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エッセイ:はじめてツインエンジェル2のエンドレスヘブンを聴いてホールで絶頂した話

 春、大学生活のために沖縄から上京した僕は、学業以上に大きな目的を持って東京の地に足を踏み入れました。

 何を隠そう、小学生の頃からゲーセンのパチスロにどっぷりハマっていた僕は「ツインエンジェル2」が打ちたくて仕方なかったのです。

 僕が生まれた沖縄には当時萌え台が殆ど設置されず、ましてやアミューズメント機としてゲーセンに落ちてくるなんてありえない。県内でツインエンジェル2が設置されている店を検索しても、なんと石垣島しかヒットしない。むしろなぜ石垣島に設置されていたかは謎なのですが。

 生来、脳内麻薬を簡単に分泌できるモノに滅法弱い人生でして、入学式すらサボった上で上京した僕は、なんと初授業すらサボって速攻でパチスロ屋へと向かいます。内地で心を入れ替えた僕が学業に専念してくれたらと考えている母親の期待を裏切って打つパチスロの快感といったら。

 今ではすっかり人口に膾炙した萌え台の概念ですが、当時はまだまだホールに数種類あるかどうか。まだホール慣れしていない若者がキョロキョロしながら美少女イラストずくめのツインエンジェル2へと座る様は、周囲から見ればさぞ滑稽だったことでしょう。
 それでも打つしかなかったんです。田村ゆかりが、能登麻美子が、釘宮理恵が大好きだったから。

 18歳にとっては千円二千円が大金です。大事なお札が50枚程度のメダルに変換され、更にそれが何の手応えもなく数分で呑まれる緊張感はひとしお。新生活の家具代のために使うはずだったお金がどんどん天使たちのお小遣いになっていく。
 1万円ちょっと使ったところでしょうか、ようやくボーナスまでたどり着きます。あべにゅうぷろじぇくとの電波曲に乗せて増えていくお金たち。一枚20円のメダルがボロボロ落ちていく快感は、高校や大学なんかでは決して味わえない。全身を包み込むアングラな刺激が若い感受性をどんどん蝕む。

 さて、ツインエンジェル2ではRT突入時にストックが残っている状態……つまりとにかく当たっていて余裕があってお金が儲かってすごい! 時に流れる「エンドレスヘブン」という曲がありまして、この曲の脳味噌破壊度がすごいんです。
 初めてホールでパチスロを打った若者は、ビギナーズラックでどうにか「エンドレスヘブン」までたどり着きます。

 「あー、あー、WARNING WARNING」と突然萌え声で注意喚起され、勢いよく発せられる「どれだけつぎ込んだか知らないけど、よくもまあこんなところまでたどり着いたわね。不本意だけど、褒めてつかわしてあげるわ!」の罵倒。
 メタネタが大好きだった僕には、この「どれだけつぎ込んだか知らないけど」と客のキモオタをバカにした態度がたまらなく効くんです。こんなこと言って良いんだ、そして今の状態はそんなとっておきの罵倒が送られるほど天国なんだ!
 レバーを叩けば叩くだけ増えていくメダル……ひいては生活費。画面いっぱいの美少女キャラクターたちに、テンポ早めのイカした電波曲。電波曲とお金の相性は、それはもう凄まじい破壊力。
 エンドレスヘブンはサビに入り、大音量で「マゾね変態ね 尊敬してあげるわよ」とさらなる罵倒が。そうパチスロなんて打っている時点で誰もがマゾであり、期待いっぱいの初授業すらサボって萌え台に夢中な18歳が変態扱いでも過言ではない。
 あー、この曲は僕のようなダメ人間に向けて歌っているんだ。こんなゴミみたいな人間でも一応褒めたり尊敬してくれたりするんだ……。
 人から褒められた経験がほとんどない僕にとって、当たるたびに褒めてくれるパチスロ機というのは本当に嬉しい!
 サビはまだまだ続き「みそみそ脳味噌くさる~」「からから中身の抜けたクリアなあたま」と、軽快なリズムに合わせて脳味噌を効果的に揺さぶる歌詞が。これがとても気持ちいい! 働かずに手に入るお金が正しく脳味噌を腐らせる! レバーを叩いていく毎にどんどん自分の中身が失くなっていく感覚! タフのセリフで例えるなら「これはもうセックス以上の快楽だッ」!

 2番の歌詞もメタネタだらけで「周り気にしないの? 心を鎧で包むの?」と、まだ座るだけで目立つ萌え台に、しかも電波曲全開で挑戦しているキモオタを、別の角度から攻撃してくる。この遠慮なくズカズカ刺してくる言葉のナイフがスパイシー。
 「壊れたあたま~」の歌詞に合わせてボーナス確定。すでに投入した金額よりも儲かっている。今まで沖縄の最低賃金(640円くらい)で必死に稼いでいたバイト代が、美少女を眺めているだけで軽く上回っていく……。気が狂う!

 実際、気が狂ったんです。

 後はもう気づけば大学中退でODや合法ハーブ、または小金が入ったらパチスロに行くだけの廃人ができあがり。みそみそ脳味噌腐ったんですね。しかもツインエンジェル3まで登場するんだからもう大変。
 それでもツインエンジェルを打っていた僕は間違いなく幸福でした。
 だって誰からも相手にされなかった人生で、レバーを叩くだけで美少女の天使たちが喜んでくれたのだから……。


 

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