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エッセイ:はやくにんげんになりたい!

 闇に隠れて生きる俺たちゃ妖怪人間なのさ
 人に姿を見せられぬ獣のようなこのからだ
 はやくにんげんになりたい!

 「妖怪人間ベム」は、仄暗い実験室の人工細胞が分裂して誕生した妖怪人間たちが、その異形の姿を隠しながらも人間になるため必死に生きる昭和の名作アニメです。なんと暗い設定!
 「フランケンシュタイン」が下地にあるのでしょうね。望まぬ姿で生まれたモンスターが安息の暮らしを求める……。フランケンシュタインの怪物は、自らを生み出したヴィクター・フランケンシュタインに復讐する目的が芽生えますが、ベムたちは誰を怨めばいいかすら分からないまま、善行を積むと人間に生まれ変わると信じて、今夜も悪と戦い続けます。

 「はやくにんげんになりたい!」、僕もそう思います。人間になりたいですね。すぐ他人の顔色をうかがってしまったり、怒られるのが怖くて過剰に物事から逃げてしまったり……。暗いさだめを吹き飛ばす方法は向精神薬か過眠。
 最近はベルソムラという睡眠薬を飲んでまして、これの副作用が悪夢だとは前にも書いた気がしますが、要はレム睡眠が長くなるので起きても夢を覚えている確率が上がる訳です。って、精神科の先生が言っていました。
 先生に「ベルソムラのせいで悪夢ばかり見ます」と相談したところ、「でもネットでネタにできるからいいんじゃない?」と返されました。その通りです。なんと理解のある先生なんでしょう。先生の仰る通り、僕はこうして愚直にベルソムラでの悪夢体験を嬉々として文章にしているのです! 俺たちゃインターネット人間なのさ。

 最近は、何者かに説教される夢を見ます。直近でやらかした失敗を執拗に責めるのです。僕はとてもみみっちく陰気な存在なので、日常の反省が延々と脳内を反芻。油断すると即悪い思い出が頭蓋骨を激しくノック。
 また他人の発言の意図を正しく理解できなかったな! また朝起きれなくて待ち合わせに遅刻したな! また難しい本を読むのを投げ出したな! またTwitterで余計な発言をしたな! また調子に乗って浮かれた連絡をしたな! また追い込まれて自分に都合の良いウソをついたな! また! また! また!
 自責の念で僕の脳内は激しくシェイク。寄せては返す大反省会の波に耐えかね飛び起きると、寒々しい深夜の暗闇に向かって叫ぶのです。はやくにんげんになりたい!

 朝に起きて夜に眠れば、ちゃんと三食正しい食事をすれば、適度な運動をすれば、他人の話を理解する癖をつければ、早口で一方的にしゃべる悪癖を止めれば、すぐ睡眠に逃げる精神性を改善すれば、そして善行を積んでいけば、僕もいつかは人間に生まれ変わるのでしょうか。
 そもそも本当に人間になりたいのか? 本当は人間社会に馴染めず闇夜に活動するゴシックな生き様に酔っていないか? 部屋をドールやグロテスクな怪獣のフィギュアで埋め尽くして、現実から離れて怪奇と耽美に溺れていたいんじゃないか?
 フランケンシュタインの怪物は、自分と同じく怪物の女性を造ってもらい、二人でひっそりと暮らそうとしました。ベムたちは異形ながらも、おなじ妖怪人間の3人はつねに団結しております。
 実は真に大切なのは人間になることでなはく、仲間をつくって現実からさらに逃避することではないだろうか。同じ妖怪人間で月夜に向かって吠えることが何よりの精神安定なのかも知れない。
 それでは、深夜にこんな駄文を読んでいるあなたたちもご一緒に。はやくにんげんになりたい!

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