選り抜き一口エッセイ: 僕は死臭がわからないので
子供の頃、ネズミの死体を見つけたのが嬉しくて、袋に入れて家に持って帰りました。死んだ状態のネズミを見たのが初めてだったので。
帰宅すると母親が異変に気づいて、恐らく僕がものすごく臭いモノを持ち帰っできたから、その時点で不審に思ったんですね。「なに持ち帰ってきたの!」と錯乱している。
でもって、僕は嗅覚が生まれつきないので「死臭」の概念に気づかない訳です。持ち帰ったものがなぜネズミの死体のようなものだと見抜かれているのかわからなくて、「何かを持ち帰ってきた」こと自体に怒られたと思ったのです。
それで僕もパニックになっちゃって、とりあえずネズミの死体を見せたんですね。そしたら、さらに母親はめちゃくちゃ慌てて、「なんでこんなもの持って帰ってきたの!」と怒鳴っている。死臭がすごく嫌なんだろうけど、死臭を知らない僕はネズミの死体がなぜ悪いのか、汚いのか分からない。ただ悲しくなって、とりあえず捨てて戻ってきて謝ったのですが、何に謝っていいのかもわかっていない。僕は何かを拾って持ち帰ることを許されていないのか? って、ずっと間違えて悩み続けました。
後に死臭や腐敗の概念を知った僕は、ああ嗅覚のない僕は、自分が人間として腐っていき始めたとしても、それを自分で嗅いで気づくことは、自覚することはできないのかとビックリした。もしかすると僕はもう既に腐っていて、周りはそれをとても不快に思っているのではないかと、すごく怖くなりました。
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