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一口エッセイ:忍者戦隊カクレンジャー

 東映公式にてYouTubeで毎週2話ずつ配信されていた『忍者戦隊カクレンジャー』が最終回を迎えました。1話から追って視聴してきたので、50数話分観てきた仲間たちと会えなくなる寂しさを感じております。

 カクレンジャーは幼少期に最も印象に残っている戦隊です。生まれた直後に放送されたスーパー戦隊なので、なにかの再放送かビデオで観ていたのだと思われる。リアルタイムでハッキリとキャラクターを認識しながら観た作品はガオレンジャーあたりからです。
 カクレンジャーは何より雰囲気が素晴らしい。忍者。もう絶対カッコいい要素の戦隊における始祖。シンプルに忍者。あらゆるエフェクトを「忍術」として表現できるので視覚的に殺陣がわかりやすく盛り上がって楽しい。やっぱり分身や変わり身がスムーズに組み込まれると男児に戻ったかのような興奮がある。

 殺陣はスタイリッシュ忍者アクションでカッコいいけれども、重くなりすぎないよう、キャラクターや敵(妖怪)は基本呑気なもので、戦闘中もおふさげつつコミカルな演出とともに進むことも多い。特に追加戦士である『ニンジャマン』は、「青二才」と呼ばれるとブチ切れてモードチェンジするのですが、ニンジャマン登場以降、毎回敵が都合よく「この青二才が!」と発言してニンジャマンを激怒させるお約束が生まれる。煽るにしても「青二才」なんてワードを全員がチョイスするわけがなく、その強引さとお約束パートの痛快さがまた、スッキリとした視聴感を保証してくれます。
 総じて、僕がカクレンジャーを特に好きな理由は、「等身大のコミカルなキャラクターたち」にあるでしょう。彼らは赤がリーダーでなくニンジャホワイト鶴姫がリーダーであり、赤青黄黒は、姫に仕える忍びたちで突然集められただけの普通の若者に過ぎない。ニンジャブラック(ケイン・コスギ)はちょっと事情が違うけれど。最終回でもあくまで白がセンター。忍者は君主の影から活躍するものだから。このバランスは、他の戦隊ではなかなか見れないものだ。
 ただの若者である男たちは、鶴姫とともにバスに乗って各地の妖怪を倒す旅へと出発する。バスの中に大学生くらいの男女がワイワイしながら各地を回る様子は青春そのもの。彼らは忍者でない時はただのお調子者な若者でしかなく、食欲や性欲にすぐ負けるし、くだらないトラブルもたくさん。けれども、通りすがりで子供が妖怪に苦しめられていたら必ず助ける。けっして完全な正義として熟していないものの、ただの騒がしい若者だけれど目の前で困っている人間は放っておけない熱い善性を秘めている。

 この塩梅はOPにも顕著に表れていて、なんとカクレンジャーのOPの歌詞は戦闘や正義の話が全くない。とてものほほんとした優しい歌声とメロディーで、忍者のしょうもない日常を歌う戦隊シリーズでは変化球すぎる名曲。だからこそ、重要回で流れるシリアスに全振りした熱い挿入歌『イントゥーデンジャー・カクレンジャー』の重々しさが光る。間の抜けた兄ちゃんたちがなんだかんだ決めるとこは決めるを続けているうちに、3クール目からは第二部「青春激闘編」が始まり、ここからはだんだんと忍者の使命に目覚めたサスケ(赤)たちの精神的成長が描かれていく。始めは成り行きでヒーローをしていた若者が、だんだんと正義を宿していく過程をじっくり見ることができるのだ。そのうえでギャグ回だって最終盤までたっぷり。コンセプトのブレなさが満点!
 最初から「悪は絶対に滅ぼす!!!」といった主人公然とした熱血はまったくない。子供の頃からその空気をなんとなく感じていて、熱苦しくないゆえに等身大のマヌケな若者集団へ感情移入し易く、そのうえで彼らが少しずつ、少しずつ成長していく様に心打たれる。そもそも、バスで寝泊まりしながら絶え間なく移動し続けている日々という状況がもう良いよね。基本はテントとかで寝てるし。忍者である以前に、青春として貴重な時間を過ごしているんだなって爽やかさが良い。
 そこへ、忍者・妖怪というデザインやアクションでは外さない要素が融合し……総じて仕上がりとして毎回毎回「楽しかったなあ」と童心に帰った素朴な気持ちになれる。瞬間的な熱さ・ストーリー性では話題になりづらいが、だからこそ全体を通してつねに満足度が高い、そんな戦隊だったなぁと彼らの旅の跡を振り返ってしみじみする。今日もどこかで人に隠れて悪を切っているのだろうか。現代の忍者は変身するまで、ただちょっぴり優しいだけの普通の青年なのだ。


 今月内でBOOTH閉めます。合同誌2種が数冊だけ残ってます。

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