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にゃるらが最近読んだ本 5選2023年 12月

↑前回の。
 


・バッタを倒しにアフリカへ

 大量のバッタに囲まれて襲われるのが子供の頃からの夢という異常な男が、日本で若者が細々と虫の研究をしているだけでは暮らしていけない……と一念発起し、ついに大好きなバッタで研究成果を出すため蝗害の本場、アフリカへ。
 蝗害……何億匹のバッタが同時に移動し、通り過ぎた先にはバッタの死骸しか残らない、まるで神が人類に与えた裁きのような災害。『ハイパーインフレーション』でも大災害の一つとして扱われていましたね。
 そんな蝗害へ敢えて立ち向かう、奇妙な男が一人……。「好きなことで生きていく」とは言うものの、「バッタに襲われるのが好き」という場合、こうしてアフリカで現地民と手を取り合い、直接バッタへ立ち向かわねばならない。もちろん、蝗害とはほぼ無縁の日本において、わざわざそんな挑戦をする人間なんてめったに居ない。
 当初は遊び半分できたと現地民から訝しげに思われていた筆者も、そのバッタへの本気度がどんどん認められていき、ついには彼らから「ウルド」という敬意あるミドル・ネームを与えられるまでとなり、著者名にもばっちり入っている。すごい。間違いなく、日本におけるバッタ専門家として五指に入る人間でしょう。こんな人間がいざアフリカへ行くまでは食うに困っている(成果が認められるまで現地でも困難へ襲われ続けるのですが)ことが、また現実の残酷さと合わさってドラマチック。

 ときおり挿入される小話も興味深い。
 向こうでは「太っている女性」のほうが豊かで魅力的とされているため、子供が吐き出して泣きわめくほど食事を押し付ける文化があり、そのせいで教育方針による夫婦の対立に巻き込まれたりもする。日本では、シュッとしたスタイルの女性の方が一般的に好まれるが、向こうでは「貧乏そうでありえない」印象になるのだ。それでも抱えきれないほど大きすぎるとダメらしく、ビスケット・オリバとマリアのような関係の尊さを連想する。

 それはそれとして、とにかく、このように行動に芯がありすぎてなかなか日本では認められなかった人間による決断が数年かけた行動に示され、こうしてベストセラーとして多くの人間に愛され、報われる様子は気持ちが良い。
 剽軽な内容や表紙からは想像つかない、「バッタへの異常な執着」のみで生きてきた男のたしかな生き様の話なのだ!
 ホントにいい本ですよ。

・世界でいちばん透きとおった物語

 この電子書籍全盛期へ颯爽と登場した、「紙の本」ならではの仕掛けが凝られたミステリー。
 作者はライトノベル作家の杉井光。『神様のメモ帳』は直撃世代で、数少ない僕が全巻読んだラノベですので、恐山さん・常春さんの謎解き大好き組に勧められて再び名前を目にした運命に緊張……。

 あまりにギミックありきすぎて、なにを書いてもネタバレになるため(髪ならではの仕掛けがあること自体は帯で明記されている)これ以上は黙っておきますが、このタイトルと表紙からは想像できない参考文献でちょっと笑ってしまう。

 勘が良いミステリ・ホラーファンなら、やたらと京極夏彦が参考文献で引用されている時点でヒントになりそうですね。夏彦はすごいよ、やっぱり……。

・信仰

 『コンビニ人間』の村田沙耶香さんによる、「信仰」をテーマにした短編小説集。すでに嫌な予感しか感じさせませんが、想像通り中身はドロドロじめっと「変な人間たち」のどうしようもなさの連続で構成されております。

 あまりの「マニュアル人間」がすぎて、マニュアル的な仕事しか望まれていないコンビニでのパーツ扱いとの相性の良さを描いた傑作『コンビニ人間』……このあらすじから、コンビニアルバイト経験者(自分も……)含めてつらい気持ちになると思われますが、今回は「信仰」であるので、その対象がさらに尖っていく。短編集なので一つ一つはサクッと読め、SFチックな世界観の短編も多く、まるで一冊で『世にも奇妙な物語』の面白い回を一通り観終わったような読後感に。間違っても「きれいな物語を読んで気分爽快!」な心地ではない。

・新版 幻想の中世

 中世時代の幻想的なアート……ざっくりオタクらしい解釈をすれば、メガテンのモチーフになりがちな、ゴシックであったりファンタジーであったりする存在たちが、あの時代になぜ同時多発的に生まれたのか、経緯と変遷、そして何より、その想像力をたいへん丁寧に解説してくれる一冊。
 ながらく電子化されていなかった古い本なので、ぶっちゃけあまり読み易くはないうえで、読み手側の前提知識の要求も高く、登場する用語や人物名を片手でググりながら読み解くことになる……。
 ので、万人はもう少しカジュアルな図説をおすすめしますが、表紙のイラストのような幻想的な世界の虜となった一部の偏屈者にはたまらぬ本であり、このたびの電子書籍化に感謝します。

・理想の色に巡り会える 青の図鑑

 『青の図鑑』の書名通り、とにかくきれいな「青」がたくさん収録されており、もちろん「青」の概念そのものの解説まで。この一冊で、たくさんの青を識ることができるでしょう。


 青はとても優しく、孤独な夜を演出してくれますからね。

 好評だったようで、続いて『赤の図鑑』も登場。
 もちろん、こちらでは「赤」についてが学べます。グロテスクな血の赤から、華麗な薔薇園の赤まで。

 これはこれで、「紙の本」ならではの一冊ですね。

 めちゃくちゃどうでもいいですが、最新作『ゴジラ-1・0』のゴジラが青く綺麗であったため、友人へ「赤」のゴジラのカッコよさを伝えるために、バーニングゴジラの話をしたりもした。
 青には青の静寂が、赤には赤の情熱の魅力が溢れている。

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