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一口エッセイ:心臓の鼓動と良心回路

 今月の頭から、ストレスによる負荷なのか、なんでもない時に心臓の動悸が速くなってドキドキするようになりました。昨日、鍼治療の詐術中に先生に相談したところ、「ストレスで呼吸が浅くなり、酸素が足りず血液の流れが悪いため、心臓に負担がかかって動きが速くなっている」可能性があるらしい。
 というわけで、今日も起きたら心臓がやたらバクバクしていた。この状態で誰かと会ったら、あまりのドキドキに無条件で恋だと間違えてしまうかもしれない。いっそ、恋で上書きするのもアリですかね。心臓がバクバクしてまともに会話できないオタクとは、誰も恋愛関係なんて結んでくれないか。
 当然ながら、心臓は身体機能の中心であるので、そこが狂うとまともな活動は難しい。つねに呼吸が荒くて焦燥感に襲われるため、まともに思考できる余裕がないのですね。そういえば生物の心拍数には上限があるらしい。つまり、無闇に心臓の鼓動が止まらない僕は、無意味に寿命を減らしていっているわけである。そのせいで「焦り」が生まれているのかもしれないね。寿命消費が加速してしまったぶん、生き急がないと元が取れないと脳が余計な事考えている感覚がある。のんびり生きさせてくれ。
 頭が動かないのに焦りばかり生まれるので、仕方なく近所を散歩して回ることにする。昨日受けた鍼灸施術の副作用で身体がピリピリしている。加速した心臓に従うまま、一心不乱に歩き続けていると、「東高円寺北」なる場所へ辿り着く。「東にある高円寺の北の地点」複雑だ……。何も見ずにひたすら歩いていたので帰り道もわからない。困った困った。そもそも、特に帰る理由もない。帰宅したところで心臓はバクバクして落ち着かないのだから、どうせなら無限に歩行し続けていた方が精神的には楽なのです。横になっているのに鼓動が鳴り続けていると怖いし、胸が苦しい。歩いていると、それが誤魔化される。
 またまた何十分も歩いていると、もはや自分がどこにいるかもわからない。Discordには、どうやら仕事の話らしきメンションが届いているが、全く開く気になれない。開くとまたしても心臓の加速度が増し、僕の寿命が縮むのだ。
 心臓バクバク電気ビリビリ、脚は壊れたように歩みが止まらない。なんだか自分が人造人間のように感じてくる。僕はキカイダーだ。キカイダーには良心回路が組み込まれているが、僕の良心回路ら果たして機能しているだろうか。何が善悪なのかきちんと判断できているか。そういえば、僕は「幻覚世界へ飛ぶ薬」を選ぶことを「悪」だと認識していない。こんな寂しい現代なのだから、そんな場所でまともに生きるよりは、目の前に「幻覚世界へ飛ぶ薬」があるならそれを飲むべきではないだろうか。そう考えてしまう。少なくとも、心臓の痛みを紛らわすために闇雲に歩いている今より幸せだろう。良心回路が備わっているならば、こんな思考に至らないのだろうか。
 まあキカイダーの良心回路だって不完全だからいいんだしな……と勝手に納得し、さすがに疲れたので公園で休む。夜の公園には、待ち合わせのカップルが複数佇んでいる。彼ら彼女らは、僕と違って「恋愛関係」によって心臓をドキドキさせているのです。なんと幸福なことか! あの人たちには、もう「幻覚世界へ飛ぶ薬」なんて要らないのだ。すでに脳内物質の報酬はとまらず、二人だけの夢の世界へ誘われているのだから!
 それすら正直どうでもいい。たまたま公園が駅の近くであったため、さすがに電車で帰る。この数時間になんの意味があったのか。まあいいでしょう。心のリハビリというのは、きっとこういう地味な時間の積み重ねで回復していく。そういえば仕事の連絡を放置したままだった。やっぱり僕には良心回路なんて備わっていないのでしょう。


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