
The Outsider
朝は見たくないの。
朝は見たくないけれど、陽は必ず昇る。「明けない夜はない」なんて格言、わたしにとって呪いでしかない。
永遠に深夜ならいいのに。夜更かしした悪いコだけが起きている朝と夜の狭間で、子供のフリしてずっと遊んでいようよ。

「太陽が眩しかったから」人を殺した小説の主人公がいるなら、わたしは太陽そのものを殺してやろう。そうしたら、ほら、彼も裁判中に笑われずに済むかもしれないじゃん。
具体的にどう殺してやろうか。
待ち伏せにしよう。それがいい。相手が馬鹿正直に毎日昇ってくるなら、その律儀さを利用してやるんだ。ざまあみろ。
太陽は必ず昇るのだから、必ず日の出の開始地点が存在する。そこを狙えばいい。それはどこだ。「月は東に日は西に」なんて詠まれているんだし、わたしの予想では「東だ」! 東に待機していればヤツは絶対に姿を現す!
東、か。
思えばわたしは「東京」に住んでいるのだし、わざわざこれ以上東に行かなくてもいいかな? いや、計画に失敗は許されない。極端に東の果てまではいかずとも、東京の東側には行こう。具体的には……うーん、葛飾区かな。なんか川とかたくさんありそうだし。広い場所の方が刺しやすくて助かるかも。いや、狭い方が逃さずに済むから確実性が高い? あ、でも、太陽は憎たらしいくらい真面目だから、逃げも隠れもしないか。みんなに好かれる人気者だから、つねに堂々としていやがる。そんなところも気に入らないね。
よし、葛飾区の江戸川に行こう。
わたし江戸川乱歩読んだことあるし。江戸川の端で待ち伏せした憎き太陽を滅多刺し。そうしてバラバラの芋虫にしてやったら、物置でしばらく飼ってあげてもいいかな。あめちゃんを今日までこんなに困らせてきたんだから、ちょっとやそっとじゃ許してやらない。
よし、カッター持った。顔を見られないようにフードもOK。あとは始発になって橋を渡れば計画はパーペキ!
外へ……外へ出る、出るぞ……。ううっ、ダメだ! 始発の時間は思っていたよりすでに明るい! 人がちらほら歩いている! 動物の声がうるさい! こいつら、こんな早朝から出勤や登校しているのか。電車に揺られているのか。そりゃ人も殺したくなる。
ダメだ。朝陽の光が怖くてあめちゃんはこれ以上部屋の外へはすすめない。撤退だ……。
覚えていろ、我が宿敵「太陽」めっ! おまえは、いずれ「眩しかったから」という理由でわたしに刺し殺されることとなる。
その輝きが羨ましくて、妬ましくて、黒く深い影の中でしか生きられないわたしのような人間は、その眩さを殺さないといけなかったんだ。
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