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NEEDY GIRL


 学校に行きたくない。誰とも話が合わない。同級生とも、先生とも。全員が全員バカに見える。けれど、その感覚は間違っていて、本当に自分が賢いのだとしたら周りに合わせられる筈だということくらいは気づいている。
 つまり、わたしは馴染めていないんだね。
 周囲を見下してしまうのって防衛本能なのかな。そういうことにしないと、おかしくなっちゃくから。わたしのプライドだけが変に高くて、いや……プライドが高いっていうのもそういうフリなのかも。単に頭が悪いことを「一般人とは違う拘りのあるわたし」って思い込もうとしているだけで……。
 教室の人たちが流行りの音楽や漫画の話でコミュニケーションしていることを「浅い」と言ってしまう。暇つぶしに漁ったネットのマイナーな作品を知った程度で個性や知性を手に入れた気になって……。だけど、暗い映画の方が好きなのは本心だもの。不幸な人間と快楽に溺れた愚か者の方に感情移入できるから。昨晩は『レクイエム・フォー・ドリーム』を観た。薬物のせいで人生台無しにするってゴミすぎるけどさ、理解はできるよね。なにかに酔ってないと生きていてつまらないって気持ち。イケメンと美少女が恋して結ばれるストーリーより何億倍も分かるよ。
 何もない。わたしの人生、シンプルに何もない。「無」に理由をつけたくて、どうにか生い立ちや環境を過剰に不幸だと認識しちゃったり、脳内で再生される都合のいい妄想をだんだん真実だと誤認したりしてきて、それが怖い。教室、親、同級生、知能、所得、SNS、寄ってくる異性、見栄っ張りの同性……とにかく他責で自己を保とうとしていることが、いつか取り返しのつかない過ちに繋がりそうで漠然と恐れている。じゃあ自分のせいって考えないといけないんだけど……見方によってはなんの行動も起こしていないスマホ依存のぼっち学生なままで居るわたしが元凶なんだし。勘違いしたプライドを捨てて、流行りの音楽や漫画もちゃんと面白いことを認めて、会話を「媚び」だと嗤わず素直に相手と目線を合わせて喋ってみればいいのに。
 だけど、思っちゃうじゃん。わたしがそんなに悪いの? 見てみぬふりしたのは大人たちじゃない? 裏切ったのは教室のやつらでしょ? わたしは、わたしは……死にたくなるけど、「死にたい」なんて声に出したら、それこそ死ぬほど薄っぺらくなる。そんなどこにでもいる"悩める思春期少女A"でわたしの感情を回収されたら堪ったものじゃない。保健の先生に、「大丈夫。人生は良いこともあるから自分のペースで頑張ろうね!」って肩を叩かれて終わり。
 そうだね。いいことあるよね。楽しいことを考えよう。きっと、先生は今後も人生において「楽しいイベント」が目白押しなんだろうから。業務を終えて家に帰ったら愛しい恋人が抱きしめてくれるかもしれない。友達とちょっぴり贅沢なディナーを嗜むかもしれない。もしかしたら、先生も真っ暗な部屋で精神薬を頼ってどうにか朝を迎えるのかも。でも、楽しいことがあるって言ったのは先生なんだから、やっぱり愉快な何かが沢山あるんじゃない? ずっと酔っていられるような。
 楽しいことたくさんあるよね。お母さんがオムライスを作ってくれる。友達が遊園地に誘ってくれる。読んでいた漫画がアニメになる。嫌いなやつらが車に轢かれる。お母さんが優しくなる。嫌いなやつらが海に溺れる。サイキックに目覚めて嫌いなやつらを爆殺できるようになる。本屋の中身がぜんぶ手に入る。嫌いなやつらが調子に乗って崖から落ちる。教室のやつらが、大人が………

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