一口エッセイ:社会と予定調和の儀式
今日は、大きな会社と打ち合わせしてきました。六本木にオフィスがあってすごい。警備員がいっぱい居て怖かったぜ。
企業との初打ち合わせって、かなり予定調和というか茶番というか……言うなれば儀式的だなと感じます。お互い展開が分かりつつも、皆が示し合わせたようにきちんと段階をふんでまとめるんですね。
二人組の相手と挨拶し、片方の若い女性が「超てんちゃん大好きです!! ぜひ、一緒に仕事したいです!!」とグイグイ来てくれる。もう片方の上司の男性が、「こらこら 笑」と落ち着かせる。この時点で、良い打ち合わせだなって感じますね。ビジネス丸出しでお堅い話だけ行われるより、これくらい情熱的な方が当然嬉しい。
こちらのプロデューサーはスーツの正装です。真面目な話をしますぞってポーズですね。最低限、会社として話が通じる安全を保証。その上で、僕は敢えてキメキメでいく。今回は全身ヨウジヤマモトの真っ黒。いかにも気難しそうなアーティスティックな男を演出。その方が強く印象に残り、良くも悪くも「普通じゃないやつがきた」と思わせるのです。変なゲームの原作者なのだから、変なやつが出てくることを望まれており、これは極めて正しいことだと思う。僕も、好きな格好できるしね! いざとなれば隣のスーツの社会人が、きちんとしたビジネストークができるから向こうも安心!
予定通りにビジネスの話が展開。社交辞令で話が進行していく中、ここで「でも、最終的な判断は原作者のにゃるらに任せますから」と話を振られる。やっぱり企業的な動きよりも、インディーならではな個人の感覚を優先するよと格好つけるのです。会議室に緊張が走る……。
そこで、僕も腕を組んで悩むポーズをとり始める。気難しいクリエイターが、ビジネスと楽しさの狭間で悩み、「お金はともかく、ファンが喜ぶ方向でいきましょう。それが一番優先すべきことですから」と条件を提示。もちろん、向こうは「その通りです! ファンが喜ぶことを第一に話しましょう!」と乗ってきます。流石に、ここで「いやお金の方が大事でしょう」なんて言う人は居ない。そこまで正直なら、逆に好感持てますけどね。
そうして、気難しい原作者の厳しい条件(ポーズだけ)を飲みつつ、ファンが喜びながらお互いの利益になる落とし所を探そうという形になり、若い女性社員さんが大喜びしてくれて解散。基本的に、初対面での打ち合わせはこの流れになる。僕が、その場で検討した結果として、「この相手とならファンを第一にしてくれるな」と判断したので特別に許可しました感を演出するのが肝なのです。
宮崎駿監督が、庵野秀明を声優として起用する際、みんなで「声優は誰がいい? 声優らしい人間を使うつもりはないから〜」と打ち合わせする映像があるじゃないですか。あれも、「いやそんな誘導せずに、さっさと庵野にしよう! って言えばいいじゃん! 本当はみんな知ってるし決まってたんでしょ!?」となりますが、それでもみんなで悩んだ末に「よし、庵野にしよう」と監督が呟く瞬間が重要なのですね。こういう予定調和な儀式を経て、世界は回っていく。これが社会なのだ!
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毎日必死でネタを探しており、全くもって予定通りでない世界です。
過去の長文エッセイをまとめた商業エッセイ集もよろしくお願いします。まだ若くて、社会なんて何も意識してなかった純粋なころ。
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