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新海誠の「エロゲOP監督としての魅力」を振り返る

 ※2年前、minoriがソフトウェア製作終了を宣言した際に書いた記事をnote用に加筆修正したものです。

minoriソフトウェア

 有名エロゲメーカーのminoriがソフトウェア制作の中止を発表しました。minoriはゲーム制作のみでなく大規模イベントなどにも注力し、業界全体を盛り上げ続けたメーカーでしたので、今回の発表には多くのファンに波紋を呼ぶ結果となりました。

 制作終了に至った理由の一つに最新作の延期がありまして、minoriは制作に関して真摯に取り組み、過去にやむを得ない理由での延期はあったものの、スタッフが業界自体の延期常習化を憂う旨のツイートをする程に、ユーザーとの信頼感を重視していたものの、18年間業界を支え続け流石に体力が落ちてきたことが伺えます。

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 そんなminoriさんの最終作となった作品が「その日の獣には、」。これまた挑戦的なタイトルです。

 僕は以前ゲームラボにて「このエロゲーのタイトルがヤバい2018」なるゴミ記事を掲載したのですが、この美少女ゲーム然した絵面から想像つかない文学性のあるタイトルに感銘を受け、2位に選ばさせて頂きました。こんな企画に紹介されてもなんの栄誉もありません。

 それにしても、声に出したさと句読点の余韻が残る良いタイトルだと思います。僕が好きなエロゲタイトルですと「真昼に踊る犯罪者」「感覚の鋭い牙」などがあるのですが、そこに並べても謙遜ないハイセンスな文字列です。

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 さて、minoriさんと言えば地上波アニメ以上にお金が掛けられているんじゃないかレベルで美麗なOP。というのも、初期からあの新海誠さんが関わっているだけはあり、メーカーの強力な特色となりました。とにかくOP映像が良ければ売れる時代もあったのです。

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 「新海誠と言えば、君の名は。でも秒速5センチメートルでもねぇ、minoriだ!」と主張するオタクも少なくないでしょう。中には新海誠と言えばイースだ! という方も居るかも知れません。

 今回は新海誠が関わった魅力的かつ幻想的なエロゲOPたちを逐次振り返っていこうと思います。

・Ys II ETERNAL(2000)

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 先述した通り、新海誠さんがファルコム時代に手がけたゲームOPが「Ys II ETERNAL」。印象的な光の射し方と大胆な雲の動かし方を活かした背景とアフターエフェクトの演出は、約20年前から新海誠が新海誠である由縁がわかります。それにしても「TO MAKE THE END OF BATTLE」は色褪せない名曲ですね。

・BITTERSWEET FOOLS (2001)

 minoriの初作品にて新海誠のエロゲ初監督OPが「BITTERSWEET FOOLS 」

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 背景のイタリアとアンニュイな美少女たちの組み合わせでピンときた方も多いと思われますが、原画はGUNSLINGER GIRLの相田裕先生。新海誠色は薄めながらも、原画の持ち味を活かしきった見事な出来栄えのOP。この繊細さは歴代のエロゲOPと比べても出色の出来。相田裕×新海誠の組み合わせだからこそ生まれた唯一無二の奇跡でしょう。これを一人で一ヶ月で仕上げたというのですから、末恐ろしい。いや実際に末には日本を代表する劇場アニメーションを作るわけなんですけれど。

 まだ本編のCGと立ち絵を横にスライドさせているだけのOPも珍しくない時代に、この気合の入れようですから、衝撃を受けたオタクたちは数知れず。最も、本作の影響を一番受けたのは、発売の1年後にGUNSLINGER GIRLを世に出した相田裕先生とも言えますが。

・Wind -a breath of heart- (2002年)

 まだヤンデレという概念が膾炙していない頃のヤンデレゲーとして一部で話題になったり、ファンディスクやOVA、地上波アニメにもなったりと、minoriの名声を世に知らしめた初期の代表作。

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 満を持して「夜に差し掛かった夕暮れ時の屋上」が登場。「ほしのこえ」完成後ということもあり、新海誠らしさが確立。この画を何人のオタクたちが憧憬したことか。

