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にゃるらが最近読んだ本 5選2024年 2月

↑先月の。


・Cindy Sherman Untitled Film Stills

 めずらしく写真集を紹介。
 といっても写真集というよりアート寄りの本であり、この一冊は「どことなく映画のワンシーンっぽい写真たち」といったコンセプトのみで構成されている。

 シンディ・シャーマンによる、「映画のワンシーンっぽいストーリーを連想するような場面」たち。読者はページを捲るたびの「っぽい」場面から情緒を受け取る。自身を作品とした現代アートの一つ。

 もちろんシンディ・シャーマン自体の美貌から、存在しない昭和のスターアイドルを想ってもいいし、脳内でシチュエーションを膨らませて存在しない名場面を夢想するのも良し。
 なにが人の想像力を掻き立てるかに挑戦した、アイディア勝ちな歴史的写真集。問題点としては、レア物すぎてネット上でもなかなか見つからないところでしょうか。翻訳もされていない(写真集なので問題はないけれども)。

・結ぼれ

 いろいろあって、以前に僕が復刊に関わり解説を担当したR.D.レインの詩集『好き?好き?大好き?』と連なる、もう一冊のレインの詩集が文庫化。
 今回は自分は解説文ではないですが、献本を頂きました。ありがとうございます。とはいえ、復刊前の方を所持してはいますが。

 というわけで、久々に『結ぼれ』の方をめくってみるも、こちらは『好き?好き?大好き?』よりも、さらに言葉の原液のような濃度が凄まじい。

 おかげで上手く入り込めたときの脳の気持ちよさも抜群。感性の迷路に迷い込んでしまったような浮遊感が心地よい。『好き?好き?大好き?』と合わせて、レインが患者を通して行った「詩」と「言葉の遊び」の世界へ思考をチューニングしていきましょう。


・リルケ詩集

 せっかくなので、レイン以外での詩集のオススメを。新潮文庫版の表紙がいいですよね、リルケ詩集。

 20世紀ドイツ最大の詩人と呼ばれた彼の詩は非常に力強く、情熱的。そのうえでの静けさを併せ持ち、まさしく「詩」の魅力、言葉の美しさそのものが書き連ねられている。


 特にお気に入りの表題『貧困と死の巻』。
 言葉選びの重々しさが、主への問いかけに対する迫力を感じさせます。

・ルポ路上生活

 あまりに直球すぎるタイトルの実録本。
 数多くの闇へ潜入してきた筆者ですが、今回はタイトル通りホームレスとなって実際に路上生活をおくる。
 読んでいて最も印象に残ったことは、都内でのホームレス生活において意外にも凍えることや飢餓感に襲われることが少ないことでしょうか。都内だと雨風をしのげるスポットはすでにホームレス間で共有されており、そこへ毛布や衣服、炊き出しを行う団体が多いため、新参でも衣食住が容易に満たされる。
 うまく炊き出しスポットを回れば、1日で7回食事にありつくことも可能らしい。もちろん、それは一般人の胃袋でいっても食べすぎなくらい。これらを利用して、年金+路上生活によって下手にアパートを借りるよりも金銭的に充実した老後をエンジョイするホームレスも少なくない。こういった事実は当然じっさいに路上で暮らし、彼らから仲間だと認識されないと聞くことができない。なんと意義のある本なんだ。
 さらには、若いホームレスに「住み込みで働かないか?」と聞いてまわるスカウトマンもおり、無論、送り先で大変な肉体労働が待っているものの、住む場所自体は確保できたりもする。
 実は、僕も上京したばかりのころに終電を逃した池袋のベンチで寝転がっていたところ、「住む場所に困っているのか?」と声をかけられた。せっかくなので路上生活さのふりをして条件を聞いてみると、とにかく肉体労働の駒がほしいだけで、どうにもそれ以上に怪しいことはないらしい。この本にも「ホームレスを騙す意味がないから」と、むしろスカウトマン自体はヤクザ的な存在と離れていると語られている。変に詐欺に加担させるよりも、シンプルに工事現場へ派遣するほうが楽に儲かる。
 といったこともあり、日本でホームレスになっても意外と死なない。そればかりか、充実したサポート体制により下手なアパート暮らしよりもお金が浮いたりする現実が書かれている。
 飛び込まないと見えない世界の話は、いつだって刺激的なのだ。

・昭和の商店街遺跡、撮り倒した590箇所


 今にも無くなりそうな商店街をめぐる写真集。あまりにもニッチゆえに、これが堪らない人には堪らない。なにを隠そう、僕がたまに一人旅に出る理由として、こういった商店街などの観光スポットに載らない景色を見たさは大きい。

 これは浅草かつ、商店街でなく地下道なのでまた違うのですが、こういった街・人・文化そのものがむき出しとなった様子が醍醐味なのだ。
 沖縄で育ったからでしょうか、どこへ行っても「観光地から離れた場所」こそ、真にその土地の空気が味わえると確信を持っている。本当に沖縄らしい一般人の生活を覗きたければ、国際通りよりもちょっと外れた商店街を歩いたほうが絶対に良い。
 そういった侘び寂びの詰まった一冊でした。

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