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にゃるらが最近読んだ本 5選2023年 6月

↑前回の。

・オランダのモダン・デザイン: リートフェルト/ブルーナ/ADO

 先月の記事にも書いた通り、どんどんデ・ステイル……モンドリアンが切り拓いたシンプルなデザインの美学への興味が止まらない。その意志を継いだリートフェルトの家具や建築にも。
 そして、それらはオランダのデザイン文化へ色濃く影響したことがわかってきました。なのでオランダ生まれのミッフィーは、とてもシンプルに纏まったデザインなのですね。なるほど、こうして少しずつ段階を踏んでいくと、いろんなことがわかってきて楽しい。

 最近、モンドリアンの絵がずっと上下逆に飾られていたことが発覚した。その際、野次馬が「上下逆でもわからないくらい美術館の人たちの目って適当なんだな」と煽っており、それは自分にとってすごく不快であった。
 当然、彼らはただのネットの野次馬で、美術の権威を上から目線で叩けるチャンスに群がったに過ぎないけれど。
 その点、上のうさこちゃんはきちんと理解している。「この絵はいい絵だ。けれど、どこから見ていいかわらかない」。逆に言えば、そもそも構造が美しいので、どの視点で見たって「良い」だろうなと思っているわけです。
 これも僕の想像でしかないが、モンドリアンの絵はタイトル通り「構造」を描いているわけで、それさえ理解しているのであれば、上下逆だったとして魅力を感じたならそれでいいのではないか。なんなら、上下左右、あらゆる方向から見ても味があるからこその、「composition」。それこそ美術館の人ですら判断できないくらい、モンドリアンが完璧なだけで。
 そもそも上下逆の根拠も、モンドリアンの部屋では、上下逆だった写真が見つかったことだけ。モンドリアンがその時は、上下逆に置いていただけの可能性もあるし、あとから上下逆のほうがいいかもと感じた可能性がある。
 なら、「上下の方向も数十年わからなかった美術館の人たち」を責めることなんて誰ができようか。
 という、ちょっとした愚痴でした。何はともあれ、この絵は「良い」よね。

・暇と退屈の倫理学

 この本、めちゃくちゃ面白かったです。
 哲学の話が主なのに、語り手の一人称が「俺」で軽快な文章であることがいい。哲学の難しい点を気取って「わかったように」書かず、「ここ難しいよな! もっと簡単に書けばいいのに! だから多分こうだぜ!」と(もちろん本文はこれをもっとテンポよくスムーズに表現してくれている)咀嚼してくれている。
 そのうえで筆者の思想も強く、過去の哲学者の気に食わない点にはガンガン反論していく。本を出すのだから思想は強くなけりゃつまらない。人間はどう「暇」や「退屈」と向き合ってきたのか、昔の哲学者や人類はどう解釈したか、その意見のどこを肯定して否定するか。
 人間は退屈を非常に恐れる。だから、人間は「暇」で「退屈」と思われないよう、または自分に言い聞かせるように、嫌で嫌で仕方ないはずの労働を行う。しかし、それでいいのか? じゃあ暇と退屈ってなんなのか。
 その答えを探求していくのですが、結論は非常にシンプル。しかし、結論だけ言われても誰も納得しないだろうから、どうしてそうなるのかの「過程」の段階を踏んでいくのだと明記してくれています。
 そう、そうなのだ! どんなものでも結論やテーマは非常にシンプルだ。そこだけ切り取られたらなんでもチープに感じる。そこへちゃんとした筆者の感情や体験が乗って初めて説得力が生まれます。それすらもまず説明してくれている。良い本だ。良い本です。

・不登校・ひきこもり急増 コロナショックの支援の現場から

 コロナのせいで、引きこもりが急増しているらしい。そりゃ何ヶ月も家に籠もる経験を覚えてしまったら、再び通う気力が失くなる子も多いよね。そもそも登校日数が少ないということは、それだけ友人を作るチャンスを失う。友人が居ない場合、学校とはまともに勉強するためだけの場所となる。そんなの嫌すぎるよな。それでも、行ったほうがいいとはいえども。

 そういった問題について、上の日記に書いてみたので読んでみてください。まあ、どういうルートを辿ったとて、人は戦わなければ生きていけないのだから。


・ゲーセン戦記-ミカド店長が見たアーケードゲームの半世紀

 ネット上で有名なゲームセンター『ミカド』の店長によるゲーセン経営のアレコレな本。本人も語っておりますが、ゲーマー視点でなく経営者視点でゲーセンが語られることは極めて稀ではないでしょうか? 実際、「どのゲームが最もインカム率が高いのか」なんて僕らは印象でしか語れない。めちゃくちゃ人気のゲームに客が入りまくっていたとて、利益率やアプデ代、導入金額によっては、ドマイナーなレトロゲームをひっそり稼働させていたほうがお金は入ったりする。そのような事実が書いてあることが面白い。もちろん、ゲームセンターの変遷も読み応えばつぐん!

 僕も、中学生時代はKOFとギルティギア、高校生時代はガンダムのVSシリーズ、上京してからはアイカツ!やプリパラでゲーセンに通っていた。老害のような意見だが、あの薄暗い場所で顔を突き合わせるからこそのコミュニケーションの楽しさは確実にある。
 いまも、深夜の散歩中、中野ブロードウェイ4階にあるTRFの様子を覗くことがある。巨大なビルの深夜に唯一開いているあのゲームセンターに、オタクたちがマイナーなアーケードゲームの大会を開いて熱狂している様子は、遅れてきた青春の輝きがある。

・世界最凶都市 ヨハネスブルグ・リポート

 20代前半で草下シンヤさんにお世話になった身として、彩図社のアングラ本は時折無性に摂取したくなる。そんな彩図社の実録レポート本のなかでも、今回は輪をかけて危険だ。なんと舞台はインターネット上で「世界で最も治安の悪い都市」として語り継がれる『ヨハネスブルグ』だ!
 本書は、まず「インターネット上の噂」がどれだけ真実かどうかから入るので、他のレポート本とはちょっと主旨が違う。まず、噂に尾ひれがつきすぎてわけがわからなくなっている。「外に出た瞬間に襲われる」、「誰もが交通ルールを守らない」、世界で最も治安が悪いとはいえ、はたしてそのようなことがありえるだろうか……。
 この検証時点でおもしろい。実際、どこまでが本当でどこまでが噂かは読んでからたしかめてもらいたいが、所詮ネット民の誇張ってこんなものだよねって気持ちにもなれば、それはそれとしてこれはヤバいな……と驚く部分も多い。「この噂は本当なのか!」とビックリさせられる。
 後半のインタビューで、人を殺してお金を得ることになんの躊躇もない少年が登場する。彼への取材はすごい。「俺は危ないやつだぜ!」と武勇伝として語るわけでもなく、そういう地域なんだから当然と言わんばかりに「自分は銃を使って強盗して暮らしています」と淡々と答えるのだ。まさしく生きる世界、常識の違う世界。そうしなければ生きていけない地域で、殺人が悪か善か、僕にはそんなこと判断できない。

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