るといいな。もっと強い電流をながせば一気に幸せになるかもしれませんね。

 

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