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にゃるらが最近読んだ本 5選2023年 11月

↑先月の。


・ものがわかるということ

 以前からのんびり追っていた養老さん関連の書籍が、ついにほぼ最新まで追いついた。ある程度の抜けはあるものの、少なくとも『バカの壁』シリーズを6冊全て読み、その集大成とも言える本書を手に取った時は、もはや本を読んでいるというより『養老孟司』そのものを識っていく感覚になる。人間一人の半生と思考の変遷を追っているのだ。
 半生を読んできたので、実はこの本で記されている考えは、僕にとっては2周目である。「これ『◯◯の壁』で書いていた話だ!」となるものの、もし本書から入る方には初見であるわけだから問題はありません。今までの養老さん書籍において特に伝えたい内容を令和の文体でアップデートされている。養老初心者にとっては美味しいことしかない。今まで追ってきたファンは文章の微妙な差異で喜ぶ。
 ここまで来ると養老さんの説教パターンもわかってきて、むしろそれを楽しみに読んでいるまである。僕らは強い老人によるありがたい説教が大好きなのだ! 養老さんのコンボルートの例を紹介しよう。

『世界に一つだけの花』というアイドルソングが流行った→ナンバーワンでなくオンリーワンでならないと歌っている。それは正しい→オンリーワンがどれだけ難しいことかわかっているのか、個性とは、自立とはなにか。むしろナンバーワンよりも複雑である残酷さを噛み締めるべきだ→そんな当たり前のことをアイドルが歌うまで、この国の若者は気づかないのか!

 これ僕が好きな養老さんの説教コンボだ。まさか『世界に一つだけの花』のから、説教ゲージを溜めて「今の若者は大丈夫か!」と超必殺技に繋げられる老人もそうそういない。この他にも「都市化したことで日本は終わっていく!」ルートもある。いろんな始動技から展開されていくので、まさかこの話題から若者への批判に繋げられるのか! と無知な若い読者として感動するのみ。
 そのうえで、もう80を越えた養老さんが、どんどん「死への準備」を始めていく様子もわかって寂しくなる。「死」を受け入れ始めた老人の思想と生活をここまで読んでいく体験がないので緊張している。
 そんな養老さんが「人間関係の悩みは死ぬまで尽きなかった」と言い切ったことは勇気づけられました。僕らは、きっと死ぬ直前までしょうもないことで悩んでいく。何故かその事実があまりに腑に落ちて強く脳に刻まれた。養老さんほどの人が人間関係で悩み続けるのだから、僕らが延々と人間関係に苛まれるのもさもありなん。

 実は、そんな養老さんと宮崎駿が対談している本がある。
 まだ読んではいませんが、こんな老人と老人が会話したらどうなってしまうんだ。いったいどれだけ僕らは説教を喰らっていくのか!? ゴジラのVSシリーズ並のわくわくバトルが繰り広げられるはずだ。

 いったいどれだけ面倒くさいことが書いてあるんだ!?
 気合を入れて読み始める体勢が築ける日まで、楽しみにとってある。

・ルルとミミ

 家にある『乙女の本棚』シリーズの冊数を数えてみたら20冊以上もあった。現在全36冊とのことで、ここまできたら時間をかけてコンプリートしながら追っていこうと思う。

 さて、こちら『ルルとミミ』。作者は夢野久作。
 「耽美な兄妹」と「死」を描くことの多い夢野久作の中でも、本書はもろにそれだ。『瓶詰地獄』が「罪」をモチーフにした兄妹としたなら、『ルルとミミ』はシンプルに「愛」だろうか。絶望も混じっているだろう。あくまで僕の解釈ですけど。
  

 短編かつ青空文庫で読めるわけで、僕なんかの紹介を読む暇があるなら、直接飛んでもらった方が早い。
 どうしてこの時代にここまで、「死への美しさ」を何度も描いてきたのか。死への甘い誘惑をこんなに綺麗に表現しようと考えたのか。
 夢野久作の儚げな文章と乙女の本棚の美麗な挿絵による相性がとても心地よく、そして悲しい。

・HEADS

 ファッションの本だぜ。
 しかも、服装ではなく「髪型」の流行を追っていく写真集。戦後から今までにどういった流行りが起きて、そのたびにどう人間たちは影響を受け、どのような「ファッション」を纏ったか。
 こうして一から追っていくと、昭和は「女性という枠にとらわれないこと」から始まることからわかる。既存の「女性らしさ」からの脱却、強い女へとファッションによって進化していき、そのたび男性も彼女たちの努力に惹かれていく。現代日本では一周して『地雷系』なる、自身が「そのへんの男じゃ手懐けられない危険物」であることを誇示する服装が流行。が、男も男で進化していったので、今や「地雷メイクの女の子もかわいいね」と受容された。どんどん2次元キャラクターにも取り入れられ、世の中は次のファッションへと移行し始めていっている。
 そしてまた一周していくのでしょう。

 『モンドリアンルック』目当てで見に行った、『イヴ・サンローラン展』でも、女性が強く逞しくカッコいい服装を着て自信をつけてほしいというイヴ・サンローランの思想を満遍なく堪能できた。
 ファッションは、自己表現であるとともに、憧れと気品を纏った自身の魂を磨く行為でもあるのです。

 本書の最終盤でテクノカット……クラフトワークやYMOがやってくる。
 今までのロックで奇抜な格好良さから一転、急にドイツ然としたシュッとした美が到来してくるのだから、ファッションというものはわからない。その時代を築いたアーティストが大衆たちへ新たな可能性を魅せる。


・ヒンドゥー教10講

 いろんな宗教関連を掘っていった中で、ヒンドゥー教は最も難しい。これはもう、変に宗教全体の本から固めていくより、直接読んでみるしかないでしょう。といったことで、電子で探してみた中でこの『ヒンドゥー教10講』へ挑戦することにした。
 ……が、正直言って難しい!
 本書の内容が難しいという単純な話ではない。ヒンドゥー教はインドの成り立ちと密接である。どちらか片方のみを学んでも意味がない。まず、インドそのものを知り、それから今や世界人口一位となった国がどうやって、その秩序を宗教と文化で成立させていくか。順序を立てる必要がある。
 それがわかっただけでも読んで良かった。本書のおかげで「一筋縄ではわからないことがわかった」。ヒンドゥー教は現地の生活や背景を知らねば、教えそのものを紐解いてピンとくるものではない。
 宇宙とは、神とは、人とは、次は『インド』の歴史から知っていこうと思います。

・an omnipresence in wired/『lain』 安倍吉俊画集 オムニプレゼンス [復刻版]


 lainのオフィシャルアートブック復刻版。
 いついかなる時も本の復刻はドキドキしますね。プレミアだった本がファンの期待を載せて現代に復活し、それを欲した一部の人たちへ届く。
 元が希少なだけに、復刻しようともまた新たにプレミアムとなる。おそらく、本書もまたレア物となっていき、数年後の新たなファンが喉から手が出るほど欲しがっていくのだ。本には歴史がある。

 それはそれとして、やはり安倍吉俊先生の絵はカッコいい。
 迫力と艶がある。ここまで芸術性に振った奇異な作品が、ゲームやアニメの形で商業として成立していた時代へ想いを馳せる。

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