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怪奇!怪獣オタク小僧vs金髪オールバック義父

 今日、中野ブロードウェイを散歩して新たな怪獣ソフビを購入し、「部屋のどこへ飾ろうかな♪」とうきうき気分の際、行動が子供の頃と一切変わっていない感覚が急に襲ってきた。
 そこでちょっと高校生時の自分を客観視してしまったのだ。主に義父との関係のことを。
 僕が30年間の人生のなかで最も苦しかったのは、母親が再婚した高校生の頃だ。間違いなくこの時が圧迫感のピークで、突然生活の中へ知らない金髪オールバックの男が発生する恐怖に比べたら、逃げ出すように上京して以降の問題はまだ耐えられる。なので、僕は今を悩んでいる中高生のオタクボーイだけは明確に優しくするようにしています。
 こう書くと一方的に義父を悪く書きすぎなので、向こうの視点から考えてみよう。
 まず、再婚はもう仕方ない。男と女、それだけなのでもはや止めようもないし、お母さんだってずっと一人じゃ寂しいだろう。高校生の頃は思春期すぎて再婚自体にキレていたけれども。「息子が居るからいいじゃないか!」と本気で考えていた。よくよく思い直すと、ろくに学校もいかずひたすらレンタルした特撮や深夜アニメを視聴する日々のオタクと二人きりでは不安しかない。
 僕の母親が美人だったのなら尚更仕方ない。僕と同じく大きな瞳をしているし、トルネコの大冒険2で99階ダンジョンをクリアしたし、Dr.マリオがめちゃくちゃ上手い。
 それでなんやかんやあって再婚した。そうしたら自動的に母親の息子もセットである。義理の子供、思春期真っ盛りの男子高校生……はてさてどんなクソガキかなと思ったら、セガサターンで中古のギャルゲーに勤しんだり、まだ配信サービスが整備されていない時代なので昭和特撮やロボOVAを観るためビデオデッキを大切にしているオタクが登場するわけである。こちらは「金髪オールバックの輩がきた!」と反射的に身構えるものの、向こうは向こうで「絵に描いたような引きこもりオタクがいる!」と、互いに瞬間的に「こいつとは相容れない」と理解する。
 で。義父側は「こいつは生まれつき父親もおらず鼻の病気で運動もしないから弱々しいんだ、このままだとこいつの人生は危ない!」と直感し、義理とはいえ初めての父親の使命として息子の性根を叩き直そうとする。まずは無理やり学校へ行かせる。酷い……まさか朝から学校に登校させるなんて……と悲しみつつ、家にいると義父と顔を合わせることになるので素直に自転車を飛ばして工業高校へ向かう。たまにそのままゲーセンか本屋で時間を潰したりしながら。
 もちろん家では怒られまくり。「アニメばっかり観るな!ゲームしか得意なことないのか!」と怒鳴られ続ける。「失礼な!僕は足だけでウルトラマンの区別がつくんだぞ……」と無意味にキレつつ、とにかく義父から逃げまくる。家出して空港や公園に寝泊まりしたり、似たような境遇の友人の家に入り浸ったり。家に居たくないので逆にアルバイトへ精を出した。お金が欲しかったのだ。仮面ライダーのフィギュアーツと呼ばれる立体物が当時は3000円台で、一晩働けば一体買える。お気に入りはイクサ。今では価格高騰して一体一万円もざらの時代だ……。
 で。学校に行かないくせして、居酒屋バイトへは積極的で、日に日に家に特撮玩具や本が増えていく。おもちゃ弄りか本読んでない時はつねにパソコン。まともな労働者である義父(美容師)視点で将来性0の息子に強く「指導」するのも頷ける。とはいえ、僕はもうずっとこういう生き方……なんなら30歳になった今も趣味と生き甲斐は一切変わっていない折り紙つきだからどうしようもない。折衷案として「上京してから一生会わない」と両者の思惑は一致。「引越し代くらい払うから内地へ行ってこい」は、要するに「できる限り互いに触れない人生にしよう」の合図である。二人の唯一共通する思いとして「母親に迷惑かけたくない」がある。旦那と息子がバチバチな状態で心労になるのは辛かろう。僕も一人暮らしなら誰にも邪魔をされず部屋をフィギュアと本で埋めることができる。

 だから、僕の部屋はつねに整理整頓が行き届いて不気味なくらい清潔なんだ。念願叶った自分だけの巨大なおもちゃ箱だから。

 規模は違えども、高校生時点ではほぼこんな感じの部屋であった。新たな息子が学校に行かずここに引きこもっていたら、大人として叱るしかない。僕は絶対にこの性分が治るわけがない。二度と顔を合わせる気はないが、落ち着いた今は一方的に義父が悪いと主張するつもりはない。
 本日買ったソフビ、プリズ魔。これが二万円を越えるわけで、一般的な中年男性の理解できる範疇にないものでしょう。不幸なすれ違いだぜ。

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