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選り抜き一口エッセイ:精神科医の魔法

 基本的に精神科の先生は、患者の気持ちを安らげてあげるため、相談された悩みに対して巧みな返答をしてくれます。
 たとえば、「最近眠りすぎて困っているんです」と話してみると、「それはあなたが普段頑張っていたり、他人より生きづらかったりするのだから、その分多く休むのは当然のことだよ」といったことを話す。このように、相手を一安心させる話術に長けているのですね。
 理屈はどうであれ、お医者様の立場で「あなたは大丈夫だよ」ときっぱり言うことにより、患者の気が休まる魔法をかける。患者も患者で、「それでも僕はこんなにダメ人間なんです」と負の魔力で対抗し、そして先生はさらにそれを包み込む強力な魔法で返す。診療とは、精神科医と患者による魔法の掛け合いなのかもしれません。
 例に漏れず、僕も僕で先生に対して、「自分はこのような短所や欠陥がありまして……」と相談するのですが、それに対して「でも文豪ってそんなもんだよ」と諭すようになりました。
 そう、先生は「僕が文章を書いていること」の一点に張り、「文豪たちこそ欠点だらけなんだからアナタもそれで良いんだ」という最強魔法を繰り出したのだ。まあ当然僕は文豪でもなんでないのだが、要するに「多少のトラブルなんて気にしないくらい、作品や文章の出来で勝利しなさい」と仰る。これを言われると納得するしかない。「力を持てば全て解決する」は真理だ。そして、これは魔法を超えて「成功しろ」という「呪い」でしょう。夢ってのは呪いと同じなんだ。

 毎日の日記をまとめたエッセイ集新刊からの選り抜きです。興味を持っていただけたら、ぜひ手に取ってみてくださいね。

 商業エッセイ集もよろしくお願いします。精神の話もちょくちょくありますね。

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