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 OP2やファンディスク「そよかぜのおくりもの」でも、精彩と才能を遺憾なく放ち、天空に浮かぶ巨大な歯車や街の上空を海のように渡る少女など、美少女とエモい背景の組み合わせを極限まで引き出しており、後に覚醒する新海誠のオタク的センスの一端を感じとることができます。

・はるのあしおと (2004)

 貴重なエネルギッシュに四季折々な世界観を表現した明るい新海誠。教育アニメチックな歌とサビの疾走感が噛み合った名OPであり、映像に負けないほど内容も練り込まれロリポップなヒロインたちの成長をテーマにした万人にオススメできる一作。

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 カーブミラーに映し出された雪景色を曲がったら春の陽が射すという演出の純朴な素晴らしさから新海誠の光の心を感じます。日本には世界に誇る美しい四季があることを「はるのあしおと」で知ったオタクも多いことでしょう。
  途中で挿入されるミスマッチ気味な本編のCGに、「あっエロゲだな」と気付かされます。

・ef - the first tale. (2006)

 これぞ新海誠とminoriの真髄。十数年前の僕の音楽再生機器の1位が「悠久の翼(雨宮優子ver)」だった事実はあまりにも有名。CIRCUS作品のイメージが強い七尾奈留先生に新たな可能性が示された時期ですね。

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 ポエムチックな男女の会話から始まる出だしも実にエロゲらしくて完璧。

 アフターエフェクトばりばりな青天の霹靂、夕暮れの屋上、そして紙飛行機……新海誠とminoriが築き上げた美少女とエモーショナルな背景の究極がここにある。efのOPを制作する傍らに「秒速5センチメートル」にも着手するという二足の草鞋っぷりに感服。

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 サビの盛り上がりに合わせ、夕暮れの屋上に立った美少女を中心に回転するカメラ、すれ違い様に一瞬見せる涙と解かれる手、そして天に登りながら雲散する紙飛行機……こんなにオタクを喜ばせるために存在しているような映像他にある???

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 シャフト制作のアニメ版OPでは、数話ごとに変化し進化していく演出により原作とはまた違った感動を呼んだことも特筆したい。

・ef - the latter tale. (2008)

 今作での新海誠は絵コンテと仕上げのみの参加ですが、

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天空から下に伸びていく螺旋状の階段を美少女が静かに降りていくというレイアウトのオタクセンスは間違なく新海誠クオリティ。

 残念ながら、今作を最後に新海誠さんはエロゲメーカーからは手を引いてしまいます。

新海誠後のminori

 しかし、ef - the latter tale.を通して鍛えられたOP制作スタッフは、その後もどことなく新海誠っぽい背景や演出に美少女然とした絵を組み合わせ、独自の進化を遂げていきます。

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 むしろ、新海誠テイストを引き継ぎ踏襲しつつも、新海誠とはまた違った美少女ゲームらしさがミックスされた「eden*」以後の作品こそ真のminoriと言えるかも知れません。

 当時はエロゲOP界のトップだと言われた「すぴぱら」でのグリグリ動き回るアニメーター殺しの贅沢なOPは圧巻の出来。エロゲどころか同年のアニメと比べてもトップクラス。

 それ故に、OPだけでも半端ない金を掛けクオリティを保ち続けたツケも回り、分割商法かつエロシーンなしの意欲作すぴぱらでは大きな赤字に。この失敗は間違いなく今回の製作終了まで尾を引いたと察します。結局のところ続編は出ませんでした。

 その反動か、すぴぱら以降のminoriはシナリオ以上にエロシーンに気合を入れて命脈を保つようになります。特におっぱいへ。

 という訳で、minoriの18年間の挑戦は幕を閉じました。誰よりもOPに注力し、イベントの主催など業界全体に貢献した偉大なメーカーの最後に思わず目頭が熱くなりますね。

 こう並べてみると、僕は新海誠の美麗な背景に、美少女ゲーム然としたヒロインが経っている光景が一番好きなんだなぁと感じました。ちょっと美少女が浮いちゃっている感じがいいよね……。


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