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一口エッセイ:狂戦士

 この前、「怒るのが好きだから、なにか叩けるものを見つけて怒っている」と宣言しているアカウントを見つけて、衝撃でした。潔い。
 当然、ずっとなにかに怒っている人の周りには似たような人が集まり、余計に偏っていくし、というか「自ら無理やり怒ってます!」なんて言っているのだから、この人の発言はすべて「怒って気持ち良くなりたいためのイチャもん」と解釈されちゃうだろうに……。しかし、素直にこう書いていること自体は面白いし偉い気もする。
 ネット上でつねに何かにキレる・文句つけるタイプの人間って、「怒る・叩くことで気持ち良くなっているだけ」と認識されないため、日常的な発言も混ぜたり、なんらかのファン活動も時折混ぜたりすることで、「あまりに世間がバカで悪すぎるから、仕方なく頭の良いわたしが正してやっている。やれやれ……」という態度になることが多く思える。建前上、「頭が良くて世相を斬ることもできる通行人A」で居たいはずだ。そこから同士を集めて、フォロワー数が増えてしまったら、「ご意見番」に暗黒進化することもある。なんにせよ、本人の精神のために「正しさ」なる曖昧な芯と建前はあるでしょう。
 そんなやわな考えはかなぐり捨て、剥き出しのナイフとして目についた気に食わないモノ、いやもはや気に食わないものを自らサーチしてまで戦い続ける 狂戦士 -バーサーカー- の道を進むと言い張っている。狂っている間は気持ちがいいだろう。彼か彼女かはしらないが、大剣を振るって戦闘を繰り返している限りはアドレナリンもドバドバ、時には敵を同じくした味方も参戦して、そりゃもう充実して仕方ないはずだ。現実世界で巨大な敵と戦う経験なんてまずないのだから。夢の世界に生きることを選択した。触るものみな傷つけた。
 どうせまともに生きたところで順当な幸せを掴める確率なんて僅かなのだから、敢えて「怒り」に身を任せて破滅に向かうのも、また人生でしょう。変に建前で生きているよりは、まだ救いがあるかもしれない。なんにせよ自分とは関係のないことだし、こういう人もいるんだなーすごいなーと腕組みしていた。
 が、しばらくしてふとアカウントを見に行っていたら、過去の憤怒はどこ吹く風、ぜんぜんフォロワーと仲良くアニメやゲームの話で盛り上がっており、おかげで日常的なツイートも増えたので、この方が20代前半の女性であることもわかった。もう全然何かと戦うこともなく、任天堂の新作を楽しみにしながらFPSに興じている。数週間のうちに怒りきったのだ。怒りゲージを消費して真っ白に戻った。サムライだって面子さえ保てるのなら不要な殺生は避けたいということだろうか。
 ズッル〜〜! とも感じる。戦い続ける宣言がカッコよかったのに、戦わずとも友だちができたら、もうバーサーカーを演じて誰かに構ってもらう必要もなくなった。今はかけがえのないフォロワーがいる。この平和を守りたい。なにかに怒り続けて変な人だと認識されたくない……とまで考えているかはしらないが、「目についたもの全てに噛みつきます!」と尖った演技をしていたのは、病んでいた時代の誇張したキャラづけの失敗であり、何も本意じゃなかったわけだ。そりゃそうだろう。友達とゲームして、その時のボイチャでちょっと愚痴るくらいが健康的で、客観的に見ても幸せです。確実に良い方向に進んでいるだけ。
 じゃあ、お前がただイライラしていた時期に切り捨ててきた戦闘相手たちにはどう償うんだ! と、まあ部外者が責めるのも変だし、そもそも人間そんなものなので、ネットのよくある一幕だなあという所感ですが、もしこれで「償う」ために生きることを選択したらめちゃくちゃかっこいいなと感じ、それが剣心なんだよなと、急に抜刀斎への尊敬の念が増してしみじみしましたとさ。
 アニメ『るろうに剣心 -明治剣客浪漫譚-』、絶賛放送中。

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