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エッセイ:人生

 過眠をすると人生の時間を無駄にした勿体なさで苦しくなる。というか、単純に行動している時間が人より著しく少ないので、人生をかなり損しているのではといった気になってきて、とにかく悲しくなるのです。
 じゃあ早く起きればいいじゃないかと、誰もが思うでしょう。実際そうなのですが、僕はびっくりするくらい自分自身に甘いので、一日に十時間以上の睡眠を簡単に許してしまう。例え6時間で起きたとしても、どうせ日中に眠くなって横になるので、睡眠時間がズレる以外に何の意味もなかった。
 最近は緊急事態宣言とやらで、早めに店が閉まってしまうから、起きたらどこも開いていなくて、用事がなにも済ませられなかったりする。こうなると自分が社会から拒絶されている気がして、深夜徘徊が趣味のバカタレは街の恩恵を受けるなと言われているようで、これまた悲しい。とはいえ、人よりたくさん眠って気持ちよくなっているのだから、なにもかも自分が悪い。

 改善方法は簡単で、ちゃんと労働をすればいいのです。朝か昼には強制的に起きている環境を作れば、それで解決する話。しかし、困ったことに僕は大の労働嫌いで、自分の好きなことだけやっていたい。というか、それしかできない。
 言い訳だらけじゃないか馬鹿野郎と、そろそろ怒りたくなってきたでしょう。きっと、働くと僕はつねにこのような言い訳を並べるだけで、この文章以上に他人を怒らせます。他人を怒らせるとお金がもらえる仕事があるなら、大金持ちになれる。いや、そのお仕事はインターネットならたくさんあるな。あの人とか、この人とか、他人を煽ることでお金を稼いでいて、よくやるなぁと思います。自分にはアレは無理なのだなぁ。
 怒られたら時に逃げる速さは一級品です。一切中身のない謝罪をひたすら繰り返し、もはや謝罪文をループしないといけないくらいに、頭が混乱しているフリをします。実際はなにも考えていない、感じていないので、べつに弱ってはいません。相手の怒りに対して、罪悪感や反省もありません。謝り続けていれば、いつか相手も疲れて怒りもおさまるだろうと、それしか考えていない、人間のクズなのでした。

 こうなってくると、自分を天才だと信じ込むしかない。繊細で惰弱な天才肌気質だから、いざなにか行動を起こすと奇跡を起こせるはずだと。本気をだしたことがないので、本気をだせば僕を見下していたアイツもコイツも、あっと驚くような結果が残せると、信じて生きていくしか望みがない。実際は繊細でなく面倒で傲慢なだけで、惰弱ではなく努力不足なだけなのも、根拠のない万能感が年々すり減っていく中で実感していきます。
 ここまでくると努力をするのがたいへん怖いのですね。僕の無能っぷりが露呈していくだけで、家でただただ惰眠を貪っていた方が幸せで、それがお前の幸福の最上だと分かってしまう。学校や社会って、ちゃんと努力の練習をいっぱい用意しているので、すごいことだなと思います。逃げ続けてきた僕と、ちゃんと生きてきた人々とで、こんなに差ができるのですから。

 そのわりに、ちゃんとした幸せを高望みしてしまっており、親子で楽しく歩いている人たちとすれ違うと、そうか僕はアレが欲しいんだなぁ、それを羨ましがる卑しい精神があるのだぁと思います。
 それっぽいマンションの一室を借りて、犬か猫を飼って、共働きだけど記念日とかを一緒に楽しんでくれる妻がいて、僕と違ってはつらつとした子供が笑っている。家族が母親しかいなかったので、暖かい家庭に憧れはあります。そして、僕がその幻想を叶えるまでには、まず過眠も逃げ癖も治さないといけないことを知っています。
 とはいえ、いざそんな幸せを手に入れたところで、傲慢で愚かな僕は、また別のモノを望んでしまうのでしょう。怠惰なくせして嫉妬深く、欲望まみれで、すごく汚い存在であるのです。誰かに必要とされたいのに、必要とされると全速力で逃げだす。こんなものは人間ではない。

 一度、みなさんに他人から怒られているときの僕をお見せしたいくらいですよ。目が泳ぎに泳いで、あらゆる言い訳で自分は悪くないと申した後、それが通じないと中身のない謝罪を、心がこもっていない「ごめんなさい」を唱え続ける壊れた玩具。なんで謝っているのかすら分かっていないのだから、そもそも話が通じていない様子が滑稽で仕方ない。思わず怒鳴っている相手すら嘲笑するほどの無様っぷり。
 あぁイヤだ。そのわりに、自分を他とは違うなにかを持っている天才だと思い込む毎日。このようなことを精神科で話そうと思っているが、毎回面倒くさくて「寝つきが悪いです」くらいしか言わない。
 そんなこと言われたら医者は睡眠薬をだすしかなく、それを適当に飲んで過眠を繰り返す。朝に寝て夜に起きると、どんどん自分が社会から外れていく音が聴こえるので、よくもまぁこんな天才を無視しやがって、突き放しやがって、今に見てろよ、もちろん待っていてもなにもしないが、万が一、いや億が一くらいの確率で、僕がなにか凄いことをする可能性があるのだから、震えて眠っていろと、そう思いながら僕の方が過眠に戻るのだ。

 

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