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一口エッセイ:美少女キャラクター一人一人と向き合う

 最近、98〜02年くらいの美少女ゲームソングを改めて聴いています。この頃の曲のなにがそんなに琴線に触れるのか考えてみたところ、個人的に「歌詞の直球さ」「小室哲哉の影響が残るシンセの音」の2つにあると結論づけた。
 初期のエロゲソングは驚くくらいに小室哲哉です。二次元美少女キャラクターが混ざっているので一見分かりづらいが、分解するとかなり小室哲哉になる。が、その話は面倒くさいので省略。敢えて言うなら華原朋美の『I BELIEVE』を聴いて目を閉じてみてください。浮かんでくるでしょう、意味深なセリフと共に浮かんで消えていく美少女キャラクターの立ち絵が。有名な泣きゲーのOPだと錯覚するものの、作詞・作曲は小室。
 旧いエロゲソングは歌詞が直球だ。何故なら当時は「美少女キャラクターと恋愛ができる」だけで特別だった。今ではアニメを観てもソシャゲを起動しても美少女だらけで、そして彼女たちはあなたのことが大好きだ。こんなにモテてしまっては流石のオタクもただの恋愛に飽きてしまう。そこで製作側はストーリーを複雑に、壮大にしていく。それは決して悪いことではないですが。
 対して、初期のエロゲは「ナンパ」から始まるわけで、大きく心動かされるシナリオや世界観より、もっと「女の子とデートして好感度を高めて堕とす」ことが優先される。もちろん当時からゲーム性やシナリオに凝った作品は無限にありますが、傾向として今より確実にシンプルな構成のものが多いはずです。SFやファンタジーにしたって、あかほりさとる的なライトでポップなノリも多い。
 そうなると歌詞も恋や愛を綴ることになる。だってゲームの中で行われることは、「主人公が美少女と出会ってカウンセリングのように彼女の悩みを聞いて解消した末に付き合う」だけなのだから、言うこととしては「二人ならきっと乗り越えられる」とか「切ない気持ち止まらないよ」などふわっとした綺麗事になりがちです。そこにオタク寄りにチューンされた小室サウンドと儚げな女性ボーカルが乗ることで「90年代」が完成する。JPOPらしい、なんか良いこと言ってるっぽい歌詞が重要で、ふわふわしつつもその捻くれてなさがピュアに見えて尊く思えてしまう感覚。これは現代で狙って出すのは難しい。ここがレトロなエロゲソングの魅力ではないでしょうか。
 後に泣きゲーの波が訪れて垢抜け始め、みるみるうちに美少女たちや世界が抱えた闇と秘密は大きく膨らみ、併せて物語は文学性を増して、やがては流行の全盛期を迎える。この頃は90年代の亡霊である小室サウンドからも抜け出し、歌詞も「愛」や「奇跡」なんかじゃまとめきれないものとなっていきます。もうナンパやデートなんかの時代じゃないのさ。仕組まれた運命や因果律がどうこうのレベルに達しており、間違っても女の子に電話をかけるコマンドを選択した後、彼女が喜ぶプレゼントやデートスポットを総当たりするような原始的なことに飽き飽きなんだ。
 そんな令和のいま、配信されていたこち亀の左近寺登場回を観た。

 いい絵面だ。ゴチャゴチャした独身寮にぎゅうぎゅう詰めのむさ苦しい男たち。画面の向こうの美少女・沙織にすっかり夢中な左近寺。今まで女性と縁のなかった彼は、「自分の名前を呼んでデートしてくれる女の子」の存在に全てを懸ける。恥を忍んで両津に攻略法を聞き、モテる中川を見て女心を学習するほど。ときメモが元ネタのこのゲームに深いシナリオは無い。いかに上手く沙織の機嫌を取れるかが全てであり、ある意味では究極のリアルだ。なぜならたいていの人間関係は何度も接触して少しずつ相手と仲良くなるだけで築かれる。両さんが攻略法として「評判が悪くなるから攻略対象以外にも優しく」と教えるが、それもまた人間関係として正しい。そんな単調なリアルを乗り越えた先にデートや告白がある。憧れの美少女が自分の名前を呼んでくれるご褒美が。
 これだけ。たったこれだけの報酬なのに左近寺は人生でもトップクラスに興奮し、感動するのです。素晴らしい。誰よりもヒロインに向き合っている。ひたすらに彼女のことを想い、どうすれば喜ぶかを考え抜いて選択する。これだけでもすごいことなんです。だって、二次元の美少女キャラクターが自分たちどうしようもないオタクに寄り添ってくれるんですよ。届くはずない高嶺の花が自分を頼って名前を呼ぶ。現実では体験できない原初の喜び、承認。
 向き合わないといけない。飽和した美少女たちの一人一人ともっと真摯に、真剣に。どこに連れて行けば彼女が喜び、何を言ってしまったら彼女が悲しみ、どのようなステータスを磨けば彼女が惹かれるか。左近寺や両さんが研究した沙織の攻略法を、僕らもまた組み立てなければならない。ヒロインをキャラクターでなく、目の前にいる「人間」として見るのだ。僕は、そういう思想からヒロインと一緒に生活し続けるだけのゲームを作ったんだ……。
 それはそれとして、左近寺というオールドなオタクもいる中、秋葉原に通ってでかい声で深夜アニメの話をしたりバイクに萌え萌えステッカーを貼ったりで、テンプレ若者オタクを謳歌して、萌え文化に関しては両津よりも詳しいというポジションに登り詰めた本田が一番すごいよ。



 

